第23話 新たな能力者たち
霧奈は自身の顔目掛けて向かってくる錫杖を見て思わず目を瞑る。
今回こそ死んだ。もぉ!枕元に化けて出てやるんだから!!
しばらく目を瞑っているが未だ錫杖は振り下ろされてこない。恐る恐る目を開いてみるとそこにさっきまでいたはずの黒天狗の姿がなかった。驚き、周囲を見渡してみると霧奈から見て左の方に吹っ飛んだ後のような体勢で地面に倒れている。
「あれ?」
「大丈夫でしたか?」
霧奈は今の現状が理解出来ず間抜けな声を出す。すると黒天狗に気を取られて気づいていなかったがその近くには声からして女の子?が立っていることに気づく。
女の子?と霧奈が疑問に思ったのは服装や体型からは女の子と言える要素はあまりなく、髪は短く切られ、帽子を深く被っているため顔はよく見えない。ただその声は明らかに女の子のものだったためにそう感じたのだ。
「え?あ、うん、はい大丈夫です」
よくわからない現状に困惑する中、その女の子は淡々と黒天狗に止どめを刺している。
「ビィーー!ビィーー!」
その声で霧奈は今戦っている最中だったのだと思い出す。目の前には右目から矢を抜き取り、そこから血を流す白天狗が鬼の形相で霧奈を見ている。そしてその勢いのまま棒を霧奈に向けて投げる。
まずい、霧奈は未だ体勢を崩したままだ。
そのためこれを避けることが出来ない。霧奈は慌てて姿勢を低くした時、その光景を見た。
霧奈が姿勢を低くするよりも早くその女の子は投げられた棒を空中で掴むとそれを持って白天狗の左肩から斜めにざっくりと体を斬る。その速さは常人の数十倍の動体視力を持つ霧奈の目をしても何が起こったのかわからず、気づいたら白天狗の体から大量の血が出ているところだった。
「なに?何が起きたの?」
「これで大丈夫ぶですよ」
ありえない速さだ。人間の出せる速さを明らかに超えている。この女の子は間違いなく能力者だ。霧奈の困惑する脳がそのことだけを瞬時に理解する。そして納得する。自分がどうやって助かったのか。
「ありがとう…」
「いえいえ、この程度大したことありませんよ。実はあなたが戦いを始めた時から見ていたんですよ。流石にまずそうだったので手助けさせてもらいましたが、あなたはいったいどこから来たんですか?」
「えっと、千代田区の方からよ。避難民の捜索とこのモンスターを倒すためにここまで来たの」
「避難民の捜索ですか?安産な場所がないこの東京でその人たちを見つけてどうするんですか?」
「一応千代田区にはもうモンスターはいないの。だからそこに避難してもらおうと考えてたの」
「え?どういうことですか?モンスターがいないって…。もしかして全部倒したんですか?あの量を?」
「まぁ、そう言うことになるかな。倒したのは私じゃないんだけどね。それでも千代田区にはもうモンスターはいない。それは断言するは」
「あのモンスターたちを全滅させるって…。まだたった一日ですよ。普通混乱して戦うどころじゃないですよね。お仲間さん相当強いんですね…。」
「確かに普通だったら一日でいきなりあの量のモンスターを倒すなんて不可能よね。ただ、あの人はいろいろと規格外だから」
「それでも天狗のことに関しては許さない。後で一発は殴るってやる」と心の中で付け足しておく。
女の子は少し考えるような素ぶりをすると何か決まったのか小さく「よし」と呟く。
「私もあなたに付いていっても良いですか?」
「大丈夫よ。それなら今から行きましょうか」
◇◆◇◆
薫は地下駐車場にできた洞窟の中へと足を進める。そこはまるでダンジョンのようになっており、壁や天井、床はすべて土でできているため少しでも暴れたりするとすぐさま崩れてきそうだ。それでも崩れることがないのはこの場所が人為的ではなく大地震の手によってモンスターたちと一緒にこの場所に現れたからだろう。
こここそが薫の目的である"ゴブリンの巣"だ。ここは多くのゴブリンが根城にしている本拠地で、ゴブリンが攫った人たちは全てここに連れて来られる。そのため青秀学院にいた人たちもおそらくここにいるだろう。
薫は嫌な気分になり顔を顰める。ここはかつて薫たちが襲撃し、多くの血が流れた場所だ。仲間たちを助けるために無茶な突撃を行い、逆に多くの仲間を失った。そして、霧奈の姉である栞菜が死んだ場所だ。攫われて二週間、薫たちはこの場所を見つけることができなかったのだ。なんせショッピングモールの地下駐車場という外からはわからず、中に入ってもこんな暗い場所では見つけるのが難しかったためだ。もしもっと早く見つけていれば多くの仲間を救えたかもしれない。いや、攫われる前に見つけていれば…。
薫は思考を振り払うように頭を振る。そんな未来もあったが、今の世界の薫たちには関係ない。なんせすでにこの場所は見つけているし、今回は薫一人で来ている。そのため仲間の命を失うことはない。しかし…。
「未来が変わってきている」
薫が今もっとも恐れていること、それは未来が変わることだ。現状大きく変わった未来と言えば青秀学院の人たちが襲われたことだろう。いや、襲われること自体はしばらくすればあった出来事だが、それでも早すぎる。これは霧奈が青秀学院からいなくなったことによる影響だろう。薫は別に聖人君子ではない。そのため赤の他人が死のうがそこまで気にすることはないし、知らない人のために何かしようとも思わない。それでも今回ばかりは自分に非がある。自分のせいで他人に被害がでるのは流石に許容することは出来ない。そのために今日わざわざここまで来たというのにすでに学校は襲われた後、薫のせいでここにいた人たちは死んだのだ。薫はそれが許せなかった。自分のせいで他人が死んだことが許せないのだ。
カツンカツンと靴音を鳴らしながら薫は奥に奥にと足を進める。靴音を隠そうとしないのは薫にそれだけ自信があるからだ。どれだけの数のゴブリンが来ようとも薫には問題ないのだ。むしろ探す手間がはぶけるためにそちらから来てもらえるとありがたい。ここは言わばアリの巣だ。そのため分かれ道が無数に存在する。いくら昔攻略したことがあるとはいえ道順など一切覚えていない。だからわざと音を出して敵が来てくれるのを待っているのだ。
ペタペタペタペタペタペタペタペタ
薫の耳に素足で走るような音が聞こえる。こんな場所で素足でいるやつなんて一つしかいない。ゴブリンだ。
「妙だな」
しかし、薫は違和感を感じる。ここはゴブリンの巣だ。そのためほとんどのゴブリンは複数体で行動している奴が多い。というよりも前回来たときは大抵が四、五匹で固まって行動しているのだ。それなのに今聞こえる足音は一つ分。薫は不思議に思いつつも大剣を取り出す。
そして、薫はそれを見て目を見開く。まだ相手の姿は見えていない。それなのに最初に見えたのはゴブリンではなく氷でできた柱だ。一メートルほどありそうなそれは先端を薫にむけてそれが三個飛んでくる。
薫はそれに驚きはしたものの全て斬り捨てる。そして徐々に近づく足音の主がその姿を現す。
「は!?」
「おりゃー!死に晒せー!!」
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