第43話 サイクロプスの討伐
サイクロプスは瑠華たちの近くまで来るとその手に持つ棍棒を大きく振り上げ瑠華立ち目掛け振り下ろす。
一人の男がその場にしゃがみ込み両手を地面につける。その途端地面が突如水のように動いたかと思うと瑠華たちを守るようにしてドーム型になり、その棍棒を受け止める。
サイクロプスは自分の攻撃を受け止めたそのドーム型になった地面を何度も何度も殴りつける。殴るたびにドームは徐々に崩れていき瓦礫になって下にいる瑠華たちに落ちてくる。
「皆んな急いで退避しろ!」
その一声で下にいた皆が一斉に走り出す。全員が退避できたとほぼ同時ぐらいにドームになっていた地面は崩れていき大きな瓦礫となってその場に山を作る。
サイクロプスはドームを壊したことに満足しつつその視線は未だ瑠華たちを捉えている。山になった瓦礫を跨ぐようにして再び瑠華たちに近づこうとするが瑠華たちは急いでその場から離れている。
どれだけ急いで逃げていてもその一歩の違いから距離はどんどん近づいていく。そしてサイクロプスは又してもその棍棒を振り上げようとした時突如としてその足が止まる。
サイクロプスは前に歩こうとしてもなぜか地面から足が離れないためにどうなっているのか自身の足元を見る。そこには蜘蛛の糸のような白い糸が足の裏に付着しておりその白い糸が足と地面をくっつけているのだ。
サイクロプスはどうにか白い糸を取ろうと足を上げ前に進もうとするが取れる様子はなくさらに糸が絡まっていき粘着力が強くなっていく。
「インパクト!」
白い糸に気を取られていたサイクロプスは突如背中を強く押され、足と地面が白い糸で絡まっているせいかそのままバランスを崩して前に倒れてしまう。
「「「あっ」」」
その倒れるサイクロプスを見て皆が無意識に口から声を出す。サイクロプスが倒れた先、そこにあったのは先ほど瑠華たちがいた半壊したデパートだ。
サイクロプスが地面に倒れ込んだことにより砂埃で視界が見えなくなる。
「おい!どっちに向かって倒してんだ!」
「仕方ないだろ!こっちだって必死だったんだ!そこまで考えてられっかよ!」
「おいおい、あいつ完全に死んだだろ。あの男を助けるのが今回の目的だったのによぉ。こりゃ帰ったらこっぴどく怒られるだろうな」
各々が好き勝手言い合う中、瑠華は能力を使い中にいた人の安否を確かめる。
「良かった。まだ生きてる」
瑠華は中で未だ震えている人物を確認すると胸を撫で下ろす。デパートは先ほどよりも壊れているものの彼のいた場所までは壊れていなかった。サイクロプスが覆い被さるようにして倒れたにもかかわらずそのデパートが壊れていなかったのはおそらく中にいる人物の能力のおかげだろう。
瑠華の言葉に皆が安心し再びサイクロプスへと向かう。
倒れたサイクロプスは起きあがろうとするがなぜか手が地面から離れない。よく見てみると両手には足同様に白い糸が付着し、地面にくっついている。それは手だけではない。地面についた全ての部位が粘着性のある白い糸で地面にひっついてしまっているのだ。
「どうだ俺の糸はなかなかとれねーだろ」
サイクロプスのまた鼻の先、そこにいた一人の能力者が手から白い糸を出しながら見下している。
手を伸ばせば届く距離のはずなのに地面にひっついているせいで手を伸ばすことができない。
「これでやっと終わったか」
倒れたサイクロプスの周りに皆が集まってくる。そして何も抵抗することのできないサイクロプスはそのまま瑠華たちの手によって討伐された。
◇◆◇◆
サイクロプスを倒したことにより緊張感がなくなったことで忘れていた空腹が戻ってくる。
ほぼ壊れているデパートまで来ると第二倉庫の扉まで戻ってくる。扉の前に置いてあった荷物の中から食材や調理器具を出すとそのまま料理を始める。
「この肉かなり硬いけど割といけるな」
「塩胡椒だけでここまで美味しくなるならもう少しとって明日のご飯にしたいですね」
皆はかぶりつくようにして大きな肉を食べている。
「瑠華さん本当に良かったんですか?これかなり美味しいですよ」
「いや、私人型はちょっと…」
男たちが美味しそうに肉を食べている中、瑠華ともう一人の女子だけは頑なにその肉を食べようとはしなかった。
戦いを終え、談笑しながら美味しい料理を食べているとどこかから「グオ〜」という獣の唸り声のようなものが聞こえてくる。
先ほどまで盛り上がっていたのが嘘かのようにその場が静まり返ると皆の視線は瑠華へと集まる。
しばらく目を瞑っていた瑠華はゆっくり目を開けると首を左右に振る。
「この辺に私たち以外は誰もいない」
「それじゃあ今のはいったい…」
誰かが言いかけた時再び「グオ〜」という音が聞こえてくる。さっきは皆が騒いでいたことでその音がどこから聞こえてくるのはわからなかったが静まり返っていた今回はどこからその音が聞こえてくるのか皆が理解した。
音が聞こえてきた方向に目をやるとそこにあったのは第二倉庫と書かれた扉だった。そしてその音の正体がわかると男たちはニヤリと笑いながら目を合わせる。
「あー、この肉うめーなー。これだけ美味しくてもこんなにたくさんあると全部は食べきれないなー」
「せっかくこんなに美味しいのに捨てなきゃいけないなんてもったいねーよなー」
「仕方ないさ、全部を持ってくわけにはいかないし持たない分は腐らないように燃やして処分しないとな。もしかしたらモンスターが集ったりするかもしれないし」
わざとらしい口ぶりで大きな声で話す。瑠華はこんなので出てくるわけないじゃんと思いながらその光景を見ているとずっと開くことのなかった扉がギギギと音を立てて動く。
「うそ、」
瑠華の驚きをよそに男たちは扉が開いたことで互いの手を握り合ったら腕と腕を絡めたりしている。
扉の隙間から目だけを覗かせ周囲を見渡している。そしてその視線は男たちが持つ肉を次々と追いかけている。肉を見たことで我慢していた食欲が徐々に湧いてきたのか「はぁはぁ」と荒い息がこちらにまで伝わってくる。
一人が立ち上がるとそのまま扉に近づく。その手には肉が乗った皿がありそれを扉の少し遠くに置く。
「どうだお前も一緒に食うか?食べるなら早くそこから出てこいよ。出てこないとこの肉はやらねぇーぞ」
皿を床に置くと先ほどの位置まで戻る。男が戻ったことを確認すると扉はバコンと大きく開き中から一人のやつれた男が現れるとがっつくようにしてそのまま肉を手に持って頬張る。
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