第18話 三人の英雄
グラウンド中に漂うその匂いはそこにいた人たちの鼻を刺激し、皆一応に腹の音を鳴らせる。そして体育館にいた人たちも校舎内にいた人たちもその匂いにつられ次々とグラウンドへと足を運ぶ。
「ほらー列に並べー、割り込みするなよー。ちゃんと全員に行き渡る量あるから安心しろー」
薫は大きな寸胴の前に立ち、近くの飲食店やコンビニから持ってきたで食材で炊き出しを行っていた。左右にはもう一列ずつあり、そちらでは瑠華と霧奈が薫同様に炊き出しをしている。後ろの方では自警団と名乗る人たちがいくつもの大きな寸胴で料理をしてくれている。
「あの、先ほどはありがとうございました」
ふと薫が目の前でお椀を持つ二人の女子が目に映る。二人とも服は一部黒くなっていたりとかなりボロボロで見ていたとても見窄らしい。
薫は首を傾げる。果たしてこの子達とはいつ会ったのか。お礼を言われているのだからきっと良いことをしたのだろうが直近で人に感謝されるようなことはした覚えがない。
「えっと、先ほどはゴブリンに襲われているところを助けてくれてありがとうございます!」
薫が頭を悩ませていると大きい方の女子から改めて説明とお礼を貰ってしまった。
「あぁ、あの時のか。別に気にしなくていい。あれくらいならいつだって助けてやるから」
自分で言っていて歯の浮くようなセリフに全身が身震いする。薫にとってはただモンスターを倒しただけのことであって助けたのは偶然だ。それでもお礼を言われて無下にするほどでもないと薫はつい昔の仲間が言っていたようなセリフを口にしてしまった。
女子は目をキラキラと輝かせながらお椀を受け取り大きくお辞儀をしてその場を去っていく。薫は「キャラじゃないな」と心の中で思いながらも嬉しそうに笑みが溢れる。
「薫くんも隅におけないなー」
そんなやりとりを横で見ていた瑠華はとてもニタニタした顔で薫を見ている。正直勘弁してほしい。自分は決して他人からお礼を言われるような人間ではないのだ。助けた人たちからは英雄様だのと言われているのはわかっているが薫は英雄ではないのだ。ただモンスターを殺し、仲間を守る。それは当たり前のことであって褒められることではない。人には出来不出来があるのだ。薫はただ戦いという面に感じて才能があっただけにすぎないのだ。
「勘弁してくれ、俺はただモンスターを倒しただけなんだから」
「でも七瀬くん英雄なんでしょw。さっきから七瀬くんのこと英雄様、英雄様って言ってる人結構見てるもん」
語尾に「w」というバカにしたような含みを感じる言い方をしながら反対側にいる霧奈が話に割って入る。
「それはお前もだろ。なぁ、
「ちょ、その名前で呼ばないでよ!本当に恥ずかしいんだから、、」
そう霧奈はというとワイバーンを倒した一件でその長い黒い髪と金色の弓を使う姿、そしてその凛々しい立たずまいから
霧奈もその自覚があるのか顔を真っ赤にして列に並ぶ人たちに配膳をしている。
「あはは、二人とも人気者だね〜」
そんな二人を配膳しながら眺めていた瑠華は陽気そうに応える。
「いや、お前も大概だと思うぞ」
「私も神楽さんの方がすごいと思う」
「え?」
二人の言葉に瑠華の手が止まる。そう瑠華はというと霧奈と別れてからは自警団の人たちと一緒に避難誘導をしていたり、近づいてきたモンスターと戦ったりとしていたために自警団の中ではその小さく愛くるしい容姿と白くて美しい髪が羽のように見えるため天使様なんて呼ばれ方をしているのだ。
「うそ、私なんて呼ばれてるの?ねぇ、なんで二人とも無視するの?ねぇってば!」
◇◆◇◆
「本当に私の方にはアレ入ってないんだよね?」
「大丈夫だって入ってても美味しいから」
「そういう話してないんですけど!?」
霧奈はカレーの中から肉をすくい出すとじっと眺める。そして強く目を瞑るとそのまま口の中に放り込む。
「ちゃんと牛肉だっただろ」
「んー」
霧奈は口の中で肉を噛みコロコロ転がす。
「多分牛肉な気がするけど…。あんたのせいでよくわかんないじゃない」
そう言いつつも霧奈はカレーを美味しそうに頬張り続ける。
「そういえば二人とも能力は使えるようになったんだよな」
薫は食べる手を止め二人を見つめる。
「一応使えるっぽいけど」
「うん、使えると思うよ」
「それならしばらくは二人にも手伝ってもらうか」
「手伝うって私たちは何をすれば良いの?」
「そうだな、その辺はまた明日にでも話すよ。それでどこまで使えそうなんだ?」
「私はまあまあ慣れてきたと思うよ。それでも私の能力は探知系の能力だから戦闘に関してはあまり役に立てないかも。ちなみに薫くんはどんな能力なの?」
「俺の能力は"怒りを蓄積してエネルギーに変える能力"だ」
「その蓄えたエネルギーは何に使えるの?」
「主には身体能力と自己治癒力の強化だな。一応数日間飲食と睡眠をしなくても大丈夫だけどエネルギー効率が悪いからあまりそっちには使わないな」
「なんか変な能力ね。私はまだ能力使えないんだよね。弓?みたいなモノを出すことはできたけど能力そのものはまだよくわからないのよね。ちなみに私の能力ってどんなモノなの?」
「そうか、確か霧奈の能力は……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます