第45話 七瀬薫VS吸血鬼
むくりと棺から体を起こすとその少女は棺から出て一歩、二歩と薫へと近づく。
足を止めた少女は左手を自身の口元まで持ってくるとその左手に噛みついた。二本の犬歯が手に食い込むようにして跡を残し、そこからポタポタと血を流す。
そして次の瞬間血の垂れている左手を薫目掛けて払うようにして振るう。
振るわれた勢いで左手から流れる血は薫目掛けて飛んでいき、その血は空中で徐々に形を変えていく。最初こそただの液体だったにも関わらず薫に届く頃には刃のように鋭く先が尖ったものへと変貌したのだ。
薫はそれを表情を変えることなく全て弾き返す。別に避けることだってできた。確かにスピードは速く、他の者であれば多少の怪我はしていたかもしれない。しかし様々な修羅場を潜り、多くの強者たちと戦ってきた薫からすればこの適度な攻撃避ける必要もなければ防ぐことさえしなくても良かったのだ。
能力で自身の肉体を強化している薫は並大抵の攻撃ではかすり傷さえつくことはない。それでも受け止めるのではなくそれを防いだのは相手に「この程度の攻撃では俺に当たることはないぞ」という無言の挑発なのだ。
「人間なかなかやるようじゃの」
本気ではないとはいえ自身の攻撃を防ぎきった人間はそう多くはない。それも避けるのではなく弾き返されたのは初めてかもしれない。
今目の前にいる人間は相当強い。そう確信すると吸血鬼は初めて薫の顔を見た。
「別に大したことでもないだろ。そっちだって様子見程度の攻撃だったんだからそこまで驚くようなことでもないだろ。それともまさか割と本気だったのか?それだったら悪いことをしたな」
「ククク、安心せよまだ一割も出しとらんは。それならこれはどうじゃ」
左手から流れる血が意思を持ったかのように宙を動き始める。それは吸血鬼の頭上へと集まっていき徐々に大きくなっていくと丸い球体を作り出す。
吸血鬼はニヤリと笑うと手を軽く前に突き出す。そしてそれに反応するようにして頭上に集められた血は無数の針となって薫へと押し寄せてくる。
しかし薫はその場から動こうとはしない。飛んでくる針に対して大剣を大きく一振りする。大きく振られた大剣からは人が振るったとは思えないような風圧をその場に出し、押し寄せてくる血の針を全て吹き飛ばしたのだ。
「ほぉ、これも防ぐか。お主本当に人間か?まさかオーガとかではあるまいな。いやただのオーガごときでもこのような力はないか。主はなかなか楽しめそうじゃ。さぁ次はどう受け止める?」
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