最後の言葉
@kazu2134
第1話 告白
冬のある日、静かな街の片隅で、時計店の古い鐘が遠くに響いていた。その音に導かれるように、藤井はかつての恋人・美咲の家を訪れていた。
彼は学生時代に美咲を深く愛していたが、言葉にする勇気が持てずに卒業を迎えてしまった。
それからの年月を経ても、その想いは色褪せることなく、彼の胸の奥にしまい込まれたままだった。
美咲の家のドアをノックする手は震えていた。長い時間が経ち、二人の生活は変わり、藤井自身も中年の風貌になっていた。美咲がドアを開けると、彼女もまた時間の影響を受けていたが、その瞬間、藤井にとっては何も変わっていないように思えた。
「久しぶりね、藤井くん。どうして今になって?」美咲は驚きつつも温かく迎え入れた。
藤井は深呼吸を一つしてから、彼女に向かって真剣な表情で語り始めた。「実はね、ずっと言いたかったことがあって… 今日、どうしても君に伝えたい事があって…」
美咲は静かに彼を見つめ返し、何かを察したようにうなずいた。
「美咲、僕は… 僕はずっと前から君のことが好きだったんだ。告白できなかったあの日から、一度も心から君のことを忘れたことはないよ。」
言葉が空気を切り裂くように、重苦しい沈黙が流れた。しかし美咲の目には涙が浮かんでいて、彼女はゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「ありがとう、藤井くん。その言葉を聞けて本当に嬉しいわ。私もね、あの頃、何か
感じていたの。でも時間が経ちすぎて、もう遅いと思ってた。」
二人は長い間、ただ見つめ合うだけだった。外では雪が舞い、時計の鐘が再び遠くで鳴り響く。それは切なくも、どこか温かいものだった。
「これからは、言葉じゃなくても…」
藤井がそう切り出すと、美咲は微笑んで頷いた。
二人の間に流れるのは、もはや言葉ではなく、心の通じ合う静かな調和だった
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