第8話 旧時代の遺物

「やっぱ勝てねぇ!」


 竜の里に着いてから丸一日が経った。シャルパンとの組手も14回戦目に突入したが、やはり組伏せられない。アルクスの身体ではまだまだ届かない。


「策士策に溺れる、ですね。膂力が足りないぶん、技や工夫で乗り切ろうとしているようですが、それでは無理があります。やはり生前のユークどののように、思い切りがよくないと!」


 シャルパンはそんな無茶を言ってくる。こんな身体で思い切りよく攻撃などしたら瞬時に隙を突かれる。だが、そうして縮こまっていてもジリ貧なのは確かだ。


「分かった。分かったから休ませてくれ。休養しないと筋肉も育たない」


「いいでしょう。里長への挨拶も済ませましたし。しばらく寝ていてください」


 そう言ってシャルパンももとの姿に戻り、目を閉じた。


 暫くして起きると、既に夜だった。もう明け方近い頃だろう。


「さて、文献とやらを見たいのだが」


「案内しましょう」


 松明をもって進むと、洞窟の奥には、巨大な地下迷宮が広がっていた。どこまで行っても壁が続く。いつになったら出口に着くんだ?


 だが、不思議と埃っぽくなく、かび臭くもない。


「弾圧時代のドラゴンは、人間の姿に化けて隠れ住んでいました。この迷路はそのときの名残です。そんな暮らしをしていたのが2000年前から1000年前までのこと」


「確か、その時代を知る悪魔はベリアルだけだって話だよな?」


「そうです。かつてのドラゴンは、神の圧政に苦しめられていました。太陽神ヘリオスの前では、人間のみが尊く、他の種族は下賎とされていましたから」


「おかしな話だ。人間にはドラゴンほどの知性も力もないというのに」


「本当になにも伝わっていないのですね」


「え?」


 俺は曲がりなりにも教会の中枢にいた人間。神学や歴史学にも詳しいつもりだったのだが。


「神の正体について、嫌でも分かる資料をお見せしましょうか? さて、着きました」


 複雑な幾何学模様の描かれた壁の前に立つと、ひとりでに壁に亀裂が入り、扉のように開いた。


「これは?」


 目の前には、よく見る地球儀。つまりこの星の模型がある。不可思議なのは、その上空を周回している謎の球体だ。月や星というわけでもなさそうだ。


「これが神の正体です」


「説明してくれ」


「旧時代の遺物、衛星兵器【ヘリオス】。ただの人殺しの道具です」


 シャルパンは、なんでもないことのように言ってのけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る