第43話 マーガス鉱山
翌朝、ルクスたちは山へと入る。
山の名前はマーガス鉱山。ドゥニージャ領の高山地帯をドワーフたちがマーガス鉱山地帯と古くから呼んでおり、現在もその中央に
マーガス鉱山は岩山であり、植物は蔦類やコケ類が自生する程度である。しかし、地下には温泉の熱源となるマグマが奔っており、地下水は寒い時期にも湯気が上がるほど温かく寒さを凌ぐには格好の場所となる。
また、魔力の地脈でもあるため、生き物たちはマーガス鉱山の魔力に中てられ大きく強くなることができ、場合によっては魔獣へと変貌を遂げる可能性もあるため生存戦略として多種多様な生物がマーガス鉱山には住み着いている。
結果、生き残れた多くの生物が強力な進化を遂げ、人の身ではマーガス鉱山で生活することはもちろん、入山するだけでも危険を伴う。
「マーガス鉱山には多くの魔獣が生息していて、中には危険な魔獣がいるという話だ。応援は期待できないから気を付けて進もう」
「周囲の警戒もだけど足元も気を付けてね」
ゲミニ辺境伯からの面倒事にしたくないとの願いを受け、入山は村の人たちには秘密裏に行われている。よって、見送りは誰もいない。当然、援軍も期待できない。
鉱山はしばらく人の手が入っていなかったため、山道は荒れ果て足場が悪い。
そんな鉱山にルクスたちが足を踏み入れてすぐ、トックが足を止め周囲を見渡す。
「妙だな?」
「どうしたの?」
「魔獣が大量にいるという話だったが、ここまでほとんど見当たらない」
「警戒した方がよさそうね。強力な魔獣が現れて他の魔獣たちがこの土地を離れざる得なくなった可能性があるわ」
「そうだな……」
ルクスたちは慎重にマーガス鉱山を進む。
山を少し奥へ進んだところで、先頭を行くトックが再び足を止める。
「厄介だな」
「どうしたの?」
「ただでさえ岩肌が荒くて隠れ放題なのに、こっからは大量の横道がある」
「どうする?」
「どうするもこうするもないだろ。危険がないか調べないといけないんだ。全部しらみつぶしに入って確かめる」
ルクスが最初の坑道に手をかける。
「ちょっと待て!基本個人行動は禁止だ!」
「なら、さっさと来い。ビビッて足を竦ませてたって日が暮れるだけだろ」
あるかもわからない危険に怯えることをしないルクスの背を見て、『白妙の光』も覚悟を決める。
「アルメール、後方を頼む!」
「……」
「エリメール、灯りを頼めるか?」
「……」
トックの発言に双子からの返答がない。
トックの昨日のやらかしがあり、トックと双子の間に若干の距離感が生まれてしまっていた。
その様子にアネルはため息を吐くと冷静に注意する。
「2人とも冒険者としてまだまだ未熟ね。私たちと一緒に研修期間を抜けたけど、やっぱりもう少し研修した方がよかったんじゃないかしら?」
「なんすか。その言い方。トックさんが悪いんじゃないっすか。アネルさんだって昨日あんだけ愚痴ってたくせに!」
「そうですよ!」
双子がアネルに喰ってかかる。
しかし、アネルは一切引く様子がない。
アネルは双子の目をしっかりと見ると、厳しさの中に優しさを含ませながら諭すように話す。
「昨日のことはトックが悪い。でも、冒険者なら昨日のことじゃなくて今日、今この瞬間のことを考えなさい!任務は危険なの、命を落とすことだってある!それも一瞬でね!私情を挟んで任務やチームワークに支障をきたすのはもっての外よ!わかるでしょ?」
「「……ごめんなさい」」
アネルの説教に双子は素直に謝罪する。
アネルも笑って許す。
「わかってくれてありがと。むしろ、このタイミングでよかったわ」
仲間としての結束が戻った『白妙の光』はルクスとともに坑道へと入っていく。
坑道は、横幅はあるものの高さが非常に低い。子どもであるルクスや双子も屈まないと通ることができない。また、灯りがないと足元が全く見えず、入り組んでいるため探索には時間を要する。
湿度が高く、進むたびに体力が奪われていく。
坑道内には『白妙の光』の息遣いが反響している。
それでもルクスたちは隈無く坑道を探索し、村から比較的近い範囲の坑道を全て見て回った。
「あ~しんど」
「ずっと腰を曲げてたからおばあちゃんになった気分す」
「でも、ほとんどの坑道が採掘し終わってたのか、埋められててよかったですね。埋められてなかった何倍時間がかかってたかわかりませんでしたよ」
「しかも、魔物や危険な生物は一匹もいなかったしね。それでも、もう日暮れだけど……山の奥の方のこと考えると気が滅入るわね」
『白妙の光』は大粒の汗を垂らしながら朽ち果てた山道に座り込む。
そんな中ルクスは少し離れた大きな岩の上で周囲を見渡している。
「師匠はやっぱり凄いです。全然息も上がってないですし」
「うちらとはレベルが違うっすね」
「ルクスー!何か見つかった?」
アネルの呼びかけに、ルクスが振り返る。
「あそこに湯気が見える。多分、温泉じゃないかな」
「本当!」
「うちめっちゃ入りたいっす」
「わたしも」
「なら、近くに移動するか。今日はそこで野営しよう」
トックの決定で、ルクスたちは温泉が湧きだしている近くの比較的平らな地形で野営する。
空がまだ薄暗い朝早くからルクスたちは行動を開始する。
山の奥に行けば行くほど、まだ採掘が完了していないのか、坑道が埋められておらず深くまで続いている。
しかし、同時に天井も高くなっており屈む必要もない。結果、疲労が少なくて済む。
また、空気や光の通りも良く、視界が確保できているため1本の坑道に対する探索時間はむしろ短くなっていた。
「なんか楽になってきたっすね」
「慣れてきたのもあるんだろうが、坑道がどんどん広くなってきてるのが一番の救いだな」
「奥の方が足場も安定してますね」
事実、マーガス鉱山は手前の方が荒れており、奥は比較的キレイであった。
「なんだこれ?」
ルクスは坑道に刺さっていた赤色の鉄棒に手を掛ける。
「ルクス!それに触るな!」
トックの注意も虚しく、ルクスは鉄棒を引っこ抜く。
開いた穴からシューっとガスが漏れ、嫌な臭いが辺りへと充満する。
『白妙の光』は大慌てで坑道の外へと走る。
「バカルクス!早く逃げろ!」
次の瞬間、ガスが爆発し坑道が崩れ落ちる。
なんとか坑道から脱出した『白妙の光』は坑道があった場所を振り返る。
「ルクス!」
「師匠!」
「ゲホゲホゲホ。しまった」
煙の中から煤だらけになったルクスが現れる。
「ちょっと!ルクス気を付けてよね!」
「そうっすよ!うちらルクスさんみたいに頑丈じゃないんすからね!下手したら死ぬっすよ!」
「師匠ぅ」
『白妙の光』はルクスを睨みながら頬を膨らませる。
「この辺は採掘し終わってないからガス突出の危険があるって最初に行ったよな!?わざとかわざとなのか!?」
「悪かったって次から気を付ける」
「それ何度目だよ。マジで勘弁してくれな!命がいくらあっても足らん!」
「わかったって!」
ガス突出のせいで索敵しきれていない坑道をいくつがダメにしてしまったが、ルクスたちは魔物と遭遇することも笑顔を絶やすこともなく順調にマーガス鉱山の探索を進めていく。
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