第15話 避難と困惑
薫はただひたすら走り続ける。モンスターを見つけては殺し、見つけては殺しを繰り返しひたすら走る。見つけるモンスターのほとんどはゴブリンかオーク、大鴉のどれかだ。オークの外見は二足歩行しているイノシシに近いものだ。体格は大柄で力強く、かなり大食いで、よくゴブリンと組んで人を襲っている。大鴉は名前の通りで見た目は大きなカラスだ。体長は二メートルはありそうなほど大きく、雑食で人やモンスターの死骸などを食べている。死骸を食べるため人を襲うことは滅多にないが、お腹が空いている時は人、モンスター限らず自分より小さいものに襲いかかる。
薫の視界にゴブリンの陰が映る。薫はそのゴブリンをなんの躊躇もなく切り捨てまた走る。
「あ、ありがとうございます!」
薫は後ろから声をかけられその足を止めた。そこにはゴブリンに襲われていたであろう男がボロボロになりながら立っていた。
「おい、この辺は危険だから早く避難した方がいい」
「は、はい!本当にありがとうございます!!」
薫は走り去って行く男の姿を眺める。これで何人目だろうか。薫はこれまでに子供を庇いゴブリンに襲われていた女性、大鴉から必死に逃げる二人の少女、無謀にもオークに戦いを挑む青年、他にも多くの人を助けそのすべての人が七瀬に感謝を言葉にした。
「感謝されるようなことしてないんだけどな」
薫は頭の後ろをかきながらぼやく。薫にとってモンスターを殺すという行為は決して誰かを助けるためにしているわけではない。もちろん仲間のためには戦うが、赤の他人がどうなろうとも薫には知ったことではない。それなのになぜかみんながみんな感謝の言葉を口にするのは少し気が引ける思いがあった。
そんなことを考えていると薫の上空から「ギャオーン」と大きな鳴き声をあげながら一匹のワイバーンが突撃してくる。薫は上を見ることなくその場から飛び退けると先ほどまで薫のいた位置にそのワイバーンは顔から激突する。
砂埃が舞い地面は軽くえぐれはしているもののワイバーンはピンピンしている。またしても上に飛び上がるワイバーンはもう一度薫に向かって突撃してくる。
「相変わらず単調だな」
薫はそのワイバーンに対して今度は手に持つ大剣を一閃する。ワイバーンの胸あたりを一直線に斬り、血が噴き出る。
「浅いな」
斬られたことに驚いたワイバーンは薫から逃げようと必死に空高く飛び出す。しかし、薫はそれを逃さない。手に持つ大剣を逆手に持つとそれを飛んでいるワイバーン目掛けて投げる。その大剣は見事ワイバーンに当たり、腹から背中にかけて貫通する。そして大剣が刺さったままのワイバーンは飛ぶことが出来ずその場に落下する。
「今日は一旦帰るか」
薫はワイバーンに突き刺さる大剣を抜くと空を見上げる。太陽はすでに沈みかけ、空はオレンジ色に染まっている。薫は瑠華たちと約束した避難所へと再び走り始める。
◇◆◇◆
薫が走り去り残された三人はこの後どうすればいいのかわからずその場でオロオロしていた。
「えっと、とりあえずどうしますか?」
「えーっと、確か薫くんには近くの学校に避難しておけって言われてたんだけど」
「それなら早く向かいましょうか」
瑠華の先導のもと霧奈は学校へと向かおうと歩き出そうとした。その時服の裾を引っ張られるような感覚がし後ろを振り向く。
「どうして二人ともそんなに冷静なの?モンスターだよ?人が死んでるんだよ?それなのにどうして二人ともそんなに落ち着いてるの?霧奈も何か知ってるんでしょ?いきなりこんなところに連れてきたと思ったら街がわけわかんないことになっちゃって、ねぇいったい何が起こってるの?」
霧奈はしまったと顔に手を当てる。今まで説明する暇がなく姉には何も話せていないままここまで連れてきてしまった。姉に話せなかったのは薫の話が半信半疑だったからだろう。薫のことは信頼しているが姉に話そうとは思わなかった。もし姉に話しても信じてもらえる自信はなかったし、仮に薫の言うことがただの妄想だとしたら今後姉からは変な目でみられることになっていたかもしれないからだ。大好きであり、尊敬する姉からそのような目でみられるのは正直心にくる。そのため今この状況になるまで姉には何も話すことができなかったのだ。
「後でちゃんと説明するから今は…」
「後でじゃわかんないよ、今説明してよ」
「と、とにかくここは危険ですから移動しませんか」
やや姉妹喧嘩になっていた空気を瑠華が割って入ることで栞菜は少し冷静になる。
「そうですね、すみません。少し冷静じゃなかったです」
「それじゃあ少し移動しましょうか」
◇◆◇◆
三人は瑠華の能力をくししてモンスターに一回も出会うことなく近くの楠木高校まで来ることに成功した。
「早くこっちに来い!」
三人が校門まで来ると木刀を持った男子生徒が強くではあるが静か声をかける。
「ここはまだ安全だから早く中に入れ。ん?なんだそれ?」
男子生徒は不思議そうに瑠華の周囲を漂う銀色の盾を指さす。
「こ、これは私の能力で…」
「能力が使えるのか!すっげーまじアニメの世界みたいだな!!」
こんな時でも能力やら特別な力やらに興奮するのは男の子の性なのだろうか。男子生徒は目を輝かせながら盾をペタペタと触り始める。
「本物だ、すげーな。もしかしたら俺もこんな力持ってるんじゃないか?なぁ、どう思う?」
「え、いやどうなんでしょうね?」
食い気味な男子生徒に対して瑠華は若干引いている。しかしそんなことには気づくことなく「か◯は◯波」と言い始めたり、両手の人差し指と中指を立てて十字にクラスさせたりと何やら一人で盛り上がり始めている。
「それじゃあ私たちは行きますねー」
一人盛り上がる男子生徒を横目に校門を潜ろうとしたその時、ふと我に返った男子生徒は神楽の方を掴む。
「は、はいなんですか?」
「あんたは戦力になりそうだからここに残ってくれ」
「え、でも…」
瑠華は二人の顔を見る。
「いいよ、私たちなら大丈夫だから。他の人たちを守ってあげて」
「いや、でも……うんうん、わかった。何かあったらすぐ行くから」
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