第二章・異世界魔王の寝室で(2)

「君は…誰?」


驚いた俺は、少女に尋ねる。


少女の蒼い目が切なそうに潤んだように見えた。


どこか哀しそうで、儚げな雰囲気。


少女は美しい銀色の長い髪を、身にまとった青いガウンの胸元に垂らしている。


芸術品のように端正な体にはガウンで隠されているけれど、はだけた部分からは白く透き通るような滑らかな肌が覗いている。


「私が貴方を呼んだ」


少女はそう言うと、俺の頬を指で優しく撫でる。


それはまるで宝物を扱うかのように、慈愛に満ちた手つきだった。


「君が…俺を?」


そう尋ねると、少女は深く頷いた。


「お願い、今は休んで。私のベッドで…一緒に」


少女は包み込むように、俺をふわりと抱きしめる。


彼女の柔らかな温もりが伝わってくる。


その温もりと優しさに、心は安らいでいく。


「心配しないで…今夜はずっと、貴方の側にいるから」


まるで心の中を読んだように少女が囁く。


意識がまた薄くなる…


深い眠りに落ちそうだ。


だけど…それに逆らうように目を開ける。


まだ眠りたくない…


眠ってしまったら、彼女は消えてしまう。


そんな気がしたから。


「もっと話がしたいんだ」


母親に甘えるように俺は言った。


「君に、俺のことを伝えたいから…」


それを聞いて少女は嬉しそうに微笑んだ。


「私の名はティエル…今はこれだけでいい?」


耳元で優しく囁かれる少女、いや、ティエルの声。


白く柔らかい手が俺を抱え込み、ティエルの胸に俺の顔をうずめた。


彼女の髪がサラサラと肌を撫でてくれる感触…


俺は、まるで母親に抱かれているように安心し、ゆっくりと眠りに落ちていくのを感じた。


(ここは、あの悪夢の奈落の底なんかじゃない)


安心感に包まれて、再び意識が遠のいてゆく。


そして俺は、深い眠りの中に落ちていった。

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