1-3 勇者、謎にぶち当たる
天井から聞こえてくるのは、冷静な少女の声だった。
『私の名前はケートー。この船の管理AIです。担当は情報・電子戦から経理など諸々。貴方がクルーに危害を加えた場合、全力で排除しますのでそのつもりで』
「あ、三人だったのか……これは失礼した。大丈夫だ、ケートー殿。至聖神オーリーに誓って、僕はそんな真似はしない」
『そんな神は記録にありません』
「え? いや……そうなのか?」
姿が見えず、気配も感じられない。
仕方がないので、勇者は天井を見上げながら話している。その様子を見て、ハルが吹き出した。
「ぶはッ! マジかコイツ! どこの田舎モンだよ、こんな宇宙童貞はじめて見た! ぶはははは!!」
「はるる、笑いすぎ。ごめんねユーシャ、けいちぃはこの船そのものだから体は無いの。いちおう、外行き用のボディはあるけど」
「なるほど……巨大な地龍と、その背中で暮らす人達みたいなものか? 共生しているのだな、何となく理解した」
『背中ではなく内部ですけどね。なので今、とても気分が悪いんです。お腹の中に未知の異分子が居るので』
「けいちぃ、また
「ケンエキ? すまない、それはどういう意味なんだ?」
知らない単語を耳にして、勇者は手を上げて質問する。
「検疫ってのはね、外から持ち込まれた物に悪い菌やヘンな物質が付いてないか確かめるやつ。ユーシャを連れてきた時に調べたら、0.02%の未知の成分が見つかって けいちぃが凍結しようとしたの」
アリアが言うには、体を調べたところ既存のデータには無い何かが発見されたらしい。危険な物質の可能性もあるため凍らせようとしたのだが……何故か効果がなかったそうだ。
『フリーズガンが故障したのでしょう。
「大丈夫だってば」
『その根拠は?』
「あたしのカン」
『ハァ……いっつもそう』
ケートーの声に疲れた様子が混じる。いつもの事なのか、アリアは気にせず手を叩いて言った。
「はいはい! 一通り自己紹介出来たかな? 次はユーシャの番ね。確か、腕輪を探したいんだよね?」
「ああ……アグナールの腕輪と言う。とても危険な代物だから回収したい。その理由と、僕について少し話しておこう」
勇者は語った。
自分が18才であること、選ばれし光の勇者であること。魔族や魔物と戦い続け、やっと魔王の元へたどり着いたこと。そして共闘して腕輪を封印したことなどを、かいつまんで説明した。
…………。
なぜか沈黙が続く。
それを破ったのはハルだった。
「0.02%の成分ってよぉ……頭ハッピーになっちゃうお薬とかじゃねーの? ファンタジー過ぎて意味わかんねー」
『合成麻薬のデータとは一致しませんでしたが……未知の植物由来のウィルスかも』
「うっげ! あ、あーりん部長は大丈夫っすか!? 何か移されたんじゃ……!? 朝から妙にテンションたけぇと思ってたし!」
勇者には、なぜ急にハルが
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 僕の話に何か変な所でも……」
「うるせえ! 菌が移る、しゃべんな!」
『隔離します。抵抗するなら力ずくでも拘束しますよ』
口を閉じたハルに、壁際まで詰め寄られる。どうしてこんな事に? 考えても、やはり理由がわからない。
その時──ずっと黙っていたアリアが口を開いた。
「……みんな待って!!」
それは、上に立つ者の声だった。
よく通り、部下が指示を聞きたくなるような魅力を秘めた声。
アリアは真剣な顔で言う。
「ユーシャって……年上だったの?」
…………。
ハルがまた、沈黙を破る。
「あーりん部長! 今はふざけてる場合じゃねーんすよ! 正気に戻れって!」
「あはは、だいじょぶだってば。正気正気、超ショーキ。いい? 二人ともよく聞いて。あたしはユーシャのことを信じてる」
「二人ともあたしのこと知ってるっしょ? 昨日一緒に寝て、ユーシャが真面目で良いコだってのはわかってる。安全なこともね。変な嘘はつかないよ」
「うー……まあ部長がそー言うんなら。ユーシャ、うちは信じたわけじゃねーけど取りあえず保留にしてやんよ」
『私はノーです。魔力だの何だの、小説じゃないんですから。しかし……あーりんには従いましょう。こんなのでも船長ですからね』
「こんなのってオイ。でも、ありがと! だから はるるもけいちぃも大好き!」
アリアは二人にキスを投げ、勇者に向き直った。
「混乱させてゴメンね。あたし達の常識と違うから戸惑っちゃって。許してくれる?」
「あ、ああ……もちろん。怒ってないし、むしろ僕のほうこそ困らせてすまなかった」
「ううん、謝る必要ないよ! じゃ、気を取り直して話を戻そっか。ユーシャはまず腕輪を探したいんだよね?」
「ああ。手がかりはないだろうか? 僕が捕えられていた船とかは?」
「うーん、たぶん無いと思う。依頼の……詳しく言えないけど、密輸の情報があったのは二隻なんだよね。大事な物なら、ユーシャと分けて運ばれたんじゃないかなぁ」
『そのもう一隻の行方は現在捜索中です。ケイレブ方面に消えたのは間違いありません』
「そうか……いや、それだけでも十分だ。そのケイレブとやらが近いのなら、すまないがそこまで乗せてくれないか?」
「うん、最初からそのつもりだよ。じゃあ謎の腕輪については到着してから探すとして、次はユーシャの故郷かな? 覚えてる地名ってある?」
「僕の出身はグランダリア大陸のヴェラトール王国だ。家は無いけど……取りあえず、そこへ戻れればいい」
『該当なし。居住可能な惑星、セントラル加盟国の全ての地名を検索しましたが……本当なのですか? また嘘をついてるのでは?』
「な……嘘なんかじゃない! じゃあ花の都セラスセラリア、商業都市ベルマドゥブレスクはどうだ?」
『該当なし。ガチで無いですね』
「……どういう事だ? 大陸でも有数の大都市なのに。これじゃ約束を果たせないじゃないか……イズベルグに戻りたいのに」
呆然と呟いたその時。
ケートーの様子が変わった。
『今イズベルグと言いましたか? それは……』
「あるのか!? 僕はそこへ帰れるんだな?」
『いえ、残念ながら名前が同じだけでしょう。イズベルグとは、古代ネイター文明発祥の地として記録に残されています』
「……ネイター? すまない、分かるように頼む」
質問すると、アリアとハルは困った様子で顔を見合わせた。
「あのね、ネイターって昔 宇宙を支配してた謎の種族の名前なんだよ。今よりもっと高度な超文明で、あちこちに遺跡や
「中学の歴史で習ったっすよね。うちら
「そうそう、遥か遠いご先祖サマらしいよ。
「そうなのか……ちなみに昔ってどれくらい前なんだ?」
「5000年くらい前?」
「ごっ!? ……それなら絶対違うな」
肩を落とした勇者を、アリアが優しく慰めてくれる。
「大丈夫、あたしも一緒に探してあげるから。ケイレブには大学もあるし、きっと手がかりは見つかるって。ほら、元気出して!」
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