第19話 今後の方針

 避難所での夜が明け朝日が窓から差し込む。昨日の疲れから未だに眠っている人もいれば、大切な人を失い消沈している者、モンスターという脅威に身を震わせ一睡も出来なかった人、他にもたくさん人たちが集まりこの避難所で生活をしている。


「それじゃあ今後の方針を決めていくか」


 静かなその場所で一人の青年の声だけが異様に大きく聞こえ、その場にいる二人に話しかけられる。朝の風は異様に冷たく、今の季節にはにつかわないほど心地よい。


「それで今日は何をするの?」


「そうだな、まずやるべきことは三つだ。一つ目は脅威の排除。二つ目が仲間の捜索。そして三つ目が食料調達だ」


 薫は指を一つ一つ立てながら丁寧に二人に説明する。二人も薫の話を静かに聞き、自身のやるべきことを確認する。


「まずは脅威の排除からだ。現状では今俺たちのいる千代田区いったいは昨日大方倒したからほとんどモンスターがいないと言ってもいい。そしてそれに隣接している港区、新宿区、文京区、台東区、中央区もさほどモンスターはいないだろう。そのため俺は北上して、足立区の方まで行こうと思っている。霧奈は西側の渋谷区の方に行ってもらえるとありがたい」


「それじゃあ私はどうするの?」


「そうだな…」


 薫が何か言うよりも早く後ろから声をかける者たちがいた。三人は声のした方へと顔を向ける。そこにいたのは昨日炊き出しの手伝いをしてくれていた自警団の人たちで数にして二十人近くそこに立っていた。


「おはようさん。朝から精が出るな」


 そう陽気に声をかけてきたのは一番先頭に立つガタイが良く、来ているタンクトップからは大胸筋が強調されている。男は薫に対して丸太のような腕を出すと握手を求める。薫も出された手に握手を返すと力強く握りしめられる。顔を伺うと意地悪そうな顔をしており、薫の実力試しているように感じる。薫も軽く握り返すと男は顔を顰め手を引こうとする。しかし、薫は逃がさない。握る力は徐々に強くなっていき最終的には男が強く腕を引くことで薫も手を離す。


「悪かったよ試すようなことして。あんたらがどれぐらい強いのか少し気になってな。ちょっとイタズラしたくなっちまったんだよ」


 悪びれもせず痛めた手を振りながらその男は話し始める。薫もそのことについてはわかっていたのかさほど気にしてはいない。


「俺の名前は田中 慶次(たなか けいじ)だ。一応この自警団の隊長をさせてもらっている」


「俺は七瀬薫っていいます。昨日は手伝っていただきありがとうございます」


 薫の対応に後ろの二人は驚きを隠せない。今まで薫がここまで人に丁寧に対応していたことがあっただろうか。いつも生意気で誰相手にも強気に接するあの薫が敬語を話すことができるなんて。


「なんだよ」


 薫は妙に生暖かい目で見てくる二人に視線をやる。二人がどんなことを考えているのかおおよそ検討がついている薫はめんどくさそうにため息をこぼす。


「そのことは気にしなくてもいい。本来なら俺たちが率先してやるべきことをしてくれたんだ。むしろこっちから感謝がしたい」


「そうですか。それでいったいどういったご用件で来られたのですか?」


 前置きは不要と薫は直球の質問をする。慶次もそちらの方が好都合だったのか最初同様に陽気に話し始める。


「話が早くて助かる。実はな、自警団に入って欲しいんだ。あんたら三人は特殊な力が使えるし、何より強い。だからこそ俺たちと一緒に多くの人を助けて欲しいんだ」


 二人は薫への視線をやる。この三人の中でのリーダーは薫だ。そのため決定権は薫にある。薫は少し考えるような素振りをするがニヤリと笑い断言する。


「いやだ」


「え?」


 断られるとは考えていなかったのか慶次の口から間抜けな声が溢れる。


「今なんて言ったんだ?いやだといったのか?」


「あぁ、悪いがあんたらの組織に入るつもりはない。でも、あんたらが俺の下につくって言うなら歓迎するぜ」


 薫の口調は普段通りに戻り先ほどとの違いに慶次は目を見開く。しかし、その目はすぐに元通りに戻るとその顔からは笑みが溢れる。


「それでもいいぜ。こんな世界だ、強い奴が上に立つそれが当然だからな」


 慶次は改めて薫に手を差し出す。今度は先ほどとは違い薫を試すわけではなく心から敬意をはらっているのが見て取れる。薫もそれに応じるように手を取ると強く握手を交わす。


「それであんたらはこれから何をするんだ?」


「そうだな、まずは…」


 薫は先ほど二人に説明したことをここにいる人たち全員に改めて話す。


「俺たちは何をすればいいんだ?」


「とりあえずはこの場所を守っておいてもらいたい。モンスターはこないと思うが瑠華を置いていくから指示に従って行動してくれ。出来れば能力を使えそうなやつを選別しておいてもらえるとありがたいな」


 薫の指示を理解したのか皆一応に頷き合い小声で話し始める。


「天使様が一緒なら問題ないだろ」


「あぁ、俺たちには天使様の加護がついてるからな」


 小声ではあるものの薫の地獄耳はその言葉を捉える。瑠華と霧奈の二人には聞こえていないらしく二人は二人で別の話をしているようだ。


(もはや一種のファンクラブだよな。そういえば以前も瑠華にはかなりの数の隠れファンがいたんだよな。たしか神楽ファンクラブだったか)


 薫がそんなことを考えていると慶次が薫へと話かけてくる。


「もしかしてあんたらは一人で行動するのか?それは流石に危ないんじゃないか。なんなら俺たちの中から二、三人連れて行ってもらっても構わないぞ」


 ふと我に返った薫はその提案を断る。


「いやそれは無理だな。正直足手まといを連れて行くわけにはいかない。戦闘の面では俺たちはかなり強いが常に守ってやれるわけではない。もし俺たちでも勝てないような敵が現れたとしたら俺たちだけなら逃げ切れてもお前たちを庇いながらは難しい。気持ちはありがたいがあんたらはここにいる人たちを守ってやってくれ」


「そうか、わかった。あんたがリーダーだ、その指示に従おう」

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