穏やかなる侵略者
トランとらん
穏やかなる侵略者
穏やかなる侵略者
ビルの谷間に唸るような音と共に雷が落ちた。運悪く、一人を巻き込んで。
男が目を覚ますと、どうやら見知らぬ病室の天井のようだ。わけもわからず一人キョロキョロと部屋を見ましていると、
「ああ、起きたかい。」
白衣をきた医者が病室に入ってきた。
「雷に打たれたんだって?すごいね。僕そんな人初めてだよ。どうだい?体調は。」
特にこれと言って体が痛む訳でもなく、手も足もしっかりと動いて感覚もある。強いて言えば、少しだけ部屋が寒いくらいである。
「いつもと変わったところはないですね。」
「それはよかった。普通はすごく痛むし、記憶にも脳とかにも結構な障害とかが出るらしいけど——、特になさそうだね。まさに奇跡だよ。」
あまり嬉しくもなかった。何せ、彼には怪我も、身に覚えも、何もかもがなかったから。
「まあ、調べても君に異常は無かった。僕らに出来ることはない。すぐにでも退院できるさ。」
そういうと、白衣の男は病室を出て行った。
そして程なく、男は退院した。
数日ぶりに街を歩いているとすぐに異変に気がついた。街中にポツポツとバケツのようなフルフェイスヘルメットを被って歩いている者がいるのだ。と、いうよりサイエンスフィクションに出てくる宇宙飛行士のようだった。たった数日のうちにそんな突飛なファッションが流行るはずはない。男は勇気を出して声を掛けてみた。
「あ、あの。」
「はい?」
振り返った宇宙飛行士はメットの分厚く黒い鉛ガラスのようなもの越しに男をみた。
「あ、すみません。なんでもないです。」
彼の振り返り、返事をする仕草は間違いなく人間のそれだった。しかし、その仕草からくる、得体の知れない漠然とした何かは男を怯えさせるには十分過ぎた。
男は逃げるように自分の家へ上がった。そしてほんの少しだけ、冷静になって、興奮状態にある自分を落ち着かせるためにテレビをつけた。しかしそれは逆効果だった。
テレビは国会中継を映した。その議員たちのほぼ半数が例のヘルメットを被っていた。
「なんだよこれ?どうなってんだよ?」
テレビの前に半分崩れるように尻餅をついて思わず声が出てしまった。すると、
ドンドンドンとドアが叩かれた。
「倉地さんですね?」
落ち着いてよく通る声が男を呼んだ。
「開けますよ。」
声の主は合鍵を使い家へ入ってきた。その後ろからも彼の部下が数人ほどゾロゾロ入ってくる。皆、そのヘルメットを被って。
「な、なんなんだよあんたら」
男の声を無視して先頭の男に部下が言ったた。
「やはり我々に気づいたようです。」
「そうだな。やれ。」
後ろの部下たちが男を押さえつけた。もちろん、男も暴れ、喚き散らした。
「何するんだ!」「やめろ!」「俺が何をした!」
口を抑えられ数分ほど暴れると男も静かになった。
「まあ、冥土の土産に教えてやってもいいだろう。薄々わかってると思うけど、僕たちはね、宇宙人なんだ。それで、この星を植民地にする。」
相も変わらず淡々と抑揚のない声で続けた。
「でもね、僕らは暴力が嫌いなんだ。だからこの星の中枢やさまざまななものに入り込んで自ら粛々と滅亡させる。それが僕らのやり方さ。」
先頭の男はヘルメット越しでもわかるほど強い眼差しで男の目を見て続けた。
「原住民には脳に埋め込んだチップで僕たちに気づかないはずなんだけど、君は強いショックで気づいちゃったんだね。」
男は銃をホルダーから取り出した。
銃声。
「地球人はどのくらいで居なくなるか君はわかかるかい?」
「ええ班長。きっともうすぐです。」
彼ら、宇宙からの来訪者は私たちの知らぬ間にやってきて私たちの知らぬ間に侵略を進めているのです。
あなたも、落雷と異星人にはくれぐれもご注意を。
穏やかなる侵略者 トランとらん @torantoran
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