第一章 八年前の世界
第3話 一日目 八年前の世界
薫は目が覚めると上半身を飛び起こすと自身の首を触ることで繋がっていることを確認する。そして次は自身の服を捲り上げ腹部を確認するがそこには傷はなく、とても綺麗な肌だ。
「ここは…」
薫は自身の体にケガがないことを確認すると今度は周囲を確認する。
「どうなっているんだ……それにここはどこなんだ?」
学生が使うような勉強机とクローゼット、カーテンを閉め日差しを遮っている大きめの窓、そして今薫が寝ているベッドしかない質素な部屋だ。薫はこの場所に覚えがある。しかしありえない、ありえるはずがないのだ。薫は自身の現状を理解しようと必死に頭を回転させるもやはり理解できない。
「どういうことだ…俺は確かに首を切り落とされて死んだはずだ…。あの時の痛みは夢であるはずがないし今でも鮮明に思い出すことができる。もしかしたらここは死後の世界なのか?だとしたらここは見覚えがある。しかしありえない、ここは、そうここは…」
薫は自身の思考を口に出しながら考えることで現状を整理しようとするもやはりわからない。薫が今わかっていることといえば、自分は首を斬られ死んだこと、それなのに今は生きていること、そしてここが八年前に世界中に溢れたモンスターたちによって破壊されたはずの"自分の家の自室"であることだ。薫はベッドから体を起こすと窓のカーテンを開ける。日差しを遮っていたものがなくなったことで少し薄暗いかった部屋に明るさが差し込み、薫は太陽の日差しの眩しさに片手で影を作る。
「本当にどうなっているんだ……」
薫は外の景色を見たことでここが本当に現実なのかわからなくなる。多くの家がその形を綺麗に残したまま立ち並び、道路には朝からたくさんの車が走っており、歩く人の姿さえ見える。これはありえない光景だ、薫の知る世界では、家々はモンスターたちにより破壊され、原型を留めている建物は大抵がモンスターたちのねじろとなっている。それに車が走れるような道路はなく、ほとんどが戦闘跡やモンスター同志の縄張り争いで暴れたために地面はひび割れ、瓦礫がそこら中にあるはずだ。しかも、モンスターが闊歩するこの世界で一人で外を出歩くなんて自殺行為なことをする人物は存在しない。
『チュンチュンチュン』
薫はその声を聞くと空を見上げる。そこにはスズメやカラスが空を自由に飛び回り、世界が平和であることが当たり前かのように歌を歌っているようだ。もとの世界ではモンスターたちによって生態系は破壊され、鳥や魚といった空や海に生きる生物たちですらほとんど見ることはない。薫はそれらの光景を見たことで先ほどまでの思考が停止してしまう。そして薫は慌ててベッドの方へと戻ると枕元に置いてあるスマホを手に取り日付を確認する。
『2018年7月11日午前6時27分』
薫はようやく理解する。これはモンスターが溢れる前の世界であるということに、何らかの能力によって過去の世界に戻されたのだと。普通なら今までのモンスターが世界中に跋扈していたのは夢で今夢から覚めたと思うところかもしれないが、薫は今までのたくさんの仲間たちの出会いや死んでいった時の悲しみや憎しみ、多くのモンスターを殺し、また多くの人たちを殺してきたこの感覚、そして自身が死んだ時のあの痛み、それらのことからあれが夢ではないと実感させる。そしてモンスターが現れるのは2018年の7月17日午後3時頃、つまり今日を含めあと七日後には再び世界中はモンスターの手によって虐殺が始まるだろう。
「これはあの男の能力なのか…?俺はあの男によって過去に飛ばされたということか、しかしなぜこんなことをされたのだ?あいつは最後になんと言っていたか……」
薫は自身の死に際に男が呟いていたことを思い出そうとするが意識が消えかかっていたために一部の単語しか聞き取ることはできなかった。
「確か『すまない』と『救ってくれ』だったか…」
『すまない』はまだわかる。俺も最初の方は人を殺すことに罪悪感があったからだ。しかし、『救ってくれ』とはなんだ?もしかしたらその言葉に今俺がここにいる理由があるんじゃないか?そうだ、おそらくだが俺は未来の出来事を知った上で過去に戻されたのだ。そして『未来を変えてくれ、誰かを救ってくれ』っていうことなのではないだろうか
薫は自身の中に答えが出たことで納得する。これが正解というわけではないかもしれないがこれ以上考えたところで答えがわかるわけではない。そのため薫は自身が納得できる答えを出してこのことに関しては一度頭の片隅に追いやることにした。
「そうだ!時間!」
薫は手に持つスマホで時間を確認する。
『午前7時22分』
薫は時間を確認すると慌てて学校へ行く準備をする。八年前にタイムスリップしたことで薫の現在の年齢は十七歳になり、もうそろそろ学校に行く時間になる。薫は制服に着替えると慌てて家を飛び出した。
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