第34話 指名手配犯
盗賊との戦闘が終わった後、ルクスたちはトラブルなくユーニウス村に到着する。
徐々に陽が落ち始めており、辺りを夕日が橙色に照らしている。
行商人夫妻は頭を下げる。
「いや~『白妙の光』の皆さんがいなかったらどうなっていたか!本当に助かりました。また、3日後もぜひよろしくお願いします」
「こちらこそ。では3日後の朝、場所はここで構いませんか?」
「ええ。それでは」
行商人夫妻とはユーニウス村で売買や仕入れをするため一時別行動である。
『白妙の光』は行商人夫妻と別れたことで初の高難度依頼の緊張感から一時的に解き放たれたことで、肩の力をほぐすために各々ストレッチを始める。
「よかった~!安全にユーニウス村まで来れたわね!」
「ホントっすよ、盗賊が出た時は絶対に怪我人が出るとうち思ったっすもん!」
「たっく、盗賊のせいですっかり遅くなっちまった」
「あの~これって宿取れるんですか?」
「どうだろうな~。それよりも、とりあえずギルドに顔出さねーと。確かユーニウス村にも冒険者ギルドはあるはずだ」
「そうね。ルクスはどうする?」
「ん~。勝手がわからんし一緒に行く」
「じゃあ、決まりね!」
ルクスたちはユーニウス村の冒険者ギルドへ足を運ぶ。
ユーニウス村の冒険者ギルドはウル・ドゥニージャの冒険者ギルドに比べてかなり小さい。そしてボロい。
貼りだされている依頼の量も少なく、冒険者ギルド内は暇している冒険者たちがすでに出来上がった様子で酒を片手にしている。
「ようこそいらっしゃいました!」
ルクスと歳が変わらない小さな女の子が受付でペコリと頭を下げる。
『白妙の光』は受付へと歩いてゆく。
ルクスも物珍しそうに辺りをキョロキョロしながらついて行く。
「我々はウル・ドゥニージャから来た『白妙の光』という冒険者チームです。護衛の任務でここに立ち寄ったので挨拶をと」
「ご、護衛の任務ですか!?」
護衛という言葉に飲んでくれていた冒険者たちもざわつく。
萎縮した受付嬢が再度頭を下げる。
「ご、ご苦労様です」
「ありがとう。それで依頼者が2日ほどここに滞在するので、その間のここの依頼を受けられないかと思っているのだが……」
「え!?はい!大丈夫だと思います!」
「それは良かった。それと、実は先程この村に到着したばかりなんですが、今から取れる宿を紹介してもらえると助かるのですが……」
「少々お待ちください」
そう言うと受付嬢は裏へ引っ込む。
ルクスは長くなりそうだなと思い、依頼掲示板に貼ってある依頼を見に行く。
依頼の内容は、魔獣の討伐から採取、狩猟、清掃に害虫駆除など多種多様である。
その中でルクスは気になった一枚の用紙を手に取る。
「何か気になるのあった?」
背後から抱きつきながらアネルはルクスに声を掛ける。
「これだけなんか他と違う」
ルクスは女性の似顔が描かれている用紙をアネルに見せる。
「ああ~これは依頼じゃないよ。手配書。ここに載ってる人を狩ると報奨金が出るのよ。なになに~、盗賊団の頭領、ラトリーだって。って!?この人たぶん相当強いわよ!」
「なんで?有名人?」
「報奨金がかなり高いの。ウル・ドゥニージャでもこのレベルは数えるほどしかいないはずよ」
「へ~」
聞いた割にルクスは興味が持てず、手配書を戻す。
「なんか依頼受けるんでしょ?普通どういうの受けるの?面白そうだから冒険者の依頼ってやつちょっと体験してみたい」
「私たちはビギナー級冒険者だし、期間も明日明後日しかないからね。ちょっとしたお小遣い稼ぎ程度の簡単な依頼しかできないと思うし面白くないわよ?」
「そうなのか……」
冒険者の仕事は、冒険の「ボ」の字もない地域密着型の雑務が大半を占める。
世間的にも夢見て入ってくような業界では決してない。大変かつ危険な割に泥臭く実入りも少ない。常識がなく粗野な者が目立つため世間的な評判も良くない。そのため見下されることも少なくない。
それでも冒険者になる者が多いのは、まともな職の選択肢が少なく、冒険者として活動しないと稼ぐことができないことに加え、誰でも簡単になれるからである。
「いい任務ありました?」
「あったすか?」
トックたちも依頼掲示板の前へやって来る。
「そうね~。日数がないし出来ても採取とかじゃない?」
「どの依頼を受けるかは明日決めよう。それより宿に行かないか?正直早く休みたい」
「そうね」
「了解」
ルクスたちの泊まる場所は村の外れにある小さな宿である。
宿は不愛想な店主と10歳の女の子が切り盛りしている。
ルクスたちは宿に浴室が一つしかないため一人ずつ体を洗い、店主から提供されたこれぞ男料理という丼飯を食べる。
『白妙の光』のメンバーは疲労から特段会話もなく、2階の寝室ですぐに眠りに落ちた。
その夜、ルクスは外から聞こえる悲鳴で目を覚ます。
『白妙の光』は昼の戦闘の疲れが溜まっており、外の音に気付くことなく皆ぐっすりと寝ている。
ルクスは爆睡する『白妙の光』を起こすことなく、何があったかを確認するため宿の外に出る。
深夜であるにもかかわらず町の中心が明るい。
ルクスに嫌な記憶が蘇る。
炎から逃げる人を搔き分けて町の中心へ走る。
だが、町はパニックになっているようだが、魔獣や魔族の類は見当たらない。それどころか町の人には怪我人すら出ていない。血を流しているのは冒険者だけ。
落ち着いて周囲を見渡したルクスはある事実に気付く。
「宿が壊されてる?」
しかも、その被害は町の中心から徐々に『白妙の光』の泊る町の端へと移動してきている。
ルクスは『白妙の光』が眠る宿へと踵を返す。
ルクスが宿から飛び出した後も『白妙の光』はまだ夢の中にいた。
しかし──
ズパッンッ!!
巨大な破壊音により『白妙の光』のメンバー全員が一斉に目を覚ます。
入口に吊るされていた灯りが壊れ、引火し宿が燃え始める。
「なに!?」
「みんな無事か!?」
『白妙の光』と宿屋の親子が宿の裏口から飛び出す。
寝起きであることもあり、全員何が起こったのか理解できていない。
「……宿が……」
宿が燃え店主は膝をつき、女の子は泣き出してしまう。
「アネル、店主たちを安全なところに避難させてくれ!俺は何が起こったか調べる!」
「わかった!!」
トックとアネルは即座に行動を開始する。
アネルが宿屋の親子を連れて宿を離れた時、夜闇の中から声がする。
「はあ~、ようやく見つけたよ!」
『白妙の光』は声がした方を見る。
そこには、黒い装束を纏い右手に巨大な鞭を持った女が1人立っている。
女の顔はフードを被っており、見えない。しかし、巨大な鞭と女の放つ独特の雰囲気から『白妙の光』は警戒し、何かあっても即座に対応できるように構える。
「よくもアタシの可愛い部下を殺してくれたね。きっちり落とし前を付けてもらうから、いいね?」
「何者だ!?」
「アタシのことを知らないのかい?」
そう言うと女はフードを取る。
そこには、冒険者ギルドで見た顔があった。
「ラトリー!?」
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