第十三話

俺は呆気にとられた。


(あれ、俺キスされてるのか?)


唇が柔らかい。


ただその情報しか考えられない。


実際は数秒しか経ってないだろうが、俺には永遠にも思える時間を感じた。


「……」


「……」


お互い俯いたままだ。


「三咲、お前は橘のことが好きじゃなかったのか?」


そう、思っていた。


現にデートに誘ったのは彼女自身だ。


「好き、と言える程ハッキリした感情ではない。でも、今はそんなことはどうでもい

い。私は阿部のことが好きだ、大好きだ」


今度は俯かずに俺の目をはっきりとみて告白してくれた。


「三咲」


「何だ?」




「もう一回キスしないか」


「…一回でいいのか?」



「じゃあ、今日は帰るよ」


「送ろうか?」


「いや、いい。この余韻を楽しみたいからな」



「そうか」


「なあ、明日も来ていいか?料理を振る舞いたんだ」


思わぬ提案だ。


「ああ、楽しみにしてる」


そう言って俺は三咲を送り出した。


(しかし、まさかあいつと両想いになるとは)


女の子と初めてキスをした。


俺もその夜は余韻を一人で楽しんだ。


—翌日、夕方インターホーンが鳴った。


扉の前に三咲がいた。手にはビニール袋を持っている。


「おっ。随分な荷物だな」



「当たり前だ。愛情を込めるにも材料はいるんだ」


随分素直になった。


そして、その素直な気持ちは嬉しい。


家に上がり、三咲は台所に向かい料理を作り出した。



俺はその間テレビを見ている。


「なあ、三咲」


「何だ?」


「マリって呼んでいいか?」


リズム良く切っていた包丁の音が止まる。


「じゅあ、私は次郎と呼ぶ」


そして、料理ができた。


出来たモノはカレーだ。


海鮮類が豊富に入っており、結構食費がかかっているのでないかと思われた。


「どうぞ」


マリに勧められ俺は口にする。


「……」


「どうだ?」


マリは不安そうに尋ねる。

「旨い」



旨すぎる。


こんなカレーを食べたのは初めてだ。


スプーンが止まらない。


おれは夢中になって食べた。


食事も食べ終わり。


マリは食器を洗う。


「次郎、君は私のどこが好きなんだ?」


「自分に自信がないのか?」


「当たり前だ。私は自分が嫌いなんだから」


マリは答えた。


「どうして自分が嫌いなんだ?」


「不愛想で面白みのない女だからだ」


「お前は面白い女だよ」


「おい、それはどういう意味だ?」


「からかい甲斐があるという意味だ」


俺はそう言うとマリのスカートを勢いよくめくった。


「!!」


「今日は黒か」


「このスケベめ!!」


俺はマリからケリを食らうが勿論止めた。


通信空手を習得してるからな。




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