1-5 ギャル、悪だくみをする

 ケイレブ第三高校の部活船、Punkyパンキィ Dolpinドルピン。ピンクのイルカの艦橋ブリッジで、アリアはポカンと口を開けていた。


「えええ……まじ?」


 メインモニターには、ユーシャが光る剣を掲げた姿が映っている。宇宙空間なのに、平気な顔で……。


 アリアは銀色の頭をかき、自分の頬をつねった。痛い、夢ではない。隣に立つ後輩に、呆けた顔のまま問いかける。


「はるる……生身で外出てレーザー撃つってこれ何? ギャグ?」


「さ、さあ……? うちにもわかんねーっす。あ、こういう時はほっぺたつねるといいってじぃちゃんが言ってました」


「それもうやった。あー……ショートムービー撮ってりゃよかったかな?」


「つねるほうっすか?」


「んや、船を斬るほう。あたしの変顔なんて腐るほど投稿してるし。って、そんなことよりマジな話さ、ユーシャの事どう思う?」


「密輸野郎から妄想男、んで今はワケわからん奴にクラスチェンジしたっす。あとは童貞くせぇなってことくらいしか」


「ひゃくパー童貞だよね。それはあたしも分かってる」


 冷静なケートーの声が割り込んだ。


『二人とも、真面目に考えて下さい。駄目元で言っておきますが、私は反対ですからね。ただでさえ今は問題を抱えているんですよ? 危険な要因は排除すべきです』


「問題って、ノアの依頼? それともこんなに早くに追いつかれたこと?」


『両方です。ユーシャを密輸していた船が、こんなに早く取り戻しに来るなんてありえません』


「確かにね~あたしとはるるで荷物を奪った後、しっかり軍に通報しておいたのにね」


「痕跡も残してないっすからね。あいつらが軍の追撃を避けれたとも思えねーし、やっぱノアさんの言う通り情報流れてんじゃ?」


 襲ってきた武装船は、ユーシャを運んでいた船だった。アリア達はある人から依頼を受け、連中を調べるため潜入したのだ。裸の少年を奪うのは想定外だったが……。


「まあ、これで色々見えてきたんじゃない?  間違いなくユーシャが鍵だよ。あんなさ、ズババッて凄い力があるんだもん。軍が黒確くろかくって分かっただけでもラッキーラッキー」


『彼は兵器として開発されたのでしょうね。真空でも平気な肉体、船を破壊するほどの強力な光線。原理は不明ですが』


「逆だよ、けいちぃ。ユーシャは間違いなく人間。軍のほうが調べたいんだろーね」


『そんな馬鹿な……信じられません。標準人類ノーマンの少年のどこにそんなエネルギーが? 検査では0.02%以外は何も……』


「それが魔力ってやつなんじゃね? うちも意味不明イミフだけど、あんなの見せられたらなー……ちょっとだけ信じた」


「まま、その辺は後でいいじゃん。それよりさ、アイツらを逃がしたから次は軍が来ると思うよ。時間があんま無いかも。けいちぃ、例の腕輪の足取りは?」


『まだです。念のため、軍が確保した可能性もあると依頼人には伝えておきます』


「アグなんとかの腕輪でしたっけ。いいじゃねーか、ユーシャといいキナ臭くなってきたっすね!」


『はるる、喜んでる場合ですか……私にしてみれば、お腹に爆弾入れるような気持ちなんですけど』


「あはは、けいちぃゴメンね。大丈夫、もしもの時は一緒に死んであげるから」


『ハァ……彼を利用するのに失敗したら責任取って下さいね』


「任せて。あ、でも利用するつもりはないよ。ユーシャは友達だから力になってあげたいだけ。こっちの常識が無いから放っとけないんだよね」


「ぶはっ! 確かにあの宇宙童貞っぷりはヤベェっすね。裏マーケットとか歩かせたら3秒で騙されそー」


「なんでかな、見てるとなーんか母性が刺激されるんだよねー……。おっと、ユーシャベイビーが帰って来たみたい。迎えに行ってくるね」


 会議を終え、アリアはユーシャを迎えるためエアロックに向けて歩き出した。

 通路を進みながら、考えをまとめる。


(さて……どうしよっかな? ノアの依頼はいっつもダルいんだよね。ケイレブには罠が張られてるんだろーなあ。軍の相手はメンドいけど、ユーシャを守んなきゃ!)


 自然と頬が緩む。

 初めてユーシャを見た時から、妙に気になっていた。彼が起きてからは、どこか寂しそうに話す様子、宇宙について無知なところなどに強く興味を引かれた。


(やっぱこれは……春がキタ! ってやつ?ヤバ、意識したら熱くなってきた。とりま何て言お? あのレーザー凄かったね……なんかイマイチ。あーダメだ、ドキドキして考えらんない)


 エアロックに到着すると、ハッチの窓からユーシャが見える。やがて再加圧が終わり、ハッチが開かれた。

 良いセリフが見つからず、内心焦ったアリアは当たり前の言葉を口にする。


「ユーシャ、おかえり!」


 謎だらけの少年は、一瞬 驚いたように目を開き──そして少しだけ、笑顔を見せた。

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