第9話 聖典の真実
ルーライ教の聖典では、荒ぶる神をルーライ様が諌め、全種族に平等をもたらしたとされる。その【荒ぶる神】が、こんな珍奇な機械だというのか?
「どんな兵器なんだ?」
「地球上空を複数基で飛び回り、太陽光を集束させて光線を放つものです。反逆する者は誰であれ、即座に焼き殺されたといいます。なんせ、この地球上に逃げ場なんてないのですから」
俄には信じがたい話だ。だが、聖典に登場する太陽神ヘリオスは、記載が少ない。聖使徒ルーライ様の栄光を讃える書物なのだから当然だが、正体を隠すため、敢えて書かれなかったとも考えられる。
「本当にそんなことが?」
「もうすぐ夜が明けます。そうすれば、信じざるを得ないでしょう」
「どういうことだ?」
「あちらを見てください」
見ると、地下の洞窟に光が射し込んできた。おかしい。かなり深くまで潜ったはずだ。なのになぜ?
「これは……」
天井に空いた無数の穴から、夜明けの日差しが射し込んでいた。どれもとても細い穴だ。
「洞窟に逃げ込んだ我らの先祖も、ヘリオスによる迫害を受け、死んでいきました。ただ、皆殺しにはしなかった。明確に反逆の意思を示した個体のみを、ピンポイントで狙撃していったそうです」
この穴は、ヘリオスからの狙撃によるものなのか。洞窟内で人間に化けたドラゴンですら個別に抹殺する。恐ろしい兵器だ。
「まさか、ベリアルの正体は……」
「そこまでは分かりません。ただ、私はヘリオスの管理者ではないかと思っています」
「つまり、ルーライ様が『悪魔を封じた』という記述は……」
「ヘリオスを操作していた何者かを行動不能にし、神の圧政から全種族を救った、ということかと」
「そんなことがあったかもしれないのか」
「あくまで仮説ですがね。どうです? 却って信仰が深まったのでは?」
確かに、聖使徒ルーライ様が英雄的人物であるという事実の信憑性は、かなり増した。
「変わらないよ。俺たち聖騎士は、最初から教会に殉ずる覚悟を決めてこの職に就く。聖典の真実がなんだろうと、俺達は最後までルーライ様を信じ抜き、教会の打ち立てた秩序を守る。それが、筋を通すってことだ」
シャルパンはキョトンとしていたが、やがて笑い始めた。
「ハハッ、確かに。真面目なユークどのならそう言うと思いました。敬虔な聖騎士らしいお言葉です」
「悪いか? 笑われるようなことを言ったつもりはない」
「いえ、逆ですよ。転生しても変わっていないその心根に、感心してしまっただけです。変わりない様子に、ホッとして笑いが出たのです」
「なんだか言い訳がましいな」
「まぁいいじゃないですか。聖騎士としての誇りは揺らがなかったのですから」
「そうだな」
「見つけた」
不意に背後から声がした。この声は確か。
「シャルパン様。お戻りになられたのですね」
四聖憲の一人、【聖域】のヒナビこと、ヒナビ・オオカガリの姿が、そこにあった。
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