第二節 レオ•ホワイトという男

「お待ちしておりました。ステラ•ハーヴィー様。」

 前を歩いていたホワイト家の使用人と思われる若い男性が屋敷の門を開き、改めてそう言いました。屋敷の中には、ハウスメイドや執事を含めた使用人たちが整列し、私達を迎えました。しかし、最も重要な主人が見当りません。


 (これはどういうことでしょう…)

先程から、屋敷の者達の態度に気になることろがございます。婚約者が屋敷に来た。これは大変なことではないでしょうか。普通ならば温かく歓迎し、喜びの空気に満ちあふれているでしょう。しかし、屋敷の者達は先程から冷たい態度が目立ちます。それだけなら良いのですが、主人は真っ先に客人を歓迎するものではないのでしょうか。


「レオ様は第二客室でお待ちです。どうぞ、こちらへ。」

執事と思わしき老紳士が案内をしました。

屋敷の中は、絵画や彫刻が所々に置かれており、家具は全て高級で手入れも行き届いている当たり前に品の良いマナーハウスでした。

 

「こちらでございます」

執事が扉の前で止まりました。


(……?)

目の前の光景に私は目を疑いました。

まさか、この執事はお嬢様に扉を開かせる気なのでしょうか。この老紳士は身なりも良く、この屋敷でも恐らく最年長に思われます。英国人なら誰もが扉を先に開き、客人を通すでしょう。もしや、これは言いつけられてしたことなのかもしれません。

***

 ミアは苛立ちを覚えたが、お嬢様の使用人として扉を開けようとドアをノックしようと手を伸ばした時。


 ステラがミアの手を摑んだ。

「お待ちなさい。ミア。私は試されているのです。」

「…しかしっ、」

お嬢様の行動は早く、気づいた頃にはもうノックを三回素早く鳴らしていました。

「ステラ•ハーヴィーにございます。」

***

「………入れ」

数秒後、部屋の中から地を這うような低い声が聞こえました。

「失礼します」

「初めまして。ステラ•ハーヴィーです。」

お嬢様は深々とドレスのすそをつまみ、にこやかに挨拶をすると一礼しました。


『……っ』

お嬢様と私の息の飲む音が同時に聞こえました。


 それは、凍てつくような鋭い睨みに近い眼差しでした。真冬の湖の氷のような青い眼光がお嬢様と私を射貫きました。レオ•ホワイトという男は、とても綺麗な顔立ちでした。しかしそれよりも相手を射殺すような冷たい眼光の持ち主でした。


「……レオ•ホワイトだ」

婚約者への挨拶はたった、それだけでした。



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