第44話 館の主人

 薫は自身の記憶を頼りに館の中を歩いていた。何年も誰も使っていないせいか歩くたびに埃が舞い、床に薫の足跡を残している。


「この廊下いつまで続くんだよ」


 もうかれこれ十分は歩いているだろう。この館はなぜか見た目通りの広さになっておらず明らかに空間が捻じ曲がっている。


 実際大地震後に現れた建造物などはなぜか見た目通りの広さをしてないことが多く、以前のゴブリンの巣もやたらと入り組んでいた。


 モンスターが出ることがなければ誰かが隠れているなんてこともない。初見であれば周囲を警戒しながらゆっくり進むのだが、以前も来たことのある薫からすれば何もないことはわかっている。そのため歩く足は徐々に早足になっていき、その足取りから薫がイラついてきているのがわかる。


 しかしそのイラつきもゆっくりとだが緩和されていく。これは薫の能力であり、怒りをエネルギーに変換しているのだ。


 それでも足取りが遅くなることはない。むしろ早くなってきている。怒りがエネルギーに変換されるよりもはやく薫のイラつきが増してきているのだ。


 こうしてさらに歩くこと十分。ようやく目的の部屋を見つけると薫は徐々に冷静さを取り戻していく。


 大きく深呼吸をするとそのドアノブに手をかけゆっくりと回す。


 部屋に入るとそこは以前来た時と何も変わらず何もない空間が広がっている。唯一ある物といえば月明かりに照らされるように部屋の中央に置いてある棺ぐらいだろう。


 薫は大剣を出し構える。


 その棺はまるで薫が来ることを待っていたかのように薫が部屋に入ると同時にゆっくり開いていき、中から白い腕が伸びる。


 腕は体を持ち上げるようにして棺に捕まるとそのままムクリと上半身を起こす。


 その顔はいかにも不健康といった感じで青白くなっており、目は充血したように赤い。起きたばかりで寝ぼけているのか目を擦ると大きく伸びをしてあくびをする。やがて薫の存在に気づいたのかその黒い瞳は鋭く薫へと向けられ、何の表情も変えることなく下半身を起こしその場に立ち上がる。


 漆黒の服をきたその少女は床に着きそうなほど長い金髪をかき上げ棺から出てくる。口元には鋭い犬歯が二本あり、彼女がただの人ではないとわかる。


 彼女こそ薫の今回の目的。この館に住む主人にして今の薫にも引けを取らない危険なモンスター。吸血鬼だ。

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