第九話

俺は体育館に向かった。


扉を乱暴に開ける。


女子生徒と教師が一人。


突然の俺が現れたことにより一瞬静まり返る。


「あ、阿部。男子は校庭で授業だぞ」


教師が声を絞り出す。


そんな声を無視し、俺はあの女に詰め寄った。


その女とは


「三咲の靴を隠したのはお前だな。一花」


「…急に何を言ってるの?私がそんな事をした証拠は?」


一花は落ち着きを払って反論した。


証拠はない。


だが、間違いなく一花だ。


なぜなら、こいつはゲームでも橘にスキンシップをする奴に対してその人物の所有物

をある場所に必ず捨てるからだ。


一花はある意味でどのキャラクターよりも歪んでいる。


「こんな事をするのはお前しかいない」


「阿部君。私の言ってること分かるかな?証拠は有るのかどうか聞いてるの」


「お前は橘が好きだ。だからライバルになりえそうな三咲を追い詰めるためにこん

なバカげたことをしたんだ」


「憶測でモノを言わないでね。私はそんな事をする人じゃ「いや、お前はそんな事を

する人間だよ」


俺は一花の発言を被せた。


「お前は誰より腹黒い女だ。まあ、そんな汚い女は橘にお似合いだな」


一花の表情が怒りで険しくなる。


「まあ、でもお前の気持ちも分かるぜ。三咲はお前より美人だ。おまけに頭もよく

ピアニストとしての才能もある。男としてはそんな女に想いを抱かれるなんて鼻が高

いだろ」


「……」


「お前にはない魅力が三咲にはある。危機感を抱いたお前は三咲の靴を隠した。蹴

落とそうとした。橘が取られかもしれないからだ」


「……」


俺は更に煽った。

「だがその判断は正しい。一花。お前の魅力はありふれたモノだ。どこの高校にも何


人かはいる、その程度のモノだ。だが三咲は違う。日本中探してもまずこの学校しかいないだろう」


「……」


「橘はお前に惹かれることはないだろうなぁ」

「うるさい!!!」


一花の怒号が響き渡る。


「あんたに何が分かるっていうのよ!!大体私が三咲さんの靴を噴水に捨てた証拠は

あるの!!?」


「…噴水にあるのか」


「!!」


光一高校の名物でもある噴水がある。その噴出された水に三咲の靴が捨てられてい

る。


「俺は噴水に捨てられているなんて一言も言ってない」


「み、見たのよ!!三咲さんが噴水で探している姿を」


「あいつの足は濡れてなかった」


「くっ!!」


一花は露骨に動揺していた。


「お前には罰を与える」


「ば、罰?」


そして俺は一花の綺麗な顔を思いっきりぶん殴った。


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