第48話 過去が変われば未来が変わる

「こいつが吸血鬼なのか?」


「本当に大丈夫なんでしょうね?」


「かわいいー、お人形さん見たい」


 薫が拠点に戻ってくる頃にはすでに澪准、霧奈、瑠華の三人は戻ってきており、いつものように薫たちが会議した部屋に集まっていた。


「なんじゃ主ら?妾に文句でもあるのか?」


「やめろバカ」


「ふぎゃっ、何をするのじゃ!」


「何をするのじゃじゃねーよ。お前の方こそ何しようとしてんだよ」


「それはもちろん妾の力をこやつらたちに見せつけてやろうとふぎゃっ」


 ルルシュは言いかけたところで再び薫に頭を殴られる。


「本当に吸血鬼なのか?ただのガキにしか見えないぞ」


 澪准の言葉にルルシュはギロリとそちらを睨む。


 ルルシュの見た目は幼く、最年少の葵といい勝負か少し年下といった感じだ。


 薫と会った時こそ目は充血したように赤くなっていたが薫から血を分けてもらったことで今は普段通りの白目に戻っている。


 黒い瞳は宝石のようで髪は丁寧に手入れされている。欧米人にもにた整った顔立ちはまさに人形のようだ。


「こいつらは俺の仲間だ。一応言っておくが仲間同士の殺し合いは禁止だからな」


「わかっておる。仲間になると一度決めたゆえ主の命令には素直に従うぞ。して、薫の仲間とやら妾の名前はルルシュア=ナフィリーゼ・ブラックローズという。主らも特別にルルシュと呼ぶことを許すゆえ気軽にそう呼ぶと良いぞ」


 ルルシュの見事な立ち居振る舞いに「おー」という感嘆の声が誰かから漏れる。


 そういえばこいつ当主とかって言ってたし元の世界だと貴族だったりしたのか?そもそもモンスターにそんな概念あるのか?


「モンスターとは到底思えないわね」


「ふむ、かおるも言っておったが妾は別にモンスターではないぞ」


「へーそうなのか?でも似たようなもんだろ?」


「バカものが。妾はモンスターではなく魔人じゃ。魔人は本能でしか生きられないモンスターとは違い理性と知性を兼ね備えておる。主たちの言うところの猿と人間のようなものじゃ」


 ルルシュはやや憤慨気味に説明するが薫の頭の中には「そったの世界にも猿っているんだ」という驚きの方が大きかった。


「そういえば前戦ったゴブリンキングは言葉を話してたぞ。つまりゴブリンキングは魔人なのか?」


「あれはただ猿が大道芸をしているようなものじゃ。主たちだって猿が言葉を話したとて人間だとは思わんじゃろ?つまりはそういうことじゃ」


「ふーんそんかもんか」


 薫の興味は一気になくなる。


「そういえば瑠華二人は見つけられたか?」


 薫は瑠華にお願いしていたことを確認する。


 瑠華はというとその話を振られ顔色が暗くなっていく。


「それが…」


「なんだ?何かあったのか?」


「うん…一人は見つけられたんだけどもう一人の方はいくら探しても見つけられなくてもしかしたらもう…」


「…そうか」


 瑠華が言わんとしていることがわかり薫は目を瞑る。


 未来を知る薫が過去に戻ってきたことで多くの人たちの命が救われた。壊滅的被害を受けるはずだった東京は薫のおかげで以前の半分程度の死者ですんでいる。


 しかし救われた者がいるということは救われなかった者もいるということだ。


 薫が干渉したことによって世界は徐々に変わりつつある。例えば青秀学院高校の生徒たちだ。


 本来であれば契約者として能力を得た霧奈がその場にいたことで青秀学院にいたほとんどの人たちが助かっていた。しかし今回霧奈はモンスターが現れた時薫と一緒にいた。そのことで青秀学院にいた人たちは全員モンスターたちに殺されてしまった。


 他にも澪准と葵はもともと家に隠れていたところを保護して仲間になった。だというのになぜかゴブリンたちに捕まり、巣まで連れてこられていた。もし薫が来るのが遅れていたら二人とも死んでいたかもしれない。


 これらは薫が干渉したことにより起きた変化だ。


 そしてこれだけではない。薫が知らないところで変化は少しずつ起き始めている。


 そしてその変化の一つこそ本来生きていたはずの仲間の死に繋がったのだ。


「それでどっちが死んだ?」


「笠間亮平って子の方。まだ死んだかどうかはわからないけど私の能力を使っても見つけられなかったし、霧奈ちゃんと澪准くんの二人にも手伝ってもらって大人数で探してみてもそれらしい人はいなかったの」


「そうか。ってことは直哉の方は生きてたのか」


「うん。一応保護したにはしたんだけど…」


「なんだ?どうしたんだ?」


「それが着いて早々部屋に引きこもっちゃって出てくる気配がないんだよね。なんかモンスターが怖かったらしくて外に出るのがいやだーってずっと出てこないんだよね」


「それは大丈夫だ。あいつは元々引きこもりだったからな。だけどそうか…流石にずっと引きこもられるのも困るな。後で俺が直接行って確かめてくるか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る