第31話 不死身な男
薫が階段を降りる。そこには左右に隔離された独房のような小さな部屋が幾つもある。薫はそれを横目で見ながら奥へ奥へと歩いて行く。どの独房にも人の影はなく地面に大量の血の跡だけが残っており、時には通路のところまで飛び出しているものもある。
薫は一番奥にある独房の前まで来ると足を止める。
「んお?」
独房の中にいた男は自分の前に誰かが来たことに気づく。その顔は少しやつれているように見えるが先ほどまで鼻歌を歌っていたことから見た目よりも元気そうだ。
「なんだよ、またやるのかよ」
「元気そうだな」
気怠げに返事をする男に対して薫はやや表情が暗い。男は声をかけられたことによりようやくゴブリンではなく人が来たのだと気づく。
「もしかしてお前も捕まったのか!?」
「ちげーよばーか、助けに来てやったんだよ」
今までゴブリンしか来なかったために人と話すことが嬉しかったのか声が徐々に大きくなっていく。薫は独房のドアの隙間から中の男を確認するとそのままドアを破壊する。
「おいおい、もっと安全に開けてくれよ。当たったらどうすんだよ」
「どうせ死なないんだから別に問題ないだろ」
大きな音を立ててドアを破壊すると薫は中へと入る。そこにいたのは首には鉄でできた首輪をつけられており、その首輪には鎖で壁に固定されている。手と足にも同じものが取り付けられているためにその男は胡座をかいた状態で地面に座っていた。
「何興奮してんだよ切り落とすぞ」
「いや、別に興奮してるわけじゃないって。ただ人と話すのが何だか久しぶりな気がしてよ、つい嬉しくなっちまったんだ」
男は裸にされているせいか陰部の膨らみが嫌なほど目立つ。薫はそれを見ると嫌そうな顔をするがそのまま近づくと剣を振るう。
男は本当に斬られると思ったのかびっくりして目を塞ぐが、ガシャジャララという音が聞こえ恐る恐る目を開く。何が起こったのかと自分の体を確認すると首につけられていた鉄の首輪がないことに気づく。よく見てみると手や足についていたものもなくなっており、嬉しそうにその場に立ち上がる。
「いやー、まじ助かったよありがとう。俺は
しばらく座ったままの姿勢でいたためか体が固まってしまっており、それをほぐすそうにして澪准は伸びとストレッチを始める。
「あぁ、知ってるよ」
薫は小声でそう返すが体をほぐしている澪准には聞こえていなかったのか特に反応はしない。
「葵がお前のことを探してたから早く上に戻るぞ」
「そうか、葵も無事だったか」
澪准は嬉しそうにニヤける。そして薫が歩き出そうとするとそれを引き止めるようにして後ろから声をかける。
「なぁ、ちょっと待ってくれよ」
「どうした?まだ何かあるのか?」
「それがなー…」
澪准は歯切れが悪そうな態度をとると薫はそれを疑問に感じる。何か見落としたでもあったのだろうか、もしかしたらまだ体が万全ではないのか、そんな風に考えていると澪准が口を開く。
「そのズボン俺に貸してくれない?」
澪准は薫の履いているズボンを指さす。薫の今の格好は上に来ていた服を葵に渡してしまったせいでズボンしか履いておらず上裸だ。今は七月の中旬、これが仮に春や秋、冬なんかであれば何か他にも着込んでいたかもしれないが今日の薫はズボンとTシャツしか着ていない。
「殺すぞ」
薫は鋭い視線で澪准を睨むとそのまま歩き始める。澪准もそれに怯んだのか体を少しびくつかせるがそのまま後を追う。
「なぁ頼むよ、妹と会うのに裸はまずいだろ?兄の威厳ってやつがさあるわけで、こんな姿で妹の前に現れたら幻滅されちゃうだろ、妹から今後そんな冷たい態度とられたら俺死んじまうよ。だからな?頼むって」
「渡したら俺が裸になるだろ」
「それはさ、ほら、その剣でどうにか隠してさ…」
澪准が何か言いかけようとするがまたしても薫が睨んだことで推し黙る。
「大丈夫だ、お前はそんなんじゃ死なない。それにそんなに恥ずかしいならそれ切り落としてやるよ。どうせまたニョキニョキトカゲの尻尾みたいに生えてくるんだろ。だったら別に切っても問題ないだろ」
「ばかお前、そんなことされたらトラウマになるだろ!それに裸な時点でアウトなんだよ!って言うか何で俺の力のこと知ってんだ?」
「……まぁ、いろいろとな」
「この力よくわからないんだよな。最初死んだと思ったらなんか生きてて、しかも斬られたはずの腕と足が生えてんの。なぁ、この力のことについて知ってるなら詳しく教えてくれよ」
「後で教えてやる。それと服は上にいたゴブリンキングから剥ぎ取ればいいだろ」
「んだよ、それなら最初からそう言ってくれよ」
薫と澪准はそのまま階段を上がると先ほどの大きな部屋にでる。澪准はそのままゴブリンキングの服を剥ぎ取るとそれを着る。薫はそれを眺めていると無意識に口から声が漏れる。
「不死身のくせに死んでんじゃねーよ」
「ん?何かあったか?」
「何でもねーよ。早く行くぞ」
「ちょ、待てって」
そのまま二人は部屋を出ると葵のいる場所へと再び歩き出す。
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