第37話 モンディーナ村
メンバー全員が揃った『白妙の光』は気合いを入れて任務へと向かう。
気合いが入り過ぎて、行商人夫妻との待ち合わせ時刻よりもかなり早くついてしまうほどである。
「よく食べますね……」
「腹減ってるからな」
「あれ?アルメールってルクスに対して敬語だったっけ?」
ルクスたちは空いた時間で食事を済ませる。
しばらくすると行商人夫妻がやってくる。
「おや、みなさんお早いですね。待たせてしまいましたかな?」
「「おはようございます!」」
「おはようございます。また、よろしくお願いします」
ルクスたちは無事ユーニウス村を出立する。
エリメールが再び見張り役を名乗り出たことにより、配置はユーニウス村までと同様である。
「悪いが少し寝る。何かあったら起こしてくれ」
出発してすぐ、ルクスが横になる。
トックはすぐに承諾する。
「わかった。ありがとう」
「おやすみなさい」
ルクスに礼を言うトックにアルメールは質問する。
「なんでお礼を?」
「アルメールも知ってると思うが、冒険者は他所のギルドに行ったら何かしら依頼を受けなけりゃならない。それが、慣習であり名前を売ることにも繋がるからな。
当然、俺たちも簡単な依頼だがこなしてきた。で、俺たちが依頼をこなしてる間、ルクスはずっとアルメールを守ってくれてたんだ。襲撃があったばかりで、町の中も不安定で何かあるかわからなかったからな。
それと……俺はこの2日ルクスが寝てたのを見てない。依頼に行く時も帰ってきた時も、夜中に目を覚ました時もだ。たぶん、夜俺たちが寝ている時も起きていたんだろうな」
アルメールは寝ているルクスの背中を見つめる。
「何かあったら今度は私たちがルクスを助けてあげましょ!」
「当たり前だ!」
「もちろんです!」
ルクスたちを乗せた荷馬車はモンディーナ村へ進んでゆく。
「よく寝ますね」
「そんなに疲れてたのかしら……」
「寝れる時に寝とくタイプなんじゃないか?今のところ問題もなかったし、十分な睡眠が取れたと考えたらいいことだろう」
「いざとなれば起こしてくれって言われたっすけど、そろそろ到着っすよ」
ルクスたちは道中、一晩野営したがその間もルクスが起きてくることはなかった。
「ルクス……ルクス、起きて……」
アネルに呼ばれルクスは目を覚ます。
「どうした?」
「モンディーナ村に着いたよ」
「わかった」
モンディーナ村はドゥニージャ領最北端の村である。
ユーニウス村に比べると明らかに村の規模が大きく、周囲は木の防護柵で囲まれており入場口には見張りが2人立っている。
「止まれー!ここで身元と目的を確認する!」
行商人夫妻の説明が完了し、ルクスの番になる。
「お前の身元と名前は?」
「名前はルクス。今はドゥニージャ公爵にお世話になっていて、高山地帯の調査に来ました」
「公爵様の!?」
行商人夫妻は驚くが見張りたちの様子は違う。
「公爵様の?なぜ公爵様の客人がこのような方法で?公爵様の馬車ではなく?」
「そっちの方が面白そうだったから」
見張りたちは完全にルクスを疑っている。
見かねたトックが横入りする。
「横から失礼。俺はウル・ドゥニージャの冒険者ギルドを拠点としている『白妙の光』のリーダー、トックと申します。そこのルクスが言っていることは本当ですよ。
我々の仕事は鉱山調査のための道案内と行商人の護衛ですから」
「ルクス?公爵様の客人を冒険者が呼び捨てするのか?」
「俺とルクスは友人ですから」
「公爵様の客人と冒険者風情が友人?」
「ええ、そうですけど。何か不都合でも?」
物腰柔らかに説得しようとしたトックであったが、見張りの高圧的な態度に、トックは見張りは火花を散らす。
するともう1人の見張りが仲間を諫める。
「まぁまぁ、落ち着けよ。これで本当に公爵様の関係者だった時めんどくせーぞ。それに、この冒険者が身元を保証するって言ってんだ問題ねーよ」
「だが!!」
冷静なもう1人の冒険者が、熱くなっている見張り仲間を手で制止すると、トックの方を向く。
「公爵様の客人という方が問題起こした場合は連帯責任ってことで構わないよな?『白妙の光』のリーダーのトックさんとやら」
「構わねーよ」
「だとよ」
「チッ、通れ!」
見張りに睨まれながらルクスたちはモンディーナ村に入る。
モンディーナ村は古くから高山地帯からの恩恵を受けて発展してきた村であり、この村の商品はどれも人気が高い。
大通りには多くの行商人が行き来し、様々な店頭がズラリと並んでいる。店の装飾には宝石の類がちらほらと埋め込まれ太陽光にキラキラと反射し、煌びやかである。鍛冶屋がカンカンと鉄を叩く音と、少々粗めの石畳を荷馬車が通るたびガラガラと立てる音が、より活気のある雰囲気にしている。
ルクスはそんな大通りの路地を見ていた。
「どうしたの?ルクス」
「あそこ……」
「物乞い?小さい子も……かなり多そうね……」
「この村には孤児院とかはないのか?」
「ないな。というより必要なかったんだ。
モンディーナ村ではみんな余裕のある生活をしていたからな。治安を維持のために、寝床も配給も十分すぎるくらい行き届いていて、孤児院がなくても孤児も他所よりは簡単に生きていけたんだ。俺もその1人だったし」
「でも、そうは見えないけど……」
「鉱山閉鎖のせいで、余裕がなくなったんだろうな」
ルクスたちは行商人夫妻の荷馬車に乗ったままモンディーナ村の冒険者ギルドへ向かう。
モンディーナ村の冒険者ギルドは、こちらもウル・ドゥニージャの冒険者ギルドほどではないにせよかなり立派である。冒険者たちが入れ代わり立ち代わり出入りし、所属冒険者の多さが伺える。
荷馬車が冒険者ギルドの前に停まると、トックとアネルが荷馬車から降り冒険者ギルドへ入っていく。
「エリメールとアルメールは行かなくていいのか?」
「大丈夫っすよ。どうせすぐ戻ってくるっすから」
「あ、あの!」
アルメールが大きな声を出す。
「アル、音量調節できてないっすよ」
「ごめん」
「なんだ?」
「え~と、その~……アルメールだと長いと思いますので、良ければアルと……」
アルメールの発言にエリメールは驚く。しかし、すぐに笑顔になりアルメールの提案に乗っかる。
「いいじゃん!じゃあうちのことはエリって呼ぶっす」
「だ、ダメでしょうか……?」
「わかった。じゃあ改めてよろしくな。アル。エリ」
「よろしくっす!」
「よろしくお願いします」
ルクスが改めて双子に挨拶を終えた時、トックとアネルが冒険者ギルドの受付嬢を連れて出てくる。
受付嬢を介して『白妙の光』と行商人夫妻は任務完了の手続きをする。
その間、行きかう冒険者たちが『白妙の光』を横目でチラチラと見ている。
双子はその視線を避けるようにフードを深く被る。
「それではこれで依頼達成の手続き完了です。ウル・ドゥニージャの方にもこちらで報告を回しておきます。お疲れ様でした」
「はい。お願いします」
「いや~、本当にありがとうございました。また縁があったら、ぜひ『白妙の光』の皆さんに依頼させてください」
「もちろんです!いつでも依頼お持ちしておりますので、またよろしくお願いします!」
任務達成を見届けてルクスと双子は荷馬車から降りる。
行商人夫妻は改めて深々と頭を下げると『白妙の光』と別れる。
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