第25話 ゴブリンの巣
――カツカツカツ――ペタペタペタ
二つの足音だけが洞窟内に響く。二人は特に何か会話をするわけでもなく静かにその道を歩く。
◇◆◇◆
「親友だよ…」
「えっ、そうだったんですか。それなら本当は兄を助けるためにここまで来たんですか?」
いたずらっ子のような顔をして薫の顔を伺う。しかし、葵はその顔を見て静かになる。薫のその顔は優しげな口調とは異なり無表情だ。その顔からはどんな感情なのか読み取ることはできなかったが、何か悪いことを聞いてしまったと葵は押し黙るようにして薫の後ろへと戻り、そのまま歩き続ける。
しばらく道なりを歩いていると左右に道が別かれる道が現れ二人は立ち止まる。
「お前はどっちから来たんだ?」
薫の口調は最初と同じに戻り、それに気づいた葵は少し安心したのか元気に答える。
「確か左から来たと思います。私がいた場所はたくさんの人が捕まっている場所で、牢屋のような場所でした」
「そうか、なら右だな」
薫はすぐさま止めていた足を進める。そして葵もそれに続く。
それからまたしばらく歩くと薫はその足を止め、葵もそれを見て足を止める。
「どうしたんですか?」
「しーっ」
薫は人差し指も立てると静かにという合図を出し、目を瞑り耳に意識を傾ける。遠くからは微かではあるが人ではない何かの鳴き声のようなものが複数着替えてくる。
「近いな」
「えっ?えっ?」
薫のその言葉に葵は何度も道の先と薫を今後に見ては困惑する。葵も薫の真似をして耳を傾けてみるがやはり何も聞こえない。道の先は暗闇で五メートル先も見えない。音だって葵の耳ではなにも聞こえてこない。
「本当に何かいるんですか?」
「あぁ、こっちに向かってきてる。数にして五匹といったところか」
葵は疑うような目で薫を見る。なんせ目の前は暗闇だし、音なんて何も聞こえない。葵からすれば薫が女子の前で張り切る男の子にしか見えないのだ。そんなことを考えていると「グギギ、グガ」と葵の耳にもその声が聞こえてくる。そして、それとほぼ同時ぐらいに暗闇の先から緑色の化け物が現れる。
「来るぞ」
そして薫が言った通り五匹のゴブリンが二人目掛けて襲いかかってくる。ゴブリンは人とは違い夜目がきくためこの暗闇の中でも遠くにいる二人を認識することができる。そのため葵たちがゴブリンの姿を認識するよりも早くかれらは二人に気づき走ってきたのだ。
葵は驚きつつも空中に氷の柱を生成する。そしてそれを一匹のゴブリン目掛けて飛ばす。
飛んだ氷は一番先頭を走るゴブリンへと当たり、グチャリと嫌な音をたてて頭が潰れる。しかし、それに怯えることなく後続のゴブリンたちは二人へと襲いかかり、最初の一匹が薫へと棍棒を持ち、飛びかかる。薫は舌打ちをすると手に持つ大剣を一閃する。ゴブリンは見事空中で胴が上と下に綺麗に別れ、そこから血飛沫が舞う。そして流れるようにしてそのまま残りの二匹を斬り捨てる。
「ギギガグガ」
残った最後の一匹は二人の強さを見て一歩後ろに下がる。そしてそのまま背中を向けると慌てて奥に走っていく。葵はそれを見て氷を飛ばそうとするがそれを薫は静止する。
「逃げられちゃったんですけどいいんですか?」
「大丈夫だ。あいつには道案内してもらおうと思ってな」
「なるほど」
◇◆◇◆
一匹のゴブリンは自身の住処を大急ぎで駆け回る。普段からこの場所で住んでおり、今までならあまり遠いと感じない道のりが今では道が伸びたのではないかと錯覚してしまうほど遠く感じる。今まで生きてきてここまで必死に走ったことはないのではないかと思うほど走っているのに未だ目的の部屋にはつかない。後ろを振り返る余裕はない。
いったいなんなのだあの人間たちは。仲間たちがものの数秒でやられ、その血がこちらまで飛んできたために体は血まみれだ。あれは本当に人間なのだろうか?人間に紛れた悪魔なのではないだろうか?いや、そうに違いない。そうでなければおかしいのだ。人間とは世界最弱の種族。ゴブリンやオーク、他のモンスターたちからすれば家畜のような生き物だ。それなのになぜあれほどまでの力を持っているのだ。最初に人間を見つけた時はラッキーだと思った。ゴブリンにとって人間とは大好物の一つなのだ。特に若い
ゴブリンは舌を口から出し、必死に走る。そしてようやく目的の部屋に着くとそこにいた主に頭を垂れる。
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