1-4 勇者、武装船を斬る

 古代ネイター文明。

 それは5000年ほど前に宇宙を支配した、多くの謎に満ちた存在。居住可能な惑星を結ぶ恒速道路スターウェイを作り、いくつかの星に多様な人種を残していった。

 そしてある時、各地に遺物レガリアを残して忽然こつぜんと姿を消したのだ……。


 時は進み、今からおよそ200年前。標準人類ノーマンを筆頭に宇宙開発が進み、各地の種族は邂逅かいこうした。


 偉大なる再会グレートリユニオン

 それは再会だった。言葉やDNAなどから、同じ祖を持つ兄弟だと分かったのだ。


 そして現在。

 再び巡り合った子孫達は、共に星間文明を発展させるため連邦政府セントラルを発足した。かつての超文明の名残を利用しながら……。



「とても信じられないな……」


 部活船の出入口エアロックで、勇者は一人、窓から宇宙そとを眺めて呟いた。


 朝食の後、アリアが分かりやすく説明してくれた。大地とは丸い星であり、その星が小さな砂粒に見えるほど大きな海が宇宙。


(納得出来る部分もある。周りに魔力を感じないのは、僕のいた世界とはことわりが違うからだろう)


 勇者のいた世界では、あらゆる場所に魔力が存在していた。生物はもちろん、空気や大地など全てに。

 しかしここでは、自分の体内にしか魔力を感じない。どこか息苦しいと感じていたのは、きっとそのせいだ。


(……ここで悩んでいても何も解決しない。そうだ、僕は諦めないと決めたんだ! 彼女達には申し訳ないが、甘えさせて貰おう)


 船は、アリア達の家や学校があるケイレブという場所へ向かっている。到着したら腕輪と故郷を探す手伝いをしてくれるそうだ。


 お礼に何か出来る事はないか?

 そう思い、アリアを探そうとすると──。


 ビーッ!! ビーッ!!


 急にサイレンの音が鳴り響いた。


「何だ? む、遠くに殺気……?」


『ユーシャ!? そこで何やってんの!?』


 手首に巻いたスマートプレートから、アリアの焦った声が聞こえる。原理は不明だが、会話も出来るようだ。


「考え事をしていたらここにいた。それより敵が近づいているんじゃないか? 僕が戦うから、ここを開けてくれ。なに、色々助けてくれた礼だ」


『た、戦う? 何言ってんの!? 相手は悪党アウトローの武装船なんだってば! てか生身なまみで外出れるワケないじゃん!!』


「大丈夫だ。海でドラゴンと戦った事もある。息を止めていれば問題ない」


『息ィ……? あー、もぉ! 宇宙童貞っぷりはカワイイんだけど、今は避難してくんないかな~??』


「何を心配しているのか分からない。武器のことか? 武器ならある」


 意識を集中し、右手に魔力を込める。

 白い光が現れ、長く伸びて輝く剣に変化する。光の剣が完成した瞬間、ケートーの声が割り込んだ。


『あーりん部長! 彼の右手に高エネルギー反応を感知。推定、クラス5ファイブ。非常に危険です、船内ハッチ閉鎖』


『クラス5ファイブぅ!? ウソでしょ軍の主砲レベルじゃん!!』


『それ以上かもしれません。最低でもわたし容易たやすく破壊出来るレベルです。クルーの安全を最優先、あと9秒で減圧完了、船外ハッチ開きます』


『ダメッ! 真空にしたら死んじゃうでしょ! ユーシャ、それ消して!!』


 勇者は眉をひそめる。

 光の剣はそこまで強い武器じゃない。それなのに、なぜか彼女達は慌てている。


 そうこうしている内に、出入口エアロックから空気が無くなっていく。完全な真空になる前に、息を止めて魔力で体を覆った。


 船外ハッチが開き、外の世界にれる。


 黒く、広大な宇宙──。


 それは音の無い夜のようであり、氷よりも冷たい世界。


(不思議な世界だな……だが、やはり大丈夫じゃないか。海とは違うが問題なく動ける。さて、敵を追い払うか)


 戦うのには慣れている。女の子との会話に比べれば、よっぽど気が楽だ。

 勇者は少しだけ笑みを浮かべ、扉のふちに手をかけて外へ飛び出した。

 体を包む魔力を操作し、敵意を感じる方向を見る。そこには、部活船の10倍はある大きな黒い船が浮かんでいた。


 羽を広げた鳥のような、威圧感のある姿だった。かなりの距離があるはずなのに、獲物イルカを捕らえようとグングン速度を上げている。


(アリア達の様子からすると、魔力が無い人間は宇宙では生きられないみたいだ。なるべくなら殺したくはない)


 勇者は武装船に意識を集中し、相手の気配を探る。全ての敵の位置、武器の特性……距離が離れていても、それくらいは簡単だ。


(胴体に28人。羽の部分から少しだけ危険な匂いがする。恐らくこの世界の武器だろう。ならば……!)


 白く輝く剣を構える。

 両手で持ち、切っ先を敵の船に向けた。


 黒い鳥の両翼に狙いをつけ──。


(……聖光連波斬せいこうれんはざん!!)


 白き連撃が、宇宙を斬り裂く!


 光の斬撃は見事に両翼を切断し──激しい爆発を巻き起した。


 やがて武装船は、よろよろと向きを変え、小爆発を繰り返しながら逃げて行った。


(よし、こんなもので十分だろう。これで少しは彼女達にお返し出来たかな?)


 勇者はくるりと部活船を振り返る。

 ピンクのイルカ船に向かって、光の剣を掲げて見せた。

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