第42話 一つ目の巨人

 ドシン、ドシンと歩くよな地響きが徐々に近づいてくる。瑠華たちは一度デパートから出て外を確認することにした。


「巨人って言ってましたがどれだけでかいんでしょね」


「やっぱ四、五メートルくらいあるんじゃないか。それに巨人がでるならこの街の荒れ具合も納得だな。建物のほとんどが崩れてたのは巨人が踏み潰したからかその振動に耐えきれなかったんだろ。それにモンスターが少なかったのもその巨人に踏み潰されたからなんじゃないか」


 そうこう話しているうちに全員デパートの外に出る。そこにいたのは体長八メートルほどの巨大で上半身は裸。下半身には獣の毛皮を腰に巻いている。頭から下にかけは毛が一切なく、片手には大きな棍棒を持っている。そしてそんな巨大でありながら最も目を引くところは顔の中心にある大きな一つの目玉だ。一つしかないその目玉はギョロギョロと目玉だけを動かしている。


「あれサイクロプスじゃないか」


 この中で最もゲームやアニメに詳しい男がそう呟く。サイクロプスを目にした瑠華たちは無意識に口をあけその場に立ち尽くしてしまっている。


「あれと戦うんですか」


 誰かが「無理だ」という思いがこもった質問をする。それはあまりにも大きすぎる。いや、大きいことはわかっていたし覚悟はできていた。しかしそれは想像よりも遥かに大きすぎるのだ。サイクロプスを見る前であれば「勝てる」、「ただでかいだけ」なんて思っていたが実物を見てしまうと「どうやって勝つんだ」といつ思考になってしまった。どれだけアリが群がろうともゾウを倒すことはできない。それが当然のことで大きさとは力なのだ。


 その場にいた全員が硬直したかのように遠くにいるサイクロプスを眺めていた。サイクロプスの目玉は未だにギョロギョロと何かを探しているように動いている。そしてある一点を見つめるとそこで視線が止まる。視線が止まると同時、ずっと横一直線になっていた口の左右が上に上がり、その目玉が細くなる。


 その視線の先にいたのは瑠華たちだった。視線が合ってしまったことで戦うことに消極的になっていたが、見つかってしまったことで逆に「もう逃げられないそれならここで戦ってやる」という気持ちになる。


「全員戦闘体制に入ってください。これよりサイクロプスの討伐を始めます。距離はおよそ一キロメートルほど前方。あのスピードならここまで来るのに五分もかからなさそうです。各員は速やかに持ち場についてください。近くに他のモンスターの反応はないためサイクロプスにだけに集中してもらって構いません。あのモンスターを野放しにするのは今後大きな被害になる可能性があります。なのでここで確実に仕留めます。皆さん必ず生きて帰りますよ!」


 瑠華の激励が皆に勇気を与える。それぞれが距離を取り持ち場につく。そして陣形ができるのとほぼ同時ぐらいにサイクロプスは瑠華たちのすぐ目の前までやってくる。


「薫くん大したモンスターはいないって言ってたよね。この分は後で膝枕でもしてもらわないと割に合わないよね」


 瑠華のその小さな呟きは全員が離れていたために誰にも聞こえることはなかった。

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