第41話 アルメールとの修行

「ふー緊張した」


 ゲミニ辺境伯が退出した応接室でトックが体を伸ばす。


「エリメールとアルメール、いいとこの出だとは思ってたけど、まさか貴族様とはね~」

「まぁ、アルメールは魔力を持ってるし、よくよく考えたら納得なんだけどな」

「もしかしてルクスもだったりするのかしら?」

「なくはないんじゃね?」

「そうだったら厳しいかな……」


 アネルは不安そうにチラッとルクスの方を見る。


「それにしてもルクスが2人を好きって言った時よく普通にしてたな、アネル」

「以前、勘違いしたからね。一回」

「あ~ルクスに年上はどうか聞いて、『歳とか関係ある?』って言われた奴な。俺が教えなかったら今でも浮かれてたかもな」

「うるさい。あと、下手な物真似やめて!……はあ~しょうがないじゃん。あんな風に助けられたんだよ!好きになるじゃん!」

「わかるけどね。顔もそこそこ整ってるし、何より超つえーからな。ただその分ライバル多いと思うぞ?絶対今後も増えるし」

「だから、トックに教わった通り頑張ってアピールしてんじゃん!」


「ガッ!?」


 扉の外から聞こえた悶絶声にトックとアネルは扉の方を見る。


「何やってんだろ?」

「さあな」


 一方のルクスは自分の荷物から言葉遣いの本を取り出すと先ほどの会話の反省と復習をしていた。



 ゲミニ辺境伯との交渉が纏まったルクスたちは辺境伯が紹介してくれた宿へと来ていた。

 ルクスたちは最低限の装備を身に付け、宿に荷物を預ける。


「ここからは自由時間とする。俺は1人で鉱山の今の情報を集める。できればこの後のことも考えて怪我したメンツは休んで欲しいんだが…みんなはどうする?」

「私は休ませてもらうわ。足手まといにはなりたくないし」

「うちも疲れたから休むっす」


 アルメールはルクスの袖をちょいちょいっと引っ張る。


「し、師匠!私に修行を付けて欲しいです!」

「「師匠!?」」


 アルメールの発言にアネルとエリメールが食いつく。


「師匠ってどういうこと!?」

「どういうことっす!?」

「ユーニウス村で師匠になってくれるようにお願いしたんです。そしたらいいって……」

「いいな~」

「ずるいっす!」


 ルクスに自分たちも弟子にしろと遠回しに伝える2人をトックがなだめる。


「まぁまぁ、魔力を持ってる人間は少ないんだ。今回はアルメールに譲ってあげなよ。それに仲間が強くなることはチームにとってもいいことだし」

「それはそうだけど……私もルクスについて行こっかな…」

「アネル…俺の話わかってないでしょ……。それに体休めるんだろ?」

「わかってる。わかってるわ」

「じゃあ、気晴らしに一緒に商店でも回るのはどうすか?アネルさん!」

「そうね。買い物でもしましょ」

「休憩は……まぁいっか」


 話が纏まったため、ルクスたちはそれぞれ別行動を開始する。

 トックは親しんだ村ということもあり迷いなく、花柳界へと直行する。

 アネルとエリメールは一番活気のある道へ出る。

 ルクスとアルメールは冒険者ギルドへと向かう。

 冒険者ギルドへの道すがらルクスは周囲を気にしていた。


「どうかしましたか?」

「辺境伯の屋敷を出てからずっと視線が追いかけてきてる。しかも複数」


 ルクスの発言にアルメールは周囲を見渡そうとする。

 その行為をルクスはアルメールの頭を掴んで止める。


「気づいてることを向こうに悟られたくない。このまま人気のない所に入るぞ」

「はい。ごめんなさい」

「別に構わない」


 アルメールはルクスに注意されシュンとしてしまう。

 そんなアルメールにルクスは暗い路地に入る前に声を掛ける。


「師匠としてアドバイスだ。何があっても表には出すな。付け入れられるぞ」

「はい」


 アルメールは表情をキリッとさせ、背筋を正す。

 ルクスたちは路地を抜け隣の通りに出る。


「何もなかったですね。私のせいで気づかれてしまったでしょうか?」

「いや、少しも敵意や殺気は感じなかった。恐らく調査・監視ってところだろうな」

「殺気?どうやって感じ取るんですか!?」

「どうやってって。五感を駆使するというか、第六感というか……け」


 経験という言葉が出そうになった時、ルクスは違和感に動きを止める。


(経験?いつのだ?記憶を失ってからそんな経験は積んでない。パトリア村でのことか?そんな村だったか?なにか……なにか忘れてる気が……)

「……師匠?……師匠!師匠!!」


 アルメールの呼ぶ声でルクスは我に返る。


「どうかしましたか?」

「いや、何でもない。それでなんだっけ?」

「私強くなりたいんです。どうすればいいですか?」

「どうって……」


 ルクスは困りながらも、一度師匠になると引き受けたからにはと真剣に考える。


「まず、魔力に頼り過ぎていて動きが雑で無駄が多い。魔力がない奴との戦闘ならそれで圧倒できるだろうが、魔力を持つ者同士だとどうなるか、それは身をもって経験したろ?」

「……はい」

「それと魔力のない相手を舐めてかかるきらいがある。その動きが染みつくと、いざという時にもその不用意で無駄な動きが出る可能性があるからやめた方がいい」

「……わかりました……」

「要は基礎がなってないってこと。魔力云々はその後の話だな」


 ルクスに容赦なく指摘されアルメールは再びシュンとなり、肩を落としてトボトボと歩く。

 ルクスはポンッとアルメールの背を叩き、その姿を指摘する。


「普段から体の使い方は気にした方がいいぞ。バランスが崩れるからな。いざという時に自分を助けるのは普段の行いだ」


 アルメールは素直に背筋をピンとする。

 冒険者ギルドに入ると受付嬢が深々と頭を下げる。明らかに一度目とは対応が違う。

 ルクスが試練場を使わせてほしいと言うと、一礼し走ってリーエルを呼びに行った。

 受付嬢に呼ばれたリーエルも慌てた様子でルクスの下にやってくる。


「試練場を使いたいと?」

「ああ」


 リーエルはチラッと辺りを見渡す。


「ルクス様が使うんですか?」

「そうですけど?」

「……わかりました。許可します。終わったら受付に声かけてください」

「わかりました」


 ルクスとアルメールは試練場に入ると早速修業を始める。


「とりあえず今のアルの実力が知りたい。遠慮せずに殺す気でかかって来い」

「お願いします」


 アルメールはペコリと頭を下げるといつものように構える。呼吸を計り、一気に攻撃に移る。

 アルメールはガントレットで戦う近接戦スタイル。徒手は得意とするところである。

 しかし、ルクスは涼しい顔をしながら左手を後方に回し右手のみでアルメールの猛攻を捌く。

 「悔しい」そう思い、深く踏み込んだ瞬間、アルメールは足を掛けられ地面に突っ込んでいた。


「それ悪癖だぞ」

「はい」


 アルメールは立ち上がると再びルクスに挑む。

 結局、疲労から地面に仰向けになるまで挑戦しても、アルメールがルクスに一撃当てることはかなわなかった。


「そろそろ終わるか」

「すみません……」

「どうして謝る?」

「だって私が弱いから」


 アルメールは完全に自信を喪失している。


「謝ることはない。最初弱いのはみんな一緒だ」

「師匠もですか?」

「ああ。それにオレより強い奴もこの世にはまだまだいる。でもな、オレはいずれ誰よりも強くなる」

「師匠はなんで強くなりたいんですか?」

「なんでだろうな……。守れなくて後悔したくないとか、ムカつく奴をぶっ飛ばしたいとか、色々思いつくけど……一番は本能かな?」

「本能?」

「意識がはっきりした時に強くなりたいって感情があったんだ。たぶん自分にとって大切なことだったんだろうな。アルにも強くなりたい理由があるんだろ?」

「はい!」

「ならオレと一緒だな!絶対強くなるよ!」


 ルクスの言葉にアルメールは嬉しそうに笑う。


「そうだ、アルは空中に立てるか?」

「空中?空中に立つってどういうことですか?」

「いいもの見せてやるよ」


 そう言うとルクスはまるでそこに階段があるかのように空中を昇り始める。

 アルメールは言葉が出ない。


「魔力をある程度コントロールできるようになると空気中のマナを捉えて立つことができる。まぁ最初は水の上辺りから練習するといい」

「はい!」


 アルメールは覚悟を込め拳を固く握る。

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