第13話 かつての理系女は聖女様の真似をする

 アンはアリシアに、フローラはアレクサンドラ、ヘレンはドロテア、ネリスはクラリスに連れられて寮にもどる。お姉様たちは、今日の印象などを聞いてくる。

「アン、今日の入学式はどうでしたか?」

「はい、聖女様にお会いできて、嬉しかったです」

「そう言えばあなた達はみな、聖女様のご推薦なのよね」

「はい、でも、ちょっと聖女様がお疲れのようで気になりました」

「そうですか? 私は気づきませんでした」

「気の所為ならいいのですが……」

「そうですね。あとでお祈りしましょう」

「はい」


 寮の自室に戻ると、アリシアとアレクサンドラは、掃除の仕方を教えてくれた。

「明日からは、朝、起床後にするのよ。しばらくは私とアレクサンドラが交代で朝の掃除をお手伝いするわ。早く自分でできるようになってね」

「「はい」」

 その他部屋の備品や寮での過ごし方を教わる。一通り教わったところで、アレクサンドラが言った。

「今日はこのへんでいいでしょう。洗濯は明日教えるわ。いまから一休みしましょう」

 続けてアリシアが言った。

「ではお茶ね、私お茶淹れてくるわ」

 するとなんとフローラが、

「私、お手伝いいたします」

と言った。

「初めてのことばかりで疲れたでしょう」

「いえ、早く私、覚えたいんです。教えて下さい」

「わかったわ、アレクサンドラ、アン、待っててね」


 アンは感心しながら二人の背中を見送った。するとアレクサンドラが言った。

「私、あの子の係になってほんと良かったわ」

「はい、どういうことですか」

「アン、あの子、何にもできないけど、それを自覚してる。乗り越えようとしている。あんな強い気持ちの子は、二年生にもいないわ」

「そうなんですか」

「そうよ、だから、いいお友達になってあげてね」

「はい、だいじょうぶです。もうお友達です」

「よかった」

 アレクサンドラの笑顔は、美しかった。

 

 フローラがよたよたとお盆を持って帰ってきた。心配そうにアリシアが後ろについている。

「おまたせしました」

 カタカタと音を立てるティーカップをフローラが慎重に並べる。

「ほとんどフローラがやりましたわ。手つきを見る限り、とても美味しいですわよ」

「アリシアが言うなら、きっとそうね」

 実際フローラのお茶は美味しかった。

 

 アンも負けていられないと思う。

 

 美味しい夕食を食堂でいただき、また寮に帰る。お姉様たちはまた明日の朝来てくれるという。

 部屋で寝る支度をするフローラを見ながら、アンはフローラにどう接すればいいか考える。努力しているフローラを邪魔する気は微塵もないが、こんなに頑張っているといつか精神的に疲れ果ててしまうのではないかと心配だ。

「フローラ、お茶、とっても美味しかった。明日、お茶の淹れ方教えて」

「うん!」

 フローラはとてもうれしそうだ。

 

 消灯までまだ少し時間がある。それぞれのベッドに腰掛け、なんとなく向かい合う。

 すると、部屋の扉がノックされた。

「はーい」

 返事してアンが扉を開けると、寝巻姿のヘレンとネリスが枕を抱えている。

「いっしょに寝よ」

と言う。

 とことことフローラがやってきた。

「二人共、さみしいの?」

 するとネリスがちょっとキッとしていった。

「そんなことないわ。ただ、ベッドがとても大きいでしょ」

 アンは無理な言い訳だと思う。するとフローラが言った。

「あのね、私はさみしい。だから昨日アンのベッドに潜り込んだ」

「フローラ、ごめんなさい」

 ネリスが枕ごとフローラに抱きついた。

 

 部屋に入り、なんとなく流れでフローラのベッドに座り、ヘレンはアンのベッドに座った。

 そこからは雑談になった。

 

 お互いの夢を語り合う。

「私はね、魔法師になりたいんだ」

「そうなの、フローラ。なんで?」

「私のうちは商会をやっているんだけど、出入りの職人さんがつくるものってすごいのよ。でも私は女だから職人にはなれない。だから魔術で、いろんなものを作ってみたいの」

「ふーん、私は女騎士になりたい。父さんは兵士として働いているんだけど、たまに見る騎士ってかっこいいんだよね!」

「ネリス、なんか似合ってるね」

「バカにしてない?」

「ううん、ほめてる。私は女官になって王宮で働きたい。それでね、美味しいものいっぱい食べるんだ!」

「ハハハハハ」


「ねぇアン、あなたはなにになりたいの?」

 ネリスに聞かれた。

 アンは聖女になりたいと思っているが、聖女は国で一人だ。だからそれを口にすることは現聖女様に大変な失礼にあたる気がする。

「私ね、聖女様のお手伝いをしたい。だって今日も見たでしょ。祝福。こんなふうにして……」

 アンは聖女様の真似をして、両手を上に向かって広げてみた。

 

 すると金色の光が両手の間の空間から広がった。その光は壁、床、天井を通り抜けて出ていったように思えた。

 

「な、なに、今の?」

 フローラが動揺している。

「わからない」

「アン、なにしたの?」

 ヘレンが聞いてきた。

「なにもしてないよ。聖女様の真似しただけ」


 ちょっと沈黙があって、ネリスが言い出した。

「ヤバイ、今の光、部屋の外に行った。きっと先生たち来る」

「……」

「ヘレン、部屋帰ろう。一緒に寝ようとしていたとかバレたらきっと怒られる」

「う、うん」

「じゃ、お休み!」

 ネリスはヘレンの手を引っ張って帰っていった。ドアを閉めるのは忘れていったので、アンはドアを閉めに行った。

 すると廊下でバタバタと誰かが走る音がする。

 アンは慌ててドアを閉め、フローラに言う。

「まずい、誰か来る。ねてたふりしよ!」

「うん!」

「灯り消すね!」

「うん!」

 アンとフローラは、それぞれのベッドに潜り込んだ。

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