狐の婿入り

木兎

祝祭

遙かなる年祖の時代より狐の里に伝わる、夫婦の契りの至聖なる儀。


幽玄の杜に満月の円光燦として射し注ぐ夜ごとに、いにしえの伝承に倣い、心繋ぐ二狐の門出の祝祭。


花嫁の一狐は、山峡に根付く由緒ある一族の出自にして、幼少よりの教育堅く、雲霞くもがすみの儚げなる佇まいを湛える。

やがて年月を重ねしに伴い、花嫁の座に出るべく選ばれしなり。


一方の花婿は遥か彼方の里より参りし若き狐なり。

未熟なる身なれど覇気凛と、しとやかにして潔く気品漂う。


幼少の頃より二狐には縁籠えんごの様なる機あり。


数奇なる因縁を辿りて、その命紡がれ、今宵の祝宴へと導かれしまま。


柴の梁、月に照らされし森の中、老狐たちが列を為して座す。


一統の血を引く者たちが無上の誉をもたらす装いにて集ひ、遥々より賓客ひんかくも足を運びて蝟集いしゅうす。


厳かなる祝詞。花嫁花婿の二狐が雲間を潜りぬ。しゃのたなびきに風のささやきあり、そよそよとかげる長きえい


杜の緑濃き木々の蔭は熠々ゆうゆうと灯火にて彩られ、空仄ほのか雲間に時夜眩い光を透かす月、天照の清光射し放たれん。


巫女めいて参らせし高齢の狐が、古の詞章を語る。


遥かに響く鈴がさまよいて、いとしき籠の契りを紡ぐ。


祝福をつづる幻想的なこうばしき舞手ひるがえされば、森の精霊たちは天界の声に溶けたり。


三々九々九々九々、歓びへん満ち満ちてむせぶ雷鳴と化して渦巻れり。


今ぞ夫婦の契り、今ぞ夫婦に成りしと告げられてやまねばなるまい。


万象の営みとかいなり今夜の祝宴、子々孫々に永らえんことを。


清冽の気高き霜月の澄む中空に満ちる長き鳴動、かげりゆく杜の中で力強く響きわたる永遠の

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狐の婿入り 木兎 @mimizuku0327

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