第十二話

何故あの男は私をあそこまで構ってくるのだろう。


阿部次郎


あいつが来てから何かが変わり始めている。


このどうしようもない閉塞感が綻び始めている。


「先生、阿部君の住所を教えてほしいのですが」


浮本先生に尋ねる。


「そうね、ちゃんとお礼を言わないとね。今時、あそこまで男気のある人は珍しい

わ」


先生は快く阿部の住所を教えてくれた。


「ところで、一花さんと君の事なんだけど何かあったの?」



「いわゆる痴女の縺れです。一花さんが橘君の事が好きで私も彼の事が好きだと勘違

いをしているのだと思います」


「なるほど。君はこの一件は一花さんが絡んでると思う?」


「ええ。でも正直どうでもいいです」


私は正直に答えた。


「どうでもいい?」


先生はキョトンとした。


「今はどうでもいいです。それより大事なモノがありますから」


「あらあら。阿部君も隅に置けないわね」


それから三日たった。



本当はすぐにでも行きたかったが、中々踏み出せない。


あいつの顔を思い浮かべると心拍数が上がる。


どんな服装で行けばいいのか。


髪型は、化粧は?


色々と考えてしまう。


「いつも通りいこう…」


結局、三日考えた末の結論がこれだ。


阿部のアパートに着いた。


(緊張するな)



私はインターホーンを鳴らした。


ガチャ


扉が開き阿部が現れた。


「おっ、三咲か?」


「今、いいか?話したいことがある」


「ああ、いいぞ。大した部屋ではないが」


(へ、部屋に入るのか。こいつの…)


心臓の鼓動がうるさい。


阿部にも聞こえてないだろうか。


部屋の中は以外にも整っていた。


というより余計なものがない感じだ。


合理主義なのかもしれない。


そういえば、一花を自供させた時もその話術は見事だったと、クラスの一部ではさ

さやかれている。


その後、あいつと軽口を叩く。


この何気ない会話が楽しい。


私は、ずっと聞きたかったことがあった。


「なあ、阿部。何でお前は私の為にここまでしてくれるんだ」


何で私なんだろうか。


無愛想で面白みもない。


「お前の事が好きだからだよ」


何て言ったんだ?


私の事が好きだって?


「お前の笑ってる顔が見たいんだ。ずっと悲しそうな、辛そうな、何かに耐えてそう

な顔を見たくない。だから三咲マリが笑ってくれためなら俺はお前を救いたい」


ダメだ。もう我慢できない。


私は彼にキスをした。





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