第39話 ドワーフとの密談

 モンディーナ村の教育体制を聞き終わったルクスたちは試練場から出る。

 冒険者ギルド内には先程までいた冒険者たちがほとんどいない。

 残っている冒険者たちは監視をするようにルクスたちを見ている。

 リーエルはトックに話を振る。


「トック、あんたも一人前の冒険者なんだろ?だったら何か依頼を受けていきな!」

「言われなくてもわかってるよ」


 リーエルに言われルクスたちは依頼掲示板を眺める。


「な~んか差が激しいな」

「お使いレベルのモノと難易度の高いモノはあるのにその間がほとんどない」

「これは面倒っすね」

「そうね。簡単すぎると舐められかねないし、難しすぎるのもね……」


 『白妙の光』が悩んでいる間に、小柄で立派な髭を蓄えた冒険者がルクスの肩を軽く叩く。

 肩を叩かれたルクスは当然振り向く。が、ルクスと同じ高さには誰もいない。

 ルクスが視線を落とすとそこには、立派な髭を生やした非常に小柄な男が立っていた。

 ルクスに気付いてもらったその男は、辺りを警戒しながら小声でルクスに話しかける。


「あんた公爵様の知り合いなんだって?ちょっとだけいいか?」

「あんたら山小人ドワーフってやつですか?」

「え?ああ、そうだ」

「初めて見た。本当にずんぐりむっくりしてるんですね」

「ま、まあの……それで、よければついて来てくれんか?」


 ルクスは面倒ごとを察し『白妙の光』を巻き込まないように、黙ってドワーフたちについて行く。

 ドワーフとルクスは冒険ギルドのすぐ側の路地裏へと入っていく。

 路地裏に入った所で路地の陰からそれなりの数のドワーフたちが現れる。

 多少警戒するルクスであったが、そんなルクスに向かってドワーフたちは一斉に土下座する。


「お願いです。お金を、お金を少しばかり恵んじゃくれないでしょうか?

 鉱山へ魔物が現れて以降、俺たちは仕事がなくなっちまった。みんなを食わせるために冒険者になったが、採掘や鍛冶しか能のねぇ俺たちに出来ることはほとんどない上に、人間の冒険者たちは実入りのいい依頼を自分たちで独占して、俺たちドワーフには受注させてくれねぇ。そのせいで実力に見合ったまともな依頼を受けられず、みんな腹を空かせてる。どうか子どもたちの分だけでも……どうか……」


 ルクスが周りを確認すると、他のドワーフたちも頭を地面に擦りつけ、子どものドワーフたちは物陰からジッと事の行方を祈るように見つめている。


「って言ってもな~、悪いがオレはほとんど金を持てないぞ」


 そう言いながらルクスは硬貨の入った袋を手渡す。

 ドワーフは地に張ったまま袋を受け取ると、感謝を述べる。


「ありがとうございます……ありがとうございます……」

「待て。タダという訳にはいかない。当然見返りは払ってもらう」


 そのセリフにドワーフたちは絶望する。


「な……なんでしょう、見返りというのは……先ほども言った通り、俺たちは大したことは出来ないのですが……」

「別に大したことじゃない。

 オレはこれから山を数日間占領しなくちゃならないんだ。その際、一人でも山に入られると不都合だ。

 そこで、お前たちには山へ人が入って来ないようにしてもらいたい。当然、用が終わったら山はお前たちの自由にしてもらって構わん。あんたらドワーフにとっても山が返ってくるのはメリットなんだろ?どうだ?」

「山を取り返してくださるのですか!?願ってもない!ぜひ、ぜひ協力させてください!!」

「それともう一つ。山の詳細な地図が欲しい。隠し通路から何から全て記載したものを遅くとも明日の朝までには用意してくれ。出来るか?」

「もちろんです。最優先でやらせて頂きます!」

「よし。交渉成立だ」


 ドワーフたちとの交渉を終えたルクスは冒険者ギルドへ戻る。

 タイミングよく、依頼はまた後日決めることにした『白妙の光』が挨拶を終え、冒険者ギルドから出てくる。


「もう!どこ行ってたの、ルクス?」

「別に」


 話を逸らすようにルクスは本題に入る。


「少し寄りたい所があるんだがいいか?」

「寄りたい所?」

「この村を治めてるゲミニ辺境伯って人に会いたい」


 ルクスの発言に双子の肩がビクンと跳ねる。

 トックとアネルは苦い顔をしている。


「どうした?」

「なっ、なんで会いに行くんすか?」

「ギエール公から手紙を預かってる」

「手紙?なんだ、よかった~」

「なにが?」

「客人ってことならあんまり緊張しなくて済むのよ」

「それにルクスのことだから、いきなり突撃して暴れたりするのかと思ってな」

「そんなことしねーよ」

「悪い、悪い」


 トックとアネルは安心して胸を撫で下ろす。

 しかし、双子はまだ嫌そうな顔をしたままだ。


「じゃあ、辺境伯様の屋敷へ向かおうぜ!」


 トックの号令で一同は辺境伯の屋敷へと向かう。

 歩きながらルクスは鼻を鳴らす。


「村に来た時から気になってたけど、村中に充満してるこれ、なんの匂い?」

「硫黄だよ。この村は鉱石と武器、それと温泉が名物だからな」

「温泉?」

「温泉知らないんすか?温泉てのは地下から出るお湯のことっす。この村ではそのお湯を使って経営してる店がいくつかあるんすよ」

「温泉入ったことないなら今日は温泉宿に泊まりましょうよ!私も入ってみたいし!」

「美容にいいとか……」

「ほんとに!?」


 女子メンバーが温泉談議を始めたのを見計らって、トックがルクスに肩を組み、小声で話しかけてくる。


「あのさ、ルクスはもうあっちの方には興味あるのか?」

「あっち?」

「だから、その……この村では花柳かりゅうも盛んなんだよ」

「花柳?」

「何話してるんすか?」

「おわっ!」


 エリメールに突然話しかけられてトックは動揺する。

 女性陣にはあまり聞かれたくない内容だったため、トックの目は完全に泳いでしまっている。


「い、いや~何でも、ないけどな~」

「トック、あんたルクスにくだらんこと吹き込んだら承知しないわよ?」


 アネルの冷ややかで圧のこもった声にトックは委縮する。


「了解です。すまんルクス、さっきの内容は忘れてくれ」

「え~気になるっすよ」

「どうせくだらないことよ」


 ルクスと『白妙の光』がじゃれていると、アルメールが大きな屋敷を指差す。


「見えてきましたよ。あそこです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る