狐の婿入り
木兎
祝祭
遙かなる年祖の時代より狐の里に伝わる、夫婦の契りの至聖なる儀。
幽玄の杜に満月の円光燦として射し注ぐ夜ごとに、いにしえの伝承に倣い、心繋ぐ二狐の門出の祝祭。
花嫁の一狐は、山峡に根付く由緒ある一族の出自にして、幼少よりの教育堅く、
やがて年月を重ねしに伴い、花嫁の座に出るべく選ばれしなり。
一方の花婿は遥か彼方の里より参りし若き狐なり。
未熟なる身なれど覇気凛と、しとやかにして潔く気品漂う。
幼少の頃より二狐には
数奇なる因縁を辿りて、その命紡がれ、今宵の祝宴へと導かれしまま。
柴の梁、月に照らされし森の中、老狐たちが列を為して座す。
一統の血を引く者たちが無上の誉を
厳かなる祝詞。花嫁花婿の二狐が雲間を潜りぬ。
杜の緑濃き木々の蔭は
巫女めいて参らせし高齢の狐が、古の詞章を語る。
遥かに響く鈴がさまよいて、いとしき籠の契りを紡ぐ。
祝福を
三々九々九々九々、歓び
今ぞ夫婦の契り、今ぞ夫婦に成りしと告げられてやまねばなるまい。
万象の営みと
清冽の気高き霜月の澄む中空に満ちる長き鳴動、
狐の婿入り 木兎 @mimizuku0327
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