3-4 勇者、蹴散らす

 惑星ケイレブに到着すると、そこは灰色の世界だった。

 空は無く宇宙が見え、大地は灰色の砂で覆われている。アリアが言うには、レゴリスという細かい砂らしい。


(ユーシャ、グアンの場所わかる?)


(ああ、気配でわかる。すぐ近くだ)


 アリアの体は、少し離れた丘に隠している。魔力で包んでいるため、宇宙空間の影響は受けない。今は腕輪を左手にめ、グアンを追っていた。


(アリア、腕輪の中は大丈夫か? なぜか安定しているみたいだけど……)


(わかんない。でもフワ~っとあったかい感じ。誰かに抱かれてるみたいな)


(誰かってだれ……いや、何でもない)


(さて、誰でしょう? ……ウソウソ、たとえだってば。こうなっちゃったから正直に言うけど、あたしはそういう経験ないよ。ユーシャと一緒)


(ぼ、僕が何でだと言いきれる!?)


(いぇーい♪ その反応ダイスキ~!)


 頭の中で行われる下らない会話に、勇者の頬が緩む。からかわれても、アリアの声を聞けるだけで嬉しかった。それはつまり……。


(もしかして僕は……)


(なに? あ、ユーシャ! あそこに何かあるよ!)


 アリアの声に前を向けば、着陸した小型艇が見えた。その近くには地下への扉もある。


(この下は広い空間になっているようだ。グアンの奴もいる。このまま破壊するか?)


(えっ、ミもフタもなくない? ユーシャってけっこう脳筋だよね……出来ればグアンを捕まえたいかな。今回の騒動の責任を取って貰わなきゃ)


(なら潜入しよう。そして奴を……ん? 何か来る!)


 地面に振動が走る。

 ゆっくりと灰色の砂が割れていき、巨大な射出口が現れた。

 そこから黒い戦闘機が、絶え間なく宇宙へ吐き出されていく。


(あっ、これ! これなんだっけ、名前忘れたけど最新の無人機だよ! ユーシャ、中に人の気配は!?)


(グアンだけだ。君の言う通り、あれらに人は乗っていない。凄い技術だな)


(物資を横領して無人機の大軍作ってたんだね……こんなの超重罪じゃん! 待って、今これ出したってことは……あいつキレてシティを壊すつもりかも。ユーシャ、お願い!)


(任せてくれ。人が乗ってないなら遠慮なく斬れる。今度こそ……守ってみせるさ!)


 あっという間に、宇宙を埋め尽くすほどの無人機が現れた。その数は恐らく数十万。最後に、一際ひときわ大きな戦闘機が出現した。その中から強い敵意を感じる。


(グアンだな。思えば僕の勘違いで追い込んでしまったが……いずれにせよ、悪事は見逃せない)


 右手と左手に意識を集中する。

 なぜか腕輪から魔力が流れ込み、かつてないほど力が充実していた。

 輝く両手を頭上で合わせ、虚空を握る。

 光の柱が立ちのぼり、やがて巨大な大剣へと変化した。


 勇者は長さ3メートルの大剣を構え、不敵に笑う。


(アリア、ここなら手加減はいらないな?)


(うん! 思いきりやっちゃって!)


 元気な返事に、胸が温かくなる。

 見渡す限り黒い戦闘機に囲まれているというのに、魔王と肩を並べて戦うような頼もしさを感じていた。


(一人じゃないってのはいいものだな!)


 強く地面を蹴って飛ぶ!

 その衝撃で砂の大地が割れる。


 光の大剣を振る!

 その一撃で3000の無人機が消し飛ぶ。


 魔力を操作し、光速で移動する!

 光の衝撃によってさらに10000の敵機が吹き飛んだ。


(うおおおお! すっげー!!)


 頭の中でアリアの声がする。

 観客に応えるよう、光の大剣を振る。

 まばゆい光の軌跡が、宇宙を縦横無尽に斬り裂いた!


(……今わかった。僕は勇者であり、ユーシャだ! 僕の力は、友のためにこそ使う!)


 勇者は笑っていた。

 戦いの悦楽ではない。大事な人のために、力を使える事が嬉しかったからだ。



 そして──。


 数十万もの無人機は、わずか一機を残して全て塵へと消え去った。残った一機、グアンはその場で動きを止めている。


 勇者が中の気配を探ると、そこにはもう生命の感覚は無かった。


(すまない、グアンは自害したようだ)


(……しょーがないって。捕まっても懲役500年とかだもん。流石にこれだけ証拠があれば、言い逃れは無理だしね)


(そうか……さて、これからどうする?)


(流石にシティの警察も動いてるはずだから、後の処理は任せちゃお。あたし達の迎えは、けいちぃが来てくれる。あのコ心配性だから、今頃スッ飛ばしてると思う)


 ひとまず、この騒動は終わったらしい。

 後はアリアの体を運ぶのと、なぜか安定している腕輪を破壊するだけだ。


(アリア、君は今腕輪の中にいるんだよな? 移動は出来そうか?)


(無理っぽ。や、ひとつテはあるんだけど……クオリアってね、人に取り憑けるんだって。あたしはまだやった事ないんだけど、似たようなことは出来るの)


 アリアが言うには、手を触れるなどすれば相手の事が何となく分かるらしい。一緒に寝るなど、長時間接触すればもっと詳しく理解出来るのだそうだ。


(つまり……本気を出せば僕の頭の中に移動出来るって事か?)


(たぶん。でも……)


(何だ? 何か問題が?)


(たぶんね、頭の中に入っちゃうと全部わかると思う……恥ずかしいこととか、全部。ユーシャだってそれはイヤでしょ?)


(構わない。入ってくれ)


(えっ、いいの? ホントに? 全部わかっちゃうよ。好きな子とか、一人エッチ何回やってるかとか)


(いいんだ。やってくれ)


 勇者はうなずく。もう自分の気持ちは知っている。今さら何を躊躇ためらう事があろうか。


(あはは、ユーシャがそう言ってくれるんなら、あたしも覚悟決めるよ。じゃ、ちょっとやってみっかぁ!)


 アリアに言われるまま、腕輪を額に近づける。心を平静に保ち、そして──。


 ──ドクン!


 心臓が大きく鼓動し、意識を失った。

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