3-2 ギャル、奥の手を使う
軍艦の一室に監禁されたアリアは、腕を組んで考えていた。スマートプレートはもちろん、服以外の持ち物は全て没収されている。
(んー、どうしよっかな? ま、予定通りにやるしかないんだけど)
心配なのはユーシャだった。
彼だけには全ての作戦を話していない。最悪、ユーシャが暴走して軍艦をぶち壊す可能性があった。
(その場合はあたしも死ぬな。それはいいんだけど……いやよくないか。ユーシャ優しいから気にしちゃう。あたしのこと信じてくれるって言ってくれたし、ガンバんなきゃ!)
ここまでは、全て計算通りである。
ある人から依頼を受け、軍の一部で不穏な動きがあるから探れと言われた。その過程でユーシャを見つけたのだが、確信的な証拠はまだ掴めていなかった。
だから自分の身をエサに軍艦に乗り込んだのだが……グアン達は、アリアの裏技を知らない。それは──。
「抜けるのは久しぶりだなぁ……んじゃま、ちゃっちゃとやっちゃいますか!」
ベッドに横になり、額に意識を集中する。おデコの中央にパカリと穴が開くイメージを作り、そこから自分が抜け出すよう想像し──気づけばアリアの精神は、肉体を離れていた。
(んー、この状態になるとテンション上がるんだよね! さて、まずは けいちぃに連絡しなきゃ)
実は、アリアは
それは幽霊のような精神生命体で、壁や扉など物理的な障害は通り抜け、しかしネットワークや人の精神には干渉する事が出来る唯一の存在だ。
と言っても、純粋なクオリアではない。母親がそうだったらしく、アリアはその能力を半分だけ受け継いだ
(お母さんには感謝だよね~顔も見たことないけど。クオリアモードのお陰で色んな仕事をこなせてるんだし)
不可視の精神体となって船内を移動し、軍の内部ネットに侵入して電子の海を泳ぐ。
通信プロトコルを見つけ、ケイレブのステーションで拘束されているケートーに意識を繋いだ。
全て、頭で考えるだけで操作が出来る。既存の技術体系では無いため、誰にも見つからない。
(もしもーし。けいちぃ調子どお?)
『最悪です。あいつら私の中に出したんですよ? 土足で入って来て妨害電波を……殺してやろうかと思いました』
(よくガマンしたね、エラいエラい! ごめんね、昔を思い出させちゃって。埋め合わせは今度絶対するからさ)
部活船の管理AI、ケートーは欠陥品である。本来、AIには人間に危害を加えないよう基底部に原理を組み込まれている。
しかし、ケートーはある科学者が作った実験用の汎用人工知能だった。それが何の因果か船に載せられ、案の定暴走したのである。乗組員が耐えられない程の速度を出し、全員を圧死させたのだ。
廃棄処分にされた所を、アリアが拾って友達になったのである。
(けいちぃ、こっちは予定通り捕まったよ。ユーシャが心配だけど……そっちはどう? ハッキングの結果は?)
『残念ながらグアンとアウトローの通信記録は残されていませんでした。しかし、あーりん達を不当に連行したのは立証可能です』
ケートーは自由なAIであるため、倫理に囚われない。必要と思えばハッキングもするし、制限速度もブッ飛ばす。その点も、アリア達の強力な武器だった。
(オッケー。でもそれだけじゃ弱いね。他に何か、グアンを逮捕できる証拠はある?)
『はるるがやってくれました。
(ビンゴ! でかした はるる! やっぱりあると思ったんだよね~!)
九龍ホテルとは、裏の斡旋所である。表のカウボーイカウンティと違い、利用するのは
中立ゆえに、貸し金庫などの施設も存在する。アリアはアウトローなら、グアンに裏切られた時のために何か保険を用意しているのではないかと考え、ツテのある後輩に探らせていたのだ。
(じゃ、後はあたし達が脱出するだけかな? ノアはなんて?)
『現在、アンテノーラ市長は議会を説得中です。救助は少し遅れるかと』
(オッケー。ノアって人にはとやかく言う癖に、いっつも行動が遅いんだよね。
『ぷ。それ伝えます?』
(お尻が魅力的だね! って言っといて)
実は今回の依頼人であり、シティのトップでもあるノア・アンテノーラ市長はアリアの養母だった。幼い頃、宇宙を漂流して死にかけていた所を助けてくれたのだ。
果断な性格で多くの民心を掴んでいるが、アリアに対してはけっこう厳しい。今回についても、軍の一部が物資を横流しているから調べてこいと、危険な仕事を平気で回してくる人だった。
(けいちぃありがと! じゃ、脱出は予定通りで。ノアに交渉させてグアンを逮捕してから迎えに来てくれる?)
『それなんですが、スムーズに行くでしょうか? グアンは左遷されたとはいえ特務機関の人間です。抵抗が予想されます。ユーシャに暴れて貰えばいいのでは?』
(これ以上迷惑かけたくないんだよね……利用しないって言ったのに、ガッツリ利用しちゃったから。だから、あたしは腕輪を探さなきゃ。正直に言うとね、嫌われたくない)
『彼は気にしないと思いますが……了解、くれぐれも気をつけて下さいね、あまり長くその状態でいると肉体が死にますから』
(わかってるって。じゃ、またね!)
アリアは通信を終え、精神体のまま軍艦の内部をさ迷う。ユーシャのように気配などわからないため、あちこち迷い、しらみ潰しに探して──ようやく見つけることが出来た。
腕輪は、将校用の個室にあった。
恐らくグアンの私室だろう。キャビネットの上に開かれたケースがあり、そこに丁寧に置かれている。
(あっぶね、時間ギリギリ! 見つかってよかった~! さて、場所は覚えたから一回マイボディに戻んなきゃ……ん?)
見つけた時、アグナールの腕輪に変わった様子はなかった。それが今は──紫の光が怪しく輝いている。
(えっ、これヤバいんじゃない? え、えっ……? やっ、逃げ──!!)
急いで引き返そうとした瞬間──。
紫の光が広がった。
触手に捕まるように、アリアの精神は腕輪の中に吸い込まれてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます