2-5 ギャル、ホテルに泊まる

(友達と下見に来ててよかった~!)


 アリアはシャワーを浴びながら、心からそう思った。


 公園を離れてから、車を飛ばしてホテル街へ。以前、のために来たことがあるホテルの屋上に車を止め、エレベーターで部屋を選んで中に入る。


 その間ずっとユーシャは無言だった。

 初めてなのは間違いない。余裕たっぷりに振る舞ってはいるが、自分も同じ気持ちだったから。


(まあ、あたしも初めてなんだけど……だいじょぶ、知識だけはたっぷりあるし)


 シャワーを止め、体を拭いて髪を軽く乾かす。歯を磨き、鏡を見て変な所がないか確かめる。そして両手で頬を叩き、意を決してベッドルームに戻った。


「お待たせ。ユー……シャ?」


 ベッドの隅に座っていると思われたユーシャは、なんと部屋の中央に浮かんでいた。体全体が淡く輝き、魔力とやらの力で何かをしている。


「何やってんの? 間接照明みたいになってんじゃん」


「ん? ああ、腕輪の魔力を感知出来ないか試していた」


「結果はどう?」


「駄目だ。近くにあるような気はするんだが……どうもよくわからない。あれほどの魔力なら、探せないわけないんだけど」


「そっかー。ふふ、とりま下りてきたら? 途中で買った夜ご飯食べよ」


 ガッカリ感と、ほんの少しの安心感が心に生まれる。真面目なユーシャだと、今夜はそういうコトは無いかもしれない。腕輪の件を解決しなければ、先には進めないようだ。

 

「……まあ諦めないけどね」


「何か言ったか?」


「うんにゃ。なんでもないよ。そだ、さっきけいちぃから連絡きてたんだ。食べながら話そっか」


 アリアとユーシャはソファに移動し、ローテーブルに食べ物を広げた。そしてスマートプレートを取り出し、部活船のAIであるケートーに連絡する。


「もしもーし? けいちぃ調子どお? グアンって奴が黒幕だと思うんだけど」


『あーりん、まさか接触したのですか? 軍の異動記録に該当する名前があります。昇進でケイレブに異動との事ですが、中央から左遷された形跡が見られます』


「やっぱりかぁ~。さっき会ってね、めっちゃ煽ってやったんだけど特に情報は引き出せなかった。目的がユーシャなのは確定」


『相手は軍ですよ? 煽るにしても、ざぁこ♡くらいにして下さい。しかしグアンの経歴からすると……ユーシャは古代ネイター文明に関係があるのかもしれません』


「なんで? あいつ何やってた人なの?」


『グアンは、どうやら連邦政府セントラルのネイター研究機関に属していたようなのです。そこで何か失敗をし、こちらに流された可能性があります』


「ほえー」


『ちゃんと聞いてます? 今どこに……えっ、ホテル? しかも二人きり!?』


「だいじょぶ、だいじょぶ。何もないって……少なくとも今夜は」


 アリアは隣のユーシャをちらりと見る。外見上は、冷静な顔でご飯を食べていた。


「はぁ……まいいや、けいちぃ? グアンについて引き続き調べてくれる? こっちに来てからの通信記録とか。はるるのほうは?」


『まだ何も。ツテがあるとはいえ、九龍クーロンホテルは中立ですからね。しかし、アウトローの何人かが消されたそうです。恐らく、あの武装船に乗っていた連中でしょう』


「朝の時点で確保しておくべきだったか。手を回すのが早いね、そっちも警戒しといて」


『プランBの準備は完璧です。さて、報告は以上ですが……ホントに何もないですか? 男はケモノですよ。偶然、手が触れあったフリしてガバッと……』


「それやろうと思ってたのに先に言わないで。じゃ、バイバイ」


『あっ、ちょっ』


 プツリ、と強引に通話を切る。

 ケートーけいちぃはとても良いAIともだちなのだが一言多い時がある。

 アリアは一つため息を吐き、ユーシャに向き直った。


「ほっといてゴメンね。わかったのは、さっきのグアンが全ての黒幕。たぶん腕輪もあいつが持ってると思う」


「何だって!? なら今からでも行こう。奴の気配は覚えた、探せるはずだ」


「待って! あのね、相手は軍人で、しかも特務っていうセントラル直属の部隊なの。強引に取り返したら、こっちが悪者になっちゃう」


「しかし……! 腕輪の状態が分からない。今にも爆発して、この街が破壊されてしまう可能性もある」


「でも、さっき感知出来なかったんでしょ? ってことは、腕輪は上手く封印されてるんじゃない? グアンはネイター研究機関にいたらしいから、そういうのを封印する遺物レガリアを持ってるのかも」


「なるほど……その可能性はあるな。じゃあどうすればいいんだ? 奴らのアジトに忍び込むとか?」


「流石にそれは無理かな~。セントラル軍って、シティの外に駐留してるんだ。何隻も軍艦があるから、近づくだけで捕まっちゃう」


「僕だけで乗り込むのは? 場所を教えてくれたら、突入して壊滅させてみせる」


「却下。そしたらユーシャがお尋ね者になっちゃうじゃん。未来のこと考えようよ。いつか子供が出来た時に、お父さんは全宇宙で一番の賞金首なんだよ~とか言える?」


「それは言えないけど……いやちょっと待て。何の話だ? 僕は結婚なんてしないぞ」


「なんで? 子供嫌いなの?」


「いやそうじゃなくて。相手もいないし……じゃなくて! 僕は戦う事しか知らない。他に生き方を知らないんだ」


「じゃ、今から好きに決めればいいじゃん。ユーシャの人生だよ? 生き方を知らないってんなら、何でもできるってことじゃん」


「そう……なのかな。そうか、そういうものか……」


「重く考え過ぎじゃない? あたし見てよ、とりま楽しくて皆がハッピーならいいなってくらいしか考えてないけど?」


「それはそれで大丈夫なのか? 例えば将来の事はどう考えてるんだ?」


「学校はちゃんと卒業したいかなー。大学は全然行く気ない。今はカレシ作っていっぱいデートしたい」


「なんと言うかその……動物みたいだな」


「あっ、それ悪口。あたしが獣化人類ビスタならキレて噛みついてるよ」


「いやっそう言うわけじゃ……すまない」


 失言を平謝りするユーシャに、アリアは笑いかけた。


「あはは、冗談だってば! ほら、顔上げて。あたしなりに腕輪を取り戻すテは考えてあるからさ。不安かもだけど信じてほしい」


「そうだな、僕は君を信じると言った。その心にいつわりは無い。悪いがもうしばらく甘えさせて貰うよ」


「もちろん! 友達だしね、遠慮はナシで。ご飯食べたらユーシャもお風呂入りなよ。それからは……明日に備えて早く寝よっか」

 

 少しだけ未練はあるが、そのうちまた機会があるだろう。関係を深めるのは、問題を解決してからでも遅くはない。

 アリアは勇者の横顔を見つめながら、そう思った。




 ★★★


 翌朝──ホテルの屋上、駐車場で二人は大勢の兵士に囲まれた。ユーシャは事前に気がついていたが、アリアの指示で大人しくしている。


 指揮を取っていたグアンが進み出る。


「あなた方の仲間と船は確保しました。彼女達がどうなってもいいと思うなら、好きに抵抗して下さい」


「うわっ、イヤミな言い方。グアンさん大丈夫? 友達いる?」


「信用してないようですね。では証拠を」


 グアンがスマートプレートを操作すると、そこからハルとケートーの声が聞こえた。


『部長、すまねぇ! うちとした事が下手うっちまった!』

『パンキィドルピンも拘束されています……あーりん、申し訳ありません』


 思わず顔がこわばる。

 グアンはニヤリと笑い、近づいて来てアリアの首に黒いチョーカーを巻きつけた。


「状況が理解出来ましたかね。それでは一緒に来て貰いましょうか。そちらの君、ユーシャでしたか? 抵抗した瞬間、この子の頭は胴体から離れますので」


 首のチョーカーは小型の爆弾だ。

 つまり、自分はユーシャを大人しくさせるための人質というわけだ。


「ハァ……しゃーないか。行き先は軍艦? 食事は出してくれるんでしょーね? マズかったら星1レビューつけてやるから」


 アリアはしぶしぶ、両手を上げた。

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