第十三話
俺は呆気にとられた。
(あれ、俺キスされてるのか?)
唇が柔らかい。
ただその情報しか考えられない。
実際は数秒しか経ってないだろうが、俺には永遠にも思える時間を感じた。
「……」
「……」
お互い俯いたままだ。
「三咲、お前は橘のことが好きじゃなかったのか?」
そう、思っていた。
現にデートに誘ったのは彼女自身だ。
「好き、と言える程ハッキリした感情ではない。でも、今はそんなことはどうでもい
い。私は阿部のことが好きだ、大好きだ」
今度は俯かずに俺の目をはっきりとみて告白してくれた。
「三咲」
「何だ?」
「もう一回キスしないか」
「…一回でいいのか?」
▼
「じゃあ、今日は帰るよ」
「送ろうか?」
「いや、いい。この余韻を楽しみたいからな」
「そうか」
「なあ、明日も来ていいか?料理を振る舞いたんだ」
思わぬ提案だ。
「ああ、楽しみにしてる」
そう言って俺は三咲を送り出した。
(しかし、まさかあいつと両想いになるとは)
女の子と初めてキスをした。
俺もその夜は余韻を一人で楽しんだ。
—翌日、夕方インターホーンが鳴った。
扉の前に三咲がいた。手にはビニール袋を持っている。
「おっ。随分な荷物だな」
「当たり前だ。愛情を込めるにも材料はいるんだ」
随分素直になった。
そして、その素直な気持ちは嬉しい。
家に上がり、三咲は台所に向かい料理を作り出した。
俺はその間テレビを見ている。
「なあ、三咲」
「何だ?」
「マリって呼んでいいか?」
リズム良く切っていた包丁の音が止まる。
「じゅあ、私は次郎と呼ぶ」
そして、料理ができた。
出来たモノはカレーだ。
海鮮類が豊富に入っており、結構食費がかかっているのでないかと思われた。
「どうぞ」
マリに勧められ俺は口にする。
「……」
「どうだ?」
マリは不安そうに尋ねる。
「旨い」
旨すぎる。
こんなカレーを食べたのは初めてだ。
スプーンが止まらない。
おれは夢中になって食べた。
食事も食べ終わり。
マリは食器を洗う。
「次郎、君は私のどこが好きなんだ?」
「自分に自信がないのか?」
「当たり前だ。私は自分が嫌いなんだから」
マリは答えた。
「どうして自分が嫌いなんだ?」
「不愛想で面白みのない女だからだ」
「お前は面白い女だよ」
「おい、それはどういう意味だ?」
「からかい甲斐があるという意味だ」
俺はそう言うとマリのスカートを勢いよくめくった。
「!!」
「今日は黒か」
「このスケベめ!!」
俺はマリからケリを食らうが勿論止めた。
通信空手を習得してるからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます