第4話 行き当たりばったり

解散した五人は各々の部屋へと戻って睡眠を取った。話し合いの結果、朝一番に曹参が紹介した蕭何の生まれ変わりとやらを訪ねる予定であったが、疲労困憊の五人がおきた時間は、もはや夕方に突入した午後四時の数分であった。

 この長時間睡眠が原因で、ホテルの延長料金を払わされる羽目になり、まともな金なんぞ持っていない五人はなけなしの資金を払うこととなった。ほとんど一文無しとなってしまったが、こんなところでグズグズしていれられない。目標は蕭何である。

 そうであるからチェックアウトを済ませて、いよいよ役所に向かおうとしたが、地図を調べてみるとここから非常に遠い。もう一回泉山区に戻らなければならない。  

 しかも推挙されたもう一人である曹操も、現在泉山高級中学に通っているらしく、これも泉山区まで戻らなければならなかった。

 まともな交通費すら持っていない五人は、いつぞや遺棄してきた軽トラを頼るしか無い。しかたなく、軽トラを置いてきたコンビニへ行くと、なんとびっくり、大破しているではないか。

 それはおそらく鈍器で滅多打ちにされたであろう大破の様子だった。もちろん犯人はすぐに分かる。項羽であろう。やられたのが人間ではなく車であったのが不幸中の幸いである。

「むむむ、どうするよ?ここから歩くのか?」

 劉邦は明らかに嫌そうな顔であった。地図アプリで調べると、ここから目的の役所や学校に行くには軽く一時間を超えるからである。

 それに白昼堂々と歩き回っては、項羽に見つかるのではないか。感情的な面でも、損得的な面でも、歩いていくのは非常に悪手であった。

 そこで夏侯嬰は

「おそらく我々は蕭何どのや曹操共よりも圧倒的に足がありません。ここは近場の九龍湖公園に待機して、来てもらうようにしましょう」

 と、言うと、それが採用されることとなった。

「流石に協力を仰ぐののだから、自分から赴いたほうがいいのでは」という意見も出たのは出たが、そこは中国で初めて長期的な統一王朝を完成させた漢の高祖劉邦の徳と威名がなんとかしてくれるだろう、という結論になった。

 ということで、曹参が蕭何に、夏侯嬰が曹操に電話をかけることとなったが、どうも蕭何には連絡がつかない。そして曹操にも連絡を取ったらしいが、要件を伝えると軽く受け流されてしまった。

「ぬぅ……年上を馬鹿にしおって……!」

 電話越しに感じられた曹操の態度の如何を聞いてこういう怒りを覚える劉邦であったが、しかし、どちらからも協力が仰げそうにないので、進退極まってしまった。

 しかたがなく、困った五人は、ひとまず難から逃れるために、橋の下に起居を移すという計画を打ち立てて、不本意ながらこれに従うことで合致した。まあ、臥薪嘗胆という言葉もあるし、前世においても旗揚げするまではこういう浮浪者生活まがいの暮らしを送っていた者も多かったから、正直なところ慣れたものであった。

 ということで黄河故道の上にかかった慶雲橋の橋下に、そこら辺で見つけてきた段ボール廃材で仮小屋を作り、先の見えない浮浪生活が始まったのだ。まさか、項羽も、こんなホームレスが宿敵劉邦だとは思わないだろう。それにやつは妙に感情的なところがあるから、こんな見窄らしいところを目にしたら、逆に同情さえするかもしれない。今は耐えるしかないのだ。

 それは確かに安全な暮らしであったが、しかし同時に苦しくもある。まず何よりも不自由で、小便も大便も川に向かってする羽目になるし、衣服だって殆ど無い。

 劉邦はこういう、ネズミのような生き方に対して多少の慣れを自覚していたが、それは前世の男の姿での自信であって、この時代の女としての浮浪生活は明らかに勝手が違った。

 そしてなによりも金が無い。土手の下に構えた哀れな段ボールハウスに出入りする劉邦の姿には、中華全域を統一した皇帝としての威厳が全く感じられなかった。

 いっときは泉山区のお世話になった酒屋に転がり込もうとも考えたが、おそらくそこら辺りは項羽に目をつけられているから、この計画は頓挫した。

 さて、二日、三日とそういう暮らしをしていた頃の、夕暮れ時であった。橋の上に足腰もおぼつかない、哀れとも言うべきような見た目の老人がいたが、彼は何を思ったか、橋の上から自身が履く靴をぶん投げた。それは劉邦の段ボールで作った禁中(自称)の近くに落ちた。橋と土手下はずいぶんと離れているから、軽い靴であってもとんでもない勢いで、靴先が地面に突き刺さっていたくらいである。

 これをみた樊噲は、橋上の老人を怒鳴りつけようとしたし、劉邦もまたどつきまわそうと一時は思ったが

(まあ、ボケ老人だし、仕方ないか)

 と思いを改め、わざわざ橋下まで上がって靴を返してやった。

「おじいちゃん、靴落としましたよ」

 といって差し出した彼女は、老人の耳が遠いことをいいことに

「あと施設から逃げてきちゃだめだろ。殺すぞ、じじい」

 と小声で真正面からいったが、老人は聞こえなかったようで

「ははは、いやありがとうありがとう。お礼がしたいから、明日に早朝、九龍湖公園にきなさい」

 と笑顔を見せて帰っていった。

 なぜ明日の朝、それも、なぜ公園、と思ったが、お礼がもらえるのならばそれに越したことはない。ということで翌日、朝の八時ごろ、人目を避けて公園に行ってみると、湖を一望できる広場のベンチに、かの老人がいた。

 劉邦は自分が靴を拾ったものであるということを知らせるために、手を振りながら近づいていったが、老人の顔がはっきり見えるぐらいになると、

「おそい!年長者を待たせるとは、何事か!明日に出直してこい!」

 と老人は怒り、そのまま帰ってしまった。

 「なんじゃあいつは」と、劉邦は血が逆流するほどの怒りを感じ、そのままあとをつけてしばいてやろうかとも思ったが、しかし今は追われている身ゆえ、大事は起こせない。それにお礼の内容が気になったから、仕方なくその日はあの橋下の哀れな我が家に帰った。

 そして翌日、今度は時間を早めて、朝の六時頃に公園に向かってみると、予想に反して老人は既に公園にいた。あのキ◯ガイ老人のことであるから、またしても「遅い」といって怒鳴るに違いないが、一応近づいてみると案の定、

「まだ遅い!明日出直せ」

 と吐き捨てて帰ってしまった。

 さて、それを受けての次の日、というか同日というべきか。劉邦は日付が変わる前の深夜から公園で待機を開始した。

(あのじじい、こうなったらお礼を意地でも貰ってやる。で、それがつまらんものだったら、しばいてここの湖に沈めてやろう)

 と、思いながら、彼女は夜風に長い髪をなびかせながら待った。

 数時間もなんとか心を折らず待機していると、ついに午前四時を少し回ったところ、あの老人が笑顔を作って公園に姿を見せたのだ。

 長かった。その間のおよそ四時間、暇と大きな睡魔を、樊噲、夏侯嬰、曹参の三人が単発バイトで稼いだ金を以て購入したコーヒーで凌いでいたが、ようやく報われそうである。

 老人は笑顔で劉邦に近づくと

「ははは、その心意気が宿縁を結ぶ」

 と、意味ありげな言葉をいったかと思うと、体中から白い煙を発して、姿が見えなくなってしまった。

 ようやくその煙が宙に消えていって、老人の体が見えると思ったら、そこには彼の姿なぞ微塵も見えず、あるのは手のひらに収まる程度の大きさの黄色い石であった。

「は?どういうこと?これがお礼?」

 と、その黄色く輝く石を手に持ってみると、異常に軽い。ほとんど丸めた紙を持っているような感触である、それはその石が尋常のものではない、ということを告げているようだった。

「なんじゃこりゃ」

 こんなものは金にもならない。それになんの石かもわからない。結局、早起きしたのがすべて損になってしまった。

 そう思って帰ろうと決意した劉邦であったが、にわかに後ろから

「すみません、その石……」

 という、女の細いが綺麗な声が聞こえた。

 後ろを振り返ってみると、そこには容姿端麗の美少女ともいうべき、細い女が風にすら吹き倒されそうになりながら立っていた。

「その石、もらってもいいですか?」

 と彼女の指差すところは、劉邦が手の平に乗せた黄色い石であった。

 一応老人かもらったもので、しかも貰うまでに苦労を要した石であるから、そのまま手放すのは惜しい。そしてこの数日間、まともなものを食べていない劉邦は非常に腹が減っていたから、大変狡いことではあるが、

「上げるけど、その代わりご飯奢って」

 と、交換条件を示すこととなった。

 

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 訪れた場所は二十四時間営業のファミリーレストランで、時間も時間な故に人数は非常に少ない。

 そんな店で一人、数週間ぶりのまともな飯を下品に食い散らかしていた惨めな乞食が劉邦であった。

「その石を探しに、徐州まで来たの?」 

 一通りの定食を食べ終わると、劉邦はそういう疑問を投げつけながら、再びメニュー表に目を通した。彼女は遠慮という感情が欠乏しており、奢るという条件を相手がのんだ以上は腹がはち切れるほど食い尽くすつもりであった。

「ええ、まあ、各地を転々としながら、ここまで来たわけですけど」

 彼女もまた、頼んだサラダを食べながら答えた。彼女のいうようでは、出身は河南省で、あの黄石を探すために省をまたいで江蘇省まで来たらしい。

「にしてもなんで江蘇省の徐州市に?ここにあの石があるって教えてもらったの?」

 と劉邦が聞くと

「いえ。直感で」

 と答える。

「直感でわかるもんかね。あんなちっさい石の居場所が」

「まあ、もともと来てみたかったんです。私の元恩人、と言ったらいいんでしょうか。その人の出身地なので」

「ほーん、あ、でもそれさ、なんかきっしょい爺さんからもらったよ。別に難癖つけるわけじゃないけど、そうとう怪しいよ、それ。気をつけたほうがいいんじゃない?」

 「爺さん」という言葉に反応して、美少女は

「いや、それでいいんです」

 と笑った。

 それにしても、彼女は白面で小さい顔に高い鼻をつけて、睫毛長く目は可憐、という絵に書いた美少女であったが、体が細い。劉邦はどちらかと言えば豊満な体つきであるから、この様な華奢に対して、何かと心配していた。

 そこで

「にしても、ちゃんと食べてる?細すぎない?死ぬよ?」

 と聞いてみると、

「私、穀類食べませんので。あれは神仙の気を邪魔しますので」

 と美少女が返す。

(ああ、結構思想が強いのね、この娘)

 と劉邦はそれ以上深入りしなかった。

 さて、たらふく食べて大満足といったところで、ファミレスの入口がドカっと音を立てたかと思うと、入ってきたのは血相を変えた曹参であった。

「こんな所にいたんですね!そんな呑気に食っている場合はありません!一大事です!」

 曹参は劉邦に掴みかからんばかりの勢いで近づき、そうやって大事を伝えると、事の経緯を語りだした。

「ついさっき、今まで連絡が取れなかった蕭何どのとようやく連絡が取れました。これまで音信不通であった理由は、仕事が激務化したからだそうです。そして、その理由。ここからが大事ですから、よく聞いておいてください!」

 劉邦の目をじっと睨んで、一言一句も聞き逃すな、という気迫を送ると

「いいですか。私も蕭何どのも刑務を担当していますが、ここ徐州市の刑務所で大掛かりな脱走事件が起こりました。しかしこれは他人事ではありません!裏であの红龍幫が、そして項羽が関わっているんですよ!脱獄と言いましたが、決して隠密なやり方ではありません。正面突破の荒業で、それこそ項羽並の豪傑が関与したとしか言いようがありません。更に脱獄した犯人の姓は『英』と『彭』です!これが何を意味するかわかりますか?」

 劉邦は顔が青ざめて呼吸も粗くなった。それはその「英」と「彭」という姓を聞いたからで、彼女は乱れた息遣いで

「ま、まさか、英布と彭越の生まれ変わりだとでも?」

 と聞き返した。彼女としては「違います」という返答を心待ちにしていたが、現実は非情、曹参もまた顔を青ざめさせながら

「そうです」

 と返答した。

「なんということだ!こうしちゃおられん。今にでも逃げないと殺される!」

 劉邦がこのように焦る理由は、項羽に加えて更に彼女へ恨みがあるであろう彭越と英布という輩も事態に与したからである。

 彭越とは、楚漢戦争時代に劉邦率いる漢の陣営の一派として活躍したが、劉邦の大一統の後は、謀反を疑われて殺された。しかもその処理が残虐で、彭越は謀反人の無慈悲な末路として死体の四肢を切断され、塩漬けにされた。そして後、多数の臣下に謀反を起こせばこうなる、という標本として利用されたのである。

 この様なところから、劉邦を恨む動機は十分、それどころかこの世界に劉邦が生きているということを知ったならば、殺したくてたまらないであろう。

 そして英布。こちらも楚漢戦争時代は漢の臣下として戦ったが、結局統一後は謀反を疑われた。特に彭越の塩漬け肉が届いたところで、疑いは晴らせないと悟った彼は、成功するかどうかが一か八かの反乱を引き起こし、結果的に劉邦はこの反乱で負った傷が原因で崩御した。

 項羽と英布の恐ろしさは劉邦自身が誰よりも知っている。彭越の遊撃上手が敵の体力を如実に削ぐことは劉邦が最も知っている。そして、この度、そんな三人が一同に介して彼女の命を狙うこととなるかもしれないのだ。

 確かに英布、彭越、項羽の三人はお互いに因縁深い三人であるが、しかし、劉邦を殺すという目的の下であれば団結するに違いない。

 こうしてはいられなかった。劉邦はその場から勢いよく立ち上がり、反動で机上の皿はガタガタと揺れ動き、彼女は一目散に店から飛び出して橋下へと逃げていった。もちろん、お代も払わず、そして奢ってもらうはずの美少女も、そして曹参をしり目にして。

 

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 取り残された二人であったが、曹参もまたグズグズしていられない。

「あ、その人がすみません。お代は払いますので」

 とそこからを失礼しようとしたが、

「あ、いえ、私が払うつもりですから、いいんです」

 と彼女は制止した。そして

「そんなことより、あの人のお名前は?聞き忘れていたんですが」

 と言う。

「え、あの人と知り合いじゃなかったんですか?もしかして!あの人、あなたに乞食まがいのことを……?」

「いいえ、違います。そんなことより、お名前はなんといいます?」

「ああ、あの人は劉 邦佳といいます。私は……」

 曹参が自分も名乗ろうとしたところ、

「私は張 心良です。あなた方の話を聞くところ、張良、字子房といったほうがいいかもしれませんが」

 と俄に名乗ったので、その急な告白による衝撃で、曹参はいっとき呆然として口も聞けなかった。


✕      ✕      ✕

 

 橋下の段ボール小屋、命名「禁中」の中で、劉邦は持ってきた布団を深く被っていた。そうでもしないと、見つかって殺されてしまう、という恐怖があったからである。

 同じく橋下の仲間たち、三人には事が解決したら自分を起こせ、といってすべてを任せた。あとはこの禁中につけた扉を、味方が開いて、そして「すべて終わりました」という言葉を聞くだけである。逆にいうと、劉邦にはそれしかできることがなかった。

 しかし、扉を開けたのは、意外な人物であった。樊噲でも、夏侯嬰でも、盧綰でも、曹参でもない。あの美少女、すなわち張良であったのである。

「まさかこういった形で再びお会いできるとは」

 という声は至極落ち着いていて、他の者達がみせた感動の感情は感じられなかったが、その奥底には温かいものがあったと感じられる。

 布団から顔を出した劉邦は

「あ、さっきの……」

 と顔を認めて

「誰なんだ?名前も聞いていなかった」

 と言うと、彼女は拱手して

「張良、字は子房です」

 と言ったので、劉邦の目には生気が宿った。

 今までは絶望的な状況で、ほとんど死を待つことしかできないと思っていた彼女であるが、目の前にいる女は史上稀に見る名参謀、歴史に名を残した大軍師であり、この者がいれば文字通り百人力であった。

 さらに朗報がある。なんとこの橋下に駆けつけた漢臣はもうひとりいた。それが衣食にかかわる日常品を自家用車満ぱんに詰め込んでここまでやってきた、仕事終わりの蕭何であった。

 この二人は漢の三傑のうちの二人。すなわち楚漢戦争の漢において最も大きな功績を残した三人の内、二人である。張良が策略を発揮し、蕭何がこれを実行可能となるような下準備を請け負えば、たとい項羽、彭越、英布の連中といえども勝機は十二分の見いだせるではないか。


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 さて、張良が提示する策の大まかな概要が

「いま最も足りない戦力を補充するために、曹参と夏侯嬰の親族である曹操連中を引き出せば心強い。そのためこの連中を無理やり今回のいざこざに引っ張り出す」

 という、単純なものであった。しかし、こうして書くと単純に見えるだけで、実態は複雑であり、そして困難である。

 新たに再開した二人を入れても七人という少ない手勢で上の状況を作り出さなければならず、そのうちの一人、樊噲が非常に重要な役割を任された。

 それは红龍幫の構成員数人を拉致して、こちらの思う通りに動くように教育するという、やる方も酷なことである役割であったが、彼は持ち前の真面目さと誠実さを以てなんとか五人の構成員を拉致、教育することを成し遂げた。連れ去った構成員達に教育という名の拷問を施して、ついに「なんでもするから許してください」と言わせたのである。

 それを受けて

「おう、じゃあこれを着ろ」

 と彼は一張羅とも言えるほどよくできた縞の入ったスーツを差し出し、教育の副産物である青あざと出血が収まるように二、三日療養を許した。しかし、これは彼の情が働いたからとかではなく、すべて計画の一つであった。

 さて、二、三日後、すっかり回復した構成員達を蕭何が用意したバンに乗り込ませ、向った先は曹操が通っているらしい泉山高級中学であった。

 その正門前、T字路になった道の脇に車を止めて、構成員に言うのは

「いいか、俺が今から指定する女の学生にいちゃもんをつけてこい。なるべくねちっこく喧嘩を売れ。それが済んだら開放してやる」

 ということであった。

 さらに

「武器も持たせてやる。存分に使え」

 と、ドスを五本、各々構成員達に持たせた。

「それだけで許していただけるんですか!」

 彼らの目は光ったが、この哀れな男達はここからが一大事だということを予想できていない。

 樊噲は夏侯嬰からもらった曹操の写真とそして特徴を描いたメモ書きに目を通しながら、下校時間の夕暮れ時を窓から降り注ぐ斜陽の陽光を浴びながら過ごした。

 多くの学生が正門から出ていった後、ついにその人と思われる女子が歩いてきたが、その周りには可憐だがどこかよこしまな雰囲気を持ち合わせた女子達が取り巻き、その後ろには大勢の巨漢が付き従っていた。

「あれだ!あの真ん中の女」

 色が白くて、髪が長い。つり上がった目に、小柄な体形。それこそ言われた特徴と写真に合致し、俄然、樊噲は構成員達に

「おう、お前らの出番じゃ。いまあそこの集団の前列真ん中で風を切るように歩いている小柄な女がいるだろ。あいつにいちゃもんを付けてこい。それで許してやる」

 というと、彼らは慣れたものだ、と言わんばかり、意気揚々とバンの自動ドアを開けて目的へずんずんと足音を鳴らせて近づいていった。

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