第10話 五日目 神楽 瑠華

「ん、んんー、くるしい」


 薫は体の上に何かが乗っているような苦しさで目が覚める。そして上に乗っているものを確認する。そこには白くてまるまるとした小さな生き物が薫の上にのしかかるようにしてスヤスヤと寝息を立てていた。薫はその生き物の頭を叩くと「ヒギャ」という鳴き声とともに叩かれた頭をさすり始める。そしてそのまま何事もなかったかのように再び寝ようとするその生き物を薫は地面に落とした。


「ドギャ、ちょっとなにするの!」


 その生き物はやや涙目になりながら上目遣いをしてベッドの上にいる薫を見つめる。薫は大きくため息をつきながらベッドから体を起こしリビングへと向かう。白い生き物はトテトテといった音が聞こえそうな歩き方で薫の後を追いかけた。


◇◆◇◆



 この白くて小さな生き物こそ薫の従姉妹に当たる神楽かぐら 瑠華るかという人物である。瑠華は薫の四つ年上で現在はそこそこ頭のいい大学に通っている大学生だ。髪は真白でその瞳は水色をしている。膝ほどまである長い髪は少し波がかっており、そのあまりなもの小ささから小学生と勘違いされるほどだ。十人が彼女の姿を見たらその十人全員が「ロリっ子だ」と確信するほどであり、同じ大学に通う友達からは妹のような扱いをされる。いわば合法ロリだ。


 そんな合法ロリこと神楽瑠華はモンスターが現れた際薫と共に行動しており、それ以降も幾度となく薫の横で支えてきた人物だ。瑠華の能力はあまり戦闘向きではないものの【エキタス】の中では薫、総司郎、霧奈に続いて四番目に強いとされる実力を持つ人物だ。これは彼女がであることから、契約者はその契約相手によって様々な能力を得ることができ、そのほかにも身体能力の向上という能力とは関係なく身体の作りが変化することが確認されているからだ。そのためロリっ子少女という見た目とは裏腹に拳一つで大岩を砕くことの出来るほどの力を保有しているのだ。そのため能力者相手には能力を使わずともかなり善戦できるものの、それでも戦闘向きの能力を持つ契約者相手には一歩劣るため契約者の中では弱い部類になる。そんな瑠華だが【エキタス】では主に参謀という役割をしており、薫から副リーダーを任せられるほど信頼され、霧奈が死亡した後は第一部隊の部隊長としても活躍していたほどだ。


◇◆◇◆



 薫はリビングで朝食を済ますとテレビをつけソファーに腰掛ける。その間も瑠華は薫の後ろをチョコチョコついてきており、無視し続けていた薫もついに神楽へと振り向く。


「さっきからなにしてんだよ」


「え、いやー…」


 瑠華は両の人差し指を合わせながらもじもじと体を揺らす。薫に何か言いたげなもののどう言えばいいのか分からないといった様子だ。瑠華にはすでに昨日のうちに薫が未来から来たことを話している。薫は霧奈同様信じてもらえないことを覚悟していたが瑠華は七瀬の言葉をあっさり信じ、薫は拍子抜けしてしまった。最初こそあまり信じてはいなかったものの薫の能力の一端を見せると瑠華はそれを信じてくれた。


 瑠華も最初に薫が「未来からきた」と言い始めたときはついにこの子の頭が壊れてしまったのではないかと思っていたが、様々な質問をしていくうちにどれも辻褄が通っており、そして薫の力の一部を見たことで瑠華自身も薫の言葉が真実であると確信した。というよりもなにもない空間からいきなり禍々しいほどの大剣を出されては信じるしかない。瑠華はそんな昨日のことを思い出しつつ薫を観察していた。だって人類が滅亡するほどの危機が迫っているというのにそれを知る当の本人がここまでのんびりしていてはこちらの方が焦ってしまう。


「だってもう時期モンスターが来るんでしょ?それなのにこんなにのんびりしてていいの?」


「そのことなら問題ない。やることと言っても食料を保管しておくくらいしか出来ることはないし、今焦ったところでモンスターが早く現れるわけでもない。だから今はただのんびりと体を休めるしかないんだ」


 薫の言葉に瑠華も納得する。しかし、納得できたからといって安心出来るわけではない。瑠華は自身が最も不安に感じることを薫に聞いてみる。


「それでいつになったら私はそのけいやくしゃ?になれるわけ?」


「そうだな…」


 薫は顎に手を当てて過去の記憶を遡る。なんせ八年前の記憶だ。それでも薫にとっては大切な仲間たちとの記憶であり、思い出すことは用意だ。


「確かモンスター出現とほぼ同時だった気がする」


 薫は八年前の記憶から大地震とともにモンスターが現れた時のことを思い出す。あの時は大きな揺れにも驚いたが横にいた瑠華がいきなり光だしたことの方が驚いたほどだ。薫はそんな出来事を思い出し、自分もサタンと契約した時あんな風に光っていたのかなといった疑問が脳裏に浮かぶ。


「それって本当に大丈夫なの?だって早く能力にならないとモンスターに太刀打ちできないじゃん」


「別に問題ないだろ。前回は能力をまともに使うことすらできな状態からスタートしたことに比べれば今回は事前に情報もあるし、使い方だってある程度わかるんだ。それに俺がいるんだ、誰も死なせはしないさ」


 薫は瑠華を感心させるかのように言うとソファーから立ち上がり着替え始める。そしてそのまま玄関へと向かった。


「どこに行くの?」


「少し散策してくるだけ。綺麗な東京の景色を今のうちに見ておこうと思って」

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