第2話 英雄と呼ばれた男の死

「はぁ、はぁ、はぁ…」


 腹から出た血を手で押さえながら近くの木にもたれかかる。腹は貫通しておりそこから出た血が薫が歩いてきた道にポタポタと血痕を残している。


 もうだめだ俺は助からない。今まで多くの仲間の死に際とたくさんの人を殺してきた俺だからこそわかる。


 しかし、頭ではわかっていながらも体は必死に仲間の元へと向かおうとしている。もしかしたらまだ間に合うかもしれない、仲間が助けに来てくれるかもしれない、今治療すれば治るかもしれない、そんな淡い期待を抱いてしまう。

 

いったいいつ攻撃されたのか、例えCランクというはたから見れば高ランクのモンスターであろうと薫からすれば少しでも足と腕さえ動けばケガをしていようがなんの苦戦もすることなく倒すことが出来る相手だ。それに、薫に気づかれることなく腹を貫通させるほどの攻撃となるとミノタウロスやゴブリンには不可能だ。ここから推察されるに「この場にはこの二種類の他にも別の何かがいる」そう考えるべきだ。薫の気配察知能力はかなりたけているため隠密系の能力を持ったナニカ、もしくは薫以上の強者である確率が高い。そしてそいつこそが今回の襲撃の犯人であると薫は直感する。


◇◆◇◆



――ザッザッザッ


 地面の砂をゆっくりと踏みしめるようにしてこちらに近づいてくる足音が聞こえる。血がですぎて頭がボーッとしてるというのになぜかこの音だけは嫌になるくらい大きく聞こえる。その足音は徐々に近づいてきて薫の少し前まだ来ると音はなりやむ。


「…‥お前はいったい何者なんだ……?」


 薫がを正面を向くとそこにはフードを深く被った人物がそこには立っていた。体には返り血を浴びており右手に持つ短剣からは大量の血が滴り落ちている。


「…‥すまない……だが許して欲しい。もうこうするしか無かったんだ。何十回いや、何百回と繰り返して来たけど僕には救う事が出来なかった……僕の力ではこれ以上の結果を出す事が出来ない。けど君なら、多くの能力者たちを束ね、憤怒の悪魔に魅了された君ならきっと救ってくれると信じている…‥君には重荷を背負わせてしまうかもしれないが僕にはもうどうすることもできないんだ。だから…………」


 男はどこか悲しそうで、その声は少し震えている。たくさんの血が出て意識もはっきりしなくなってきた今の薫にはもう男が何を言っているのかはわからなかった。薫は動かない体をよじり男の顔を睨む。それと同時に少し離れた場所に立っていた男もゆっくりとだが、一歩一歩俺に近づいてくる。あと八歩、七、六、五、それは俺に死を告げるカウントダウンのように靴音が徐々に近づいてくる。三歩、二歩、一歩、手を伸ばせば握手出来るほどの距離まで着た男は右腕を上に大きく持ち上げると薫の首元めがけて落ちてくる。殺される瞬間、最後に見たのは自身の首のない体と男のフードの中からこぼれ落ちる大粒の一滴の涙だった。

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