第36話 『白妙の光』復活!
「ルクス!!」
ラトリーを倒し村へ帰る途中、追ってきたトックが合流する。
「無事だっ──無事そうだな。そいつ、殺したのか?」
「殺してない。気絶してるだけ。賞金首ってことは殺したらダメだろ?」
「まぁ、人によるかな。でも普通凶悪犯は生け捕りは難しいから……。怪我は?」
「ないよ」
「そうか……流石だな。帰ろ!みんな心配してる」
ルクスとトックは自分たちで管理するのは危険だということで、『白妙の光』のメンバーと合流する前にラトリーをユーニウス村の冒険者ギルドへ引き渡しに行く。
冒険者ギルド内は村が襲われたことで職員が慌ただしく動き回っており、冒険者はピリピリしている。
余所者であるルクスたちが入ってくると疑うような視線を向ける者も少なくない。しかし、そう言った者たちの視線もすぐにルクスが引きずっているラトリーに注がれる。
ルクスは声を掛けようとする冒険者たちを無視して受付へ歩いてゆく。
「あの~、その人は……?」
「これ今回の犯人、です」
ルクスは受付嬢にラトリーを突き出す。
受付嬢はどうしたらいいか困ってしまう。
そこへ別の職員に呼ばれた恰幅のいい男が奥から出てくる。
「どうした?」
「この方たちが……」
男は受付嬢に示されたルクスとトックを見る。
「見ない顔だな。俺はここのギルドマスターをしているスタングだ。お前らは?」
「私はウル・ドゥニージャを拠点に活動している『白妙の光』のリーダー、トックと言います。こっちはルクス」
「そうか。お前が持ってるそれ、ラトリーだな。それどうした?」
「かかってきたから、倒した」
「お前らが!?魔力持ちだぞ!?どうやって!?」
スタングに質問され、ルクスは傷口を見せるようにラトリーを掲げる。
ラトリーを倒したと言うのが、まだ成人もしてないような子どもであるため疑っていたスタングであったが、ルクスのラトリーを雑に扱う様子と謎の迫力により、これ以上の追及を止める。
「いや、そういう意味では……まぁいい。そいつはこの辺では有名な盗賊でな、俺たちも困ってたんだ。助かったよ」
「こいつ賞金が出るんだろ?」
「そうだな。ただ、悪いがちょっと待ってもらえるか?見ての通り村がやられてバタついてんだ」
「わかった。じゃあ、賞金はトックに渡してやってくれ」
「いや、こいつはルクスが倒したんだろ!?だったら、賞金はお前のもんだぞ、ルクス!」
「そう?でも金はトックが受け取ってくれ。んで、その金で飯でも食わせてくれ。オレまだ金の価値勉強してねんだ」
「そ、そうか……わかった」
ラトリーの懸賞金はかなり高い。
ラトリーと言う強者を倒したことを得意気にすることもなく、大金にも全く興味を示さないルクスに対し、周囲の冒険者たちは未知の生物に遭遇したような薄っすらとした恐怖感を抱いていた。
「あ、あの、その鞭はラトリーが使ってた魔道具だよな?そいつも要らないならそれなりの値で買い取るが、どうする?」
「ん?こいつは貰っていってもいいか?」
「ああ、もちろんだ。ラトリーを倒したお前のものだからな」
「助かる」
ラトリーはすぐに処刑することが決まった。
この村には魔力を持つ者を拘束する術がなく、暴れられたら手が付けられないためである。
ルクスたちはラトリーを倒した人物として処刑に参列するか聞かれたが断ることにした。
ラトリーを引き渡すと、ルクスたは『白妙の光』のメンバーが待つ宿へと戻る。
「おかえり!」
「ん。これあげる」
ルクスはラトリーの鞭をアネルに差し出す。
「えっ、これって!?いいの?」
「ああ。アネル鞭壊れたろ?オレいらないし」
「でも、これ売ったら結構な値段よ?」
「知ってる」
「ありがと!」
アネルはルクスに抱きつく。が、痛みからすぐに離れる。
そんなアネルをトックが安静にしているように注意する
「体きついんだろ?安静にしてろよ」
「そうする」
「宿どうするっす?気絶してるアルメールに野営は……」
「大丈夫。ギルドに相談したら泊めてくれる民家を打診したらしくて、そこの1軒に泊めてもらえることになった」
「そうすか。よかったっす」
2日後、行商人夫妻と合流することになっている早朝。
気を失っていたアルメールが目を覚ます。
「うっ、う~ん……」
「おっ。起きたか」
「きゃっあああああ!」
「しっ!」
驚いたアルメールは大声を出す。
ルクスは静かにするように口の前で指を立てると、床で寝ている『白妙の光』のメンバーを指す。
アルメールは体を毛布で隠すと警戒するように暗い部屋を見渡す。
「……ここどこですか?」
「ユーニウス村の民家」
「……変なことしてないですよね?」
「変なこと?」
「なっ、何でもないです!」
アルメールは恥ずかしくなり、目を伏せる。
ルクスはアルメールの意識がはっきりしたことができたため、アルメールの方へ向き直る。
「お腹は大丈夫か?」
「お腹?やっぱり何かしたの!?」
「内臓やられてたろ?」
お腹を擦っていたアルメールの手がピタリと止まる。ルクスの発言で2日前の夜のことがフラッシュバックする。
「あ、あいつは!?」
「あいつ?」
「ラトリーって人!?賞金首の!?」
「ああー。死んだよ」
「死んだ?」
「処刑されたはず。オレは見に行ってないけど」
「うそ!?……あいつに勝った!?処刑ってことは生け捕り?……誰がっ──」
そこまで言ってアルメールはあることに思い当たる。
「ねぇ、あなたの名前なんでしたっけ?」
「ルクス」
「ルクスさんって魔力持ってるって言ってましたよね。……ラトリーを倒したのってもしかしてルクスさん?」
「そうだけど」
アルメールは自慢もせず、さも当然のことであるようなルクスの態度にある疑問を持つ。
「……あの……ラトリーは強かったですか?」
「弱かったかな」
「そう……ですか……」
アルメールは自分の弱さを嚙み締め、下唇を噛む。
そして、ある決意を決める。
「ルクスさん私に修行をつけてください!どんな修行にも耐えますから、お願いします!」
アルメールはベットから降りると頭を下げる。
「はぁ?」
「お願いします!今の私じゃなにも守れない、なにも成し遂げられない!私どうしても強くなりたいんです!」
「いや、やることあるし……」
「この任務中だけでも構いません!お願いします!」
「わかった、わかった」
アルメールの圧に押され、ルクスは了承する。
「やったー!!」
アルメールの歓喜の声に『白妙の光』のメンバーが起きる。
「アル!!」
アルメールが無事なこと気が付いた、エリメールが真っ先に抱きつく。
「気が付いたのね!よかった!」
「すみません。ご心配おかけしました」
「いや、俺たちの方こそすまない。アルメールが1人でラトリー相手に立ち向かってくれている間、俺たちはただ見ていることしかできなかった」
「そうね……今度は私たちも一緒に戦えるように必ず強くなるわ!」
「はい、信じてます!私ももっと強くなりますから!そういや、私どれくらい寝てました!?任務は!?」
「ギリギリセーフ。今日が出発の日よ」
「……よかった」
アルメールは自分のせいで任務失敗とならなかったことに安堵する。
「さて、『白妙の光』全員復活したことだし、気合い入れて任務の続きをこなそうぜ!」
「「おーーー!!」」
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