第44話 ゴーレム

 マーガス鉱山の最奥に進む前にルクスたちは一度休憩を取る。食事は各々で準備した携帯食とゲミニ辺境伯から貰った食材で取る。

 休憩を取りながら各自が気づいた点を報告し、次の場所への作戦や注意点を立ててゆく。


「一日目はきつ過ぎてどうなることかと思ったっすけど、これなら楽勝そうっすね」

「確かにな。依頼難度は高かったんだが……。一つだけ、奥に行くほど足元がいいのは何なんだ?」

「奥に何かいるんでしょうか?」

「こっそり今でも作業してる人がいるとか?」

「流石にそれはないんじゃないかしら。ここに来るまでにそれらしい痕跡はなかったし。それより魔物がいるかもって話だったけど全然遭遇しなわね」

「うちもかなり気合入れて索敵してるんすけど、獣一匹いないすよ」


 マーガス鉱山は不気味なほど静かであった。

 生物の鳴き声がまるでなく、聞こえてくるのは風がそよぐ音と水が流れる音だけである。


「あの~。魔石が取れるって話でしたけどそれらしきものって見ましたか?」

「見てないな」

「取り尽くしたんすかね?」

「可能性はあるわね」


 ルクスはアルメールの発言でドワーフたちが山に執着していたことを思い出し、顎を撫でて思考を巡らせる。

 その様子にアネルが質問する。


「ルクスは何か気になったことはある?」

「……今のところ特に。何もないならそのほうがいいだろ」

「それもそうね」

「とにかく気を抜かずに行こう!」


 考えが纏まらなかったルクスはドワーフのことを『白妙の光』に言ってないこともあり、引っ掛かった疑問を口にはしなかった。

 話し合いが終了し、ルクスたちはマーガス鉱山の最奥へと足を踏み入れる。

 足を踏み入れた瞬間、ルクスが全員を止める。


「気をつけた方がいい」

「どうした?」

「足元が明らかに踏み固められてる。確実に何かいる」

「わかった」


 ルクスの発言で『白妙の光』は警戒度をさらに一段上げる。

 口数が減り、周囲を何度も確認する。


「ここがラストだな」

「明らかにここだけ違いますって感じね」


 ルクスたちはほぼ全ての坑道を探索し終わっていた。

 道中、底が抜けたり天井が崩落したりガスが噴き出したりなどのハプニングはあったものの、結局魔物どころか生物に遭遇することもなかった。

 最後に残った坑道は他の坑道とは見た目から違う。

 奥に進めば進むほど広くなってきた坑道の入り口であるが、最後の1本は高さ10メートル以上の大きな口を開いていた。

 エリメールがしきりに周囲を確認している。


「どうかしたか?」

「なんか…なんて言えばいいんすかね?さっきからその~……」

「監視されてる感じがするんだろ?」

「そうっす!見られてる感じがするっす。ルクスさんもっすか?」

「ああ。ただ姿を見せる気はないらしい」


 トックとアネルが周囲を見渡す。

 しかし、何も見つけることができない。


「坑道内にいるの?」

「すみません。さすがにそこまでは……」

「どうする──っておい!」


 尻込みしている『白妙の光』を尻目にルクスが坑道へと先陣を切る。

 坑道の中はほんのりと明るい。入口が大きい分、外からの明かりが入ってきている。


「坑道に入ったのに何も仕掛けてこないっすね」

「でも、確実になにかいるんだろ?」

「ああ」

「間違いないっす」


 ルクスたちが警戒しながら坑道を進むと、ただでさえ広い坑道の中に更に広い空間が現れる。

 天井がなく暖かい陽射しが差し込み、透明度の高い泉の水がキラキラと反射している。一面に青々とした芝生が生え揃い、ここだけまるで別の空間である。小さな小屋が一軒ポツンと建っているのも幻想さを醸し出している。

『白妙の光』は広場へと走っていく。


「この山にこんな場所があったのか!?」

「なんかホッとする場所ね」


 そうは言いつつ『白妙の光』も気は抜かない。特に小屋には細心の注意を払っている。

 ルクスは小屋に近づきドアをノックする。

 返事はない。

 ルクスがドアのノブに手をかける。

 鍵は掛かっておらず、ドアがゆっくりと開く。一歩足を踏み入れると同時に少しばかり床が沈み、大量の埃が舞い上がる。

 ルクスは口を手で覆って中へ入っていく。

 ルクスが小屋の中を探索している間、『白妙の光』は小屋を取り囲み小屋から出てくるものと周囲の警戒をする。


「しばらく使われてないって感じっすけど……」

「気配も感じません」

「一応気は抜くなよ」


 しばらくすると、埃まみれのルクスが小屋から出てくる。


「ルクス、どうだった」


 ルクスは首を横に振る。


「誰も。それに、置いてあるのは錆びついた食器や破れた服くらいで、この山の手掛かりになりそうなものなしだ」

「そうか」

「誰もいなくてよかった~」


 アルメールはホッと胸を撫で下ろす。

 ルクスは念入りに広場を確認する。


「ここはありだな……」


 確認が終了しポツリと呟く。



 ルクスたちは広場で一息つくとさらに奥へと探索と再開する。

 驚くことに広場を抜けた坑道の中もかなり明るい。周囲の鉱石が光を放ち、坑道内を青白く照らしている。


「こいつは──」

「きれ~い」

「すごいっすね」

「部屋の中みたいに明るいですね」


 まるでベニトアイトの中に入ったような光景に一同は感嘆の声を漏らす。

 『白妙の光』はテンションが上がり、足早にどんどんと奥へ進む。

 奥へ進めば進むほど鉱石の輝きは強くなる。

 アネルは惹かれるように鉱石を拾い上げる。

 アルメールがアネルの手に握られた鉱石を覗き込む。


「もしかしてこれって!?」

「魔石か」

「わたしにはキレイなこと以外わからないけど…魔力とか感じるの?」

「多少は……」

「オレはまったく。どうもこういう感知は不向きらしい」

「やっぱ鉱山を手放した理由は鉱石を掘り尽くしたからじゃなくて、別の理由だな。ここにある魔石だけでいくらになるんだよ。10世代は遊んで暮らせるぞ」

「手放した理由はやっぱり魔物関係なのかしら?気をつけていきま──」


 突如、ルクスたちを影が覆い、振り向く間もなく迫ってくる。


「キャッ!?」


 一早く気付いたルクスが攻撃の対象になったアネルを抱きかかえ回避する。

 攻撃の主は3メートル近い高さであり、人型であるが全身岩でできている。

 泥人形ゴーレム。生物を核として魔法によって生み出される自立型の泥人形。能力や知力は核となった生物のポテンシャルに依存するが、成熟の個体を核に使用してしまうと制御が利かない。泥人形という名であるが構成する物質は泥に限らず、岩や鉱石など多岐にわたり、大きさや硬度ももマチマチである。


「ゴッ──」


 トックが発言が終わる前にルクスは敵意剝き出しのゴーレム目がけて突っ込む。

 ルクスの速攻に反応することができず、ゴーレムの頭が砕け散り地面へと倒れる。

 だが、まだゴーレムの活動は終わってはいない。

 ゴーレムは右手でルクスをがっちりと掴むと左手で地面を叩く。

 ゴーレムの拳により坑道の底が崩れ落ち、ルクスとゴーレムは落下する。

 ルクスはゴーレムの手から破壊して抜け出すと、落下先である坑道の地下を確認する。

 坑道の地下では無数の目が不気味に光り、落下するルクスに対しキチキチと音を立てている。

 ルクスの目的はマーガス鉱山で都合のいい場所を見つけることと安全の確保である。故に危険分子は排除しなくてはならない。


「丁度いい。この山からご退場願うとするか」


 共に落ちるゴーレムのドクンドクンと脈打つ胸部をルクスは空中で粉砕する。

 核を粉砕されたゴーレムの中から赤黒い液体が飛び散り、ゴーレムは機能を停止する。


「なるほど。核があるのか」


 空中を蹴り戻ることもできたルクスであるが、誘いに乗るように魔物の群れの中へと降下する。

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