第三賞

3-1 勇者、尋問される

 ホテルで捕まってから、勇者とアリアは宇宙港であるハブステーションへ連れて行かれた。

 そこで軍の小型艇に乗せられ、シティを離れる。二時間ほど航行し到着したのは、巨大な軍艦が並ぶセントラル軍の居留地だった。


 その中の一隻に連行され、勇者だけが狭い個室に通される。テーブルを挟んでイスが二つあるだけの殺風景な部屋だった。


「……座れ。名前はユーシャだったか? アウトローゴミ共によれば、お前は宇宙を漂っていたそうだな。それも宇宙服もなしで……一体何者だ?」


 丁寧な口調はどこへ行ったのか、グアンが冷たい目でこちらを睨む。手には機械式の警棒を握っていた。


「その前にアリアは無事か? 彼女に何かしたら、全ての船がちりに変わるぞ」


「勘違いするなよ。主導権を握っているのはこちらだ。お前が従順である限り、あの小娘は生かしてやる」


「それが軍人のやり方なのか? 女の子を人質に取るなんて、罪悪感は無いのか」


「虫を殺す時に罪の意識など覚えまい。俺の目的はお前だ。小娘の命が惜しいならさっさと話せ。それとも拷問される声が聞きたいか?」


 く、卑劣な奴め……!

 目の前の男に殺意を覚える。その気になればすぐにでも倒せるが、アリアの首に巻かれた爆弾を止める方法がわからない。

 今は、グアンに気づかれないよう気配を探し、同じ船内にいるのを把握するくらいしか出来なかった。


「さて、状況が理解出来たか? もう一度聞くぞ、お前は何者だ? ゴミ共の船を落とした攻撃は何だ? そして、あのは何なんだ? 未知の元素で作られたをどこで手に入れた?」


「……やはり、貴様が持っているんだな。いいだろう、正直に話そう。だが信じるかは知らないぞ」


 勇者は語った。

 自分が選ばれし光の勇者であること。魔族と戦い、やっと魔王の元へたどり着いたが危険な腕輪を封印して意識を失った事を……。


「と、言うわけだ。だからアグナールの腕輪を返して欲しい。危険な状態なんだ、今すぐにでも爆発するかもしれない」


 黙って聞いていたグアンは、冷たい表情のまま立ち上がった。警棒のスイッチを入れ、強力な電気がバチバチと走る。


 ──ガッ!!


 警棒で殴られる。しかし、それほどダメージは感じない。少しビリッとしたくらいだ。


「ほう……!? 標準人類ノーマンなら失神する程の電撃なのだがな。なるほど、なるほど……」


 グアンは再び席につき、こちらをじっくり眺める。そしておもむろに笑い出した。


「ク、クク……ハァーハッハッハ!! こんな辺境で生きた遺物レガリアを見つけられるとは! 中央の無能共め、後悔するがいい! この俺を追放した事をな!!」


「追放? どういう意味だ?」


「ふん、お前には関係ない。ユーシャと言ったか? 体を調べさせてもらうぞ。断るなら……あの小娘に地獄を見せてやる」


「卑怯者め。僕の体なんて調べても何にもならないだろう」


「わかってないようだな、自分の価値を。お前の中には失われたネイターの秘技が隠されている。フザけた耐久力がその証拠だ」


「ネイター? なぜ5000年前に消えた種族の名前が出てくる?」


「ふん、その程度も知らんのか。まあ俺のようなエリートでもなければ知る機会も無いか……いいだろう、教えてやる」


 グアンは語る。

 かつて古代ネイター人はいくつかの星に数々の人種を残していった。

 標準人類ノーマン獣化人類ビスタ長精人類エルマー、そして希少人類レアリィ……。


「遺跡から発掘された碑文などから、ネイターは遺伝子を操作し数々の人類を造った事が分かっている。そしてある星を使って、更に特殊な人類を作る実験をしていたという噂があるのだ」


「特殊と言うと、クオリアみたいな者か?」


「精神生命体クオリアか。あんなものは眉唾だ。公式記録にはあるが、誰もその姿を見た事が無いのだからな。ネイターは……どうやら、最強の人類を作ろうとしていたらしい」


 中央が保管する記録によれば、遺伝子を操るすべを持つネイター人は、ある星で常に戦闘が起き続けるようにしたそうだ。


「理由は簡単だ。恐らく最強の兵士を作るためだろう。全員で戦わせ、残った一人の遺伝子を基に改造していく。それを何世代も繰り返せば……クク、どんな兵士が完成するのだろうな?」


「まさか……それが僕だって言うのか?」


「他に何がある? お前の話が本当なら、魔族とやらと戦い続けていたのだろう? ならば噂の星である可能性は高い。クク、その星も必ず見つけてやる。まだ生き残りがいるのなら、全員捕らえて中央への手土産にしてやろう」


「そう上手くいくかな? 魔王は僕と同じくらい強いぞ」


「ならお前が倒せ。逆らうなら小娘を苦しめるだけだ。わかってるな、お前は俺の靴を舐めるしかないんだ。従順な犬になるのなら、小娘は元の生活に戻れるかもしれんぞ?」


 ギリ、と奥歯を噛みしめる。かつては王候貴族の犬だった。宇宙に来ても、その運命は変わらないのか……。

 アリアの顔が、楽しそうな笑顔が頭に浮かぶ。他に選択肢は無い。すきを見て彼女を助け出すまでは、従うしかなさそうだった。


「わかった……好きにするがいい」


「ふん、最初からそう言え。では、まずはお前の体を調べさせてもらうか。一体どれくらいの耐久力があるのか……ククク」


 グアンの顔に、サディスティックな笑みが浮かんだ。

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