第45話 敗北に等しい勝利

「ルクスーーー!!」

「師匠!!」


 ルクスがゴーレムとともに落下したことにアネルとアルメールは動揺する。

 ゴーレムが作った空洞を覗き込み、不安そうな顔をしている。


「アネル!アルメール!そんなことしてる場合じゃない!!」

「これヤバいんじゃないっすか!?」


 『白妙の光』は後から現れたゴーレム2体に囲まれていた。

 ゴーレムは1体ですらビギナー級冒険者が戦える相手ではない。だが、それ以上に『白妙の光』には不安材料があった。


「ゴーレムはまず過ぎる」

「強いんっすか!?」

「それもある。ただそれ以上にこいつを魔法で作った奴がいるはずなんだ!」

「「!?」」

「撤退すか!?」

「ルクスはどうするの!?」

「とにかく!今はこいつを何とかしよう!」



 坑道の地下に降りたルクスは大量の魔物に包囲されていた。

 10体程度の岩でできたゴーレムと千を越える蜘蛛の群れ。

 蜘蛛の名前はアラネラ。黒や紺に黄色のストライプが特徴であり、全長1メートルほどの魔獣である。粘着質の糸と麻痺毒を含む牙と体毛を有しており、群れで行動する。稀に蜘蛛の体に人の体が乗っかったアラクロイドが誕生することがある。


「この中に意思の疎通ができる奴はいるか?」


 アラネラはギイギイと威嚇し、ゴレームは無言である。

 ルクスの質問に返答するものは誰もいない。


「しょうがない。鏖殺おうさつするか」


 ルクスはマーガス鉱山の敵対者を全て排除するため一歩踏み出す。

 蜘蛛たちは奥に大切なモノがあるように一斉に奥に続く通路の前に身を固め、激しく威嚇する。

 その様子にルクスは足を止める。


(奥に何かあるのか?)


 ルクスが躊躇したのを見て、四方を囲んでいたゴレームたちが襲い掛かる。

 ルクスは軽やかにゴーレムの攻撃を捌くと、流れるように胸部に血結魔法を叩き込む。


「来い!」


 ルクスはゴーレムの攻撃をほとんどその場から動くことなくいなし、次々にゴーレムを破壊していく。

 ゴレーム中から噴き出る赤黒い液体にすら当たることはない。


「さて、お前たちはどうする?」


 ゴーレムを全て破壊し終えたルクスは、アラネラの群れに一歩また一歩とにじり寄る。

 ルクスが近づくたびにアラネラたちは体を震わせて全力で威嚇する。

 ルクスが一定距離まで近づいた瞬間、先頭にいた数匹のアラネラがルクス目がけて飛び掛かる。

 しかし、飛び掛かったアラネラはルクスによって全て真っ二つに切られ、地に落ちる。

 ルクスは歩みを止めない。

 そのため一歩踏み出すごとにアラネラたちは襲い掛かり、地へと落ちる。

 結局、ルクスは全てのアラネラを排除した。

 アラネラたちが必死に守っていた通路の奥には青白く光る超が付く巨大な魔石の結晶。その中に何かが入っている。


「これを守っていたのか?」


 ルクスが結晶に手を伸ばし触れようとしたその時、坑道が派手に揺れる。


「あっ!?アルたちのこと忘れてた」


 ルクスは坑道が崩壊でもしたら困ると、急いで来た道を引き返す。


「アルメール!」

「大丈夫です!」


 『白妙の光』は2体のゴーレム相手に粘っていた。

 決して善戦しているわけでもないが、全員生存した状態で持ち堪えている。

 格上相手には引き気味に戦闘し、相手に隙があったとしても無理はしない。地道にコツコツ着実にダメージを積む。トックたちがこの1ヶ月で学んだ生き残る術である。

 それでも頑強で疲労もないゴーレム相手にはリスクをとってでも強く踏み込まないと致命傷にはならない。


「これじゃ埒明かないっすよ」

「火力がないんだから文句言わない!」

「けどこれじゃじり貧だ」


 と、急にアルメールが後方に下がる。


「アル!?」

「どうしたの!?」

「すみません。少しだけ時間を稼いでもらっていいですか?」

「2体相手に!?」

「考えがあるんだろ?やるしかない!」


 トックが体を張って前へ出る。

 ゴーレムは強力ではあるが所詮は人形である。プログラム通りにしか動けない。

 トックが前に出たことでゴーレムのヘイトがトックに集中する。

 アルメールはルクスに教わったことを思い出し、ゴーレムへの意識すら切って魔力のコントロールに集中する。


(魔力はうまくコントロールできれば空気すら掴める。つまり、魔力は物体に干渉できる。なら──)


 アルメールは全身の魔力を右拳に圧縮していく。

 魔力はマナによる力である。そしてマナ超過がある通り、マナには許容限界が存在する。膨大なマナを一点に集中する行為は操者の負担となり、場合によっては後遺症が残る深刻な事態へと発展しかねない。


「ぐうううぎいいいいいい」


 一カ所へと集められたマナがアルメールを自分たちの依り代としてより適したものへ変貌させようと牙をむく。

 アルメールはマナに飲み込まれないよう、削れるほど歯を食いしばる。

 トックはもう限界である。

 前衛であるトックは同じく前衛であるアルメールが下がったことで負担が二倍になっている。魔力を持たないトックでは僅かな時間しか稼ぐことはできない。

 必死に攻撃を受けていたがダメージの蓄積は早く、体力が持たずゴーレムの一撃を諸に受けて吹っ飛ぶ。


「トック!?」


 アネルの悲鳴が坑道に響いた瞬間


 バキンッ


 ガントレットが肥大化し、アルメールが1体のゴーレム目がけて走る。

 吹っ飛ぶトックと入れ替わりでゴーレムの懐へと突っ走ると、ゴーレムの胸部目がけて右拳を振り抜く。


 ズドンッ


 アルメールの拳によりゴーレムの胸部に穴が開き、中から赤黒い液体噴き出て崩れる。

 だが、今できることを出し切ったアルメールもその場で膝をつく。右腕は反動に耐えきることができす、あらぬ方向に曲がりダランと垂れている。

 そんなアルメールにもう1体のゴーレムが容赦なく拳を振り下ろす。


「アル!!」


 ゴーレムの拳がアルメールに振り下ろされる寸前、アネルの鞭がアルメールに巻き付きゴーレムの脅威からアルメールを逃がす。


「ありがとう……ございます……」


 アルメールは疲労と激痛で息絶え絶えである。

 トックは吹っ飛んだ先で気を失っている。


「さすがにヤバいわね」

「年貢の納め時ってやつっすかね」


 アネルとエリメールは前衛2人が崩壊したことで打つ手なくゴーレムを睨み付ける。


「よかったよかった。死んではないみたいだな」


 そんなピンチにルクスが吞気に現れる。


「ルクス!?」

「ルクスさん!?」

「師……匠……」


 ルクスはトックとアルメールの状態に死の危険がないことを確認する。

 背を向けているルクスにゴーレムが襲い掛かる。

 ルクスは体を半身はんみにしながらゴーレムの攻撃を躱すと、胸部へ鉄槌てっついを打ち込む。


 ズッパンッ!


 坑道内に派手な音が響き渡り、ゴーレムにぽっかりと風穴が開く。

 あまりにあっさりとした決着とルクスの桁外れな破壊力に、アネルとエリメールは言葉を失い腰を抜かす。


「さすが……師匠です……」


 自慢気に微笑んだアルメールは安心感から気を失う。


「とりあえずやるべきことは完了だ」

「……」


 ルクスが『白妙の光』を労うが、アネルもエリメールも返答する気力はない。

 危機を脱したルクスたちは気絶した二人とアネル、エリメールを休ませるため、坑道の中で見つけた広場で一晩過ごす。



 翌日、ルクスがトックを担ぎ、アネルがアルメールを担いで山を下りる。

 下山するアネルとエリメールの足取りは重い。疲労はもちろんであるが、それ以上に突如現れたゴーレムに対して何もできなかったという精神的な面が大きかった。


「ごめんねルクス」


 黙って歩いていたが、アネルの口から思わず言葉が洩れる。

 エリメールは悔しそうに唇を噛む。


「無事でよかったよ」


 自身が不甲斐なかった時の気持ちはルクスも居たいほど理解している。故に掛ける言葉が見つからず、素直な感想を口にすることしかできなかった。

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大罪人もう一度 御神大河 @mikamitaiga

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