第11話 かつての理系女は入学式に出席する

「みなさん、座ってください。これから入学式前のオリエンテーションを行います。さあ、座って座って」

 声を張り上げるのは教室入口近くに立つローザ先生だ。みたところドーラ先生より少し若い。

 みなが着席したところで教卓に立つドーラ先生が話し始めた。

「みなさん、おはようございます」

「「おはようございます」」

 みな地元の初等教育学校を出ているので、自然と挨拶はできる。

「私は、このクラスの担任、アルンシュタットのドーラです。こちらは副担任のカッセルのローザ先生です。みなさん、一緒に勉強していきましょう。なにか相談事については、遠慮せず私かローザ先生に相談してください」

 それから入学式の説明があった。

「これからみなさんお互いに身だしなみを確認して、問題なければ大講堂へ向かいます。大講堂で校長先生のお話、続いて近いの儀式、生徒会長のお話、新入生代表の挨拶となります。入学式は以上で、そのあと昼食、この教室に戻って休憩、午後はオリエンテーションです。ではみなさん、立ち上がって近くの生徒同士で身だしなみを確認してください。問題なければ着席です」

 アンは隣のフローラと身だしなみをチェックしあった。着替えに苦労していたフローラは自信なさげだったが、アンから見たら完璧だった。逆にフローラはアンのリボンの曲がりやら髪がはねているのとかを直してくれた。

「フローラ、ありがと」

「アンもありがと」

 すぐ後ろのネリスやヘレンも大丈夫そうだ。四人でにっこりした。

 

 他のクラスメートたちも身だしなみに問題がなかったらしく、全員着席した。

「よろしいですか、では参りましょう」

 ドーラ先生の合図で大講堂へ向かう。

 

 大講堂には上級生たちが全員座っていた。アンたちのクラスが入場すると、拍手で迎えてくれた。拍手は新入生が着席するまで続く。

 拍手が鳴り終わった。気がつけば壇上には年配の女性が立っていた。

「新入生のみなさん、校長の、カールスルーエのアレクサンドラです。ただ今より入学式を行います」

 校長先生はここで言葉を一度切った。新入生一同を見渡し、話を始めた。

「みなさん、王立女学校では御存知の通り、王国の未来を担う女性を養成することを目的としています。みなさんは始めの三年間普通学を学びます。その後、個人の適性と希望に応じて、神官、女官、看護官の専門課程に分かれます。いずれにせよ、王国の未来は皆さんにかかっているのです。ですから王立女学校は、全国から集められたとりわけ優秀な女子にのみ門戸が開かれているのです。みなさん、そのことを自覚し、勉学に励んでください」


 校長先生が話し終えると、つぎに演台に現れたのは、あの聖女様だった。薄暗い教室が、急に明るくなった気がした。

「新入生のみなさん、本日はみなさんをお迎えすることができて、本当に嬉しく思います。みなさんはこれから、校長先生もおっしゃった通り、王国の未来を担う女性としての力を身につけるべく、これから六年かけて学んでもらいます。楽しいことも多いでしょうが、辛く苦しいときもあるでしょう。そして卒業後は身につけた力で、国のため、民のために力をつくしてもらわなければなりません。それをこれから神に誓ってもらいます。その自覚がないものは、いますぐこの場から立ち去ってください」

 聖女様はここで言葉を切った。もちろんアンも退席する気など無い。

 

 しばらく待って、聖女様は言葉を続けた。

「では新入生の皆さん、誓いましょう。私が近いの言葉をいいますから、皆さんはそれに続いてください」

 聖女様は祭壇の前に膝まづいた。アンたち新入生は狭い席にいるので膝まづくことはできず立ち上がり手を胸の前で合わせる。聖女様は祭壇に向かっているが、声がはっきり聞こえる。

「神よ、私達はこれからこの女学校で……」

 聖女様の言葉をみんなで復唱する。勉学に励み、国に民に奉仕するための能力を身に着け、卒業後はその仕事に身を捧げる。それを神に誓うのだ。

 アンは同時に、聖女様がなにか疲れているように見えた。

 

 続いて生徒会長の挨拶だ。

「みなさん、王立女学校へようこそ。生徒会長の、シャルルブールのミッシェルです」

 きれいな人だ。まだ八歳のアンから見たらほとんど大人に見える。かつての川崎での自分は、あんなにきれいだった自信がまったくない。

「……ですから、私達はあなた達新入生の皆さんを、本当の家族のように、妹のように接します。ときには厳しいこともあるでしょう。でもそれは、みなさんに本当に期待しているからです。しっかり一緒に勉強していきましょう」


 続いて新入生代表である。

「先生方、先輩方、本日私達はこの栄えある王立女学校に入学します。これからの六年間……」

 新入生代表は、ハノーバーのヴァネッサというらしい。カールした金髪が美しい。先生たち、先輩たち、親たちに感謝し、自分たちの決意を述べる内容だった。アンももちろん同じ気持ちである。

 

 ヴァネッサの挨拶が終わると、最後にもう一度聖女様が壇上にたった。

「最後に、みなさんに祝福を」

 聖女様が両手を上へ広げた。

 すると金色の光のようなものが聖女様の両手から溢れ、広がり、アン達新入生の上に降り注いだ。なにか体が暖かくなるのを感じた。

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