第10話 【聖域】のヒナビ
相変わらずの白装束に赤の帯を巻き、刀を二振り差している。東国の戦士は皆こんな格好だそうだ。
「ヒナビ。ようやく戻ったか。大賛礼祭を欠席するとは、よほど偉くなったと見える」
シャルパンは尊大な口調で返した。シャルパンは基本的に俺以外の人間を見下している。それは他の四聖憲、ひいてはウルスラ様とて例外ではない。
「申し訳ありません。私がついていれば、ユークどのの乱心も、血を流さずに防げていたかもしれません」
「図に乗るな、小娘」
シャルパンは珍しく怒りを露わにする。
「お前に止められる程度のことなら、とっくにユークどのが先手を打っている。甘く見るな。私の主人を」
「とんだご無礼を。申開きのしようもありません」
対するヒナビも、腰は低いが、恐れをなしている様子は全く無い。賢竜相手といえど、いざとなれば斬り捨てればよいくらいに考えているのだろう。
「国賊ユーク・イーゼルベルクをこの手で討ち取れなかったこと、大変恥じております。ライアンどのはよくやりました。聖女様を傷つける不逞の輩を屠ったのですから」
ヒナビはそんな風に俺を貶めてきた。腹が立たないわけではないが、唯一事情を知るカサンドラは昏睡状態。そのうえその場にいなかったヒナビであれば、そう考えるのは当然か。
「貴様……口の利き方に気をつけろ」
シャルパンは今にもブチギレそうだ。
「シャルパン抑えろ。俺の正体がバレたらマズい」
俺は必死に説得するが、シャルパンはずんずん進み出ていく。
「私の主が、理由もなく聖女とやらを傷つけると思うか?」
「ではどんな理由があったのです? あなたは、久々に気を許した人間が乱心した事実を、認めたくないだけでしょう。今なら間に合います。聖女様に謝罪してください」
「なんだと?」
ヒナビのやつ、なんてことを言い出すんだ。シャルパンは関係ない。俺の契約獣というだけだ。
「あなたは国賊ユークの使い魔です。主人の責任を取り自害してもいいくらいの存在。それを謝罪だけで許してやろうと言っているのです。私の恩情に感謝していただきたい」
「いい加減にしろ!」
俺は思わず叫んでいた。
俺の仲間であるシャルパンをここまでバカにされておいて、黙っているわけにはいかない。
「なんだお前は? 雑魚冒険者が口を出すな」
「殺す!」
シャルパンは腕をドラゴン化させ、殴りかかっていた。だが。
「エリアスキル【禁裏御料】」
途端に純白の結界が展開され、シャルパンは弾き飛ばされた。
「もういい。トカゲ風情と話すのは疲れる。食っていいぞ、【白鬼】」
ヒナビが命じると、虚空から一対の剛腕が出現し、シャルパンの首を締め上げた。
「あがっ、ぐっ」
シャルパンはこの狭い洞窟の中ではドラゴン形態になれない。それを分かっていての襲撃タイミングか。
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