第33話 野盗狩り
話を切るようにエリメールがポンと手を叩く。
「なるほど!だから手ぶらなんすね!なんも武器持ってないのに戦うとか言ってたからこの人正気か?って思ったっす」
「言われてみれば確かに変だな」
エリメールとトックに指摘されルクスは他の人の武器に目をやる。
「トックは剣だろ?アネルは鞭。2人は?」
「うちは弓矢っす!」
エリメールは側に置いてあった、黒と深緑色の折り畳み式の弓を得意気に開いて見せる。
「おお~!」
ルクスは初めて見る特殊な弓に目をキラキラさせる。
エリメールが武器を見せたため、アルメールも恥ずかしそうに自分の武器を荷物から出す。
「私はこれ」
「何それ?」
「ガントレット」
アルメールが取り出したのは真っ白なガントレットであった。全体が綺麗に揃った鱗で覆われギザギザしており、指先は鋭くとがっている。
「へ~カッコイイな」
「え~私は可愛いと思うんだけど」
「いや、可愛いというよりキレイが正しいだろ」
アルメールは自分の武器が皆から好評を貰えて嬉しそうにする。
そして、愛おしそうにお気に入りのガントレットを撫でる。
「実はね、これ魔道具なんだよ」
「魔道具?なにそれ?」
「魔道具ってのはね魔力を流すことで効果を発揮する道具なんだよ。魔道技師って人たちが作ったもので一つ一つ性能が違うんだって」
「ほえー」
「このガントレットはね、大きさを変えたり硬度を変えたりできるんだよ」
アルメールはガントレットを装着すると目の前で使って見せる。
トックが羨ましそうに愚痴る。
「魔道具はさ、魔法が使えない奴が魔道士に負けないようにって作り出したモノらしんだが、結局魔力がないと使えねんだよなー。どうせなら魔力なしでも使えるようにしてくれたらいいのに」
「でもさ、今王都では後天的に魔力を保有できるようになる薬を開発中って噂じゃん!」
「薬?」
ルクスが薬について聞こうとした時、見張りのエリメールから声が飛ぶ。
「野盗だ!囲まれてるっぽい。リーダーどうする!?」
トックとアネルが荷馬車の陰から周囲を確認する。
トックはすぐに行商人夫妻に指示を出す。
「おばさん!おじさん!馬停めて!」
「なんでだい?まだ囲み切られてないんだ、突っ走った方がよくないのかい?」
「いや、何人か弓持ちがいる。速度を上げたら間違いなく馬が打たれる。そうなると足がなくなるし、最悪転倒で大惨事になる。それに、囲んでいるはずなのにまだ隠れてる。恐らくこの先に盗賊の狩場がある。そこで戦闘はしたくない」
「なるほど…………」
おばさんはゆっくりと馬を停める。
追走していたおじさんも同じように馬を停める。
荷馬車が停まってのを見て盗賊たちがゾロゾロと姿を現す。
荷馬車の中で武装を済ませた『白妙の光』も荷馬車から降りる。
「チツなんだ気づいてたのか。って上玉揃いじゃねーか!こいつはありがてー。おい!荷物と女を置いてけ!大人しく言う事聞けば命までは取らねーよ!」
ルクスが盗賊を相手しようと馬車を下りる。
が、トックが止める。
「ルクス、これは冒険者チーム『白妙の光』が受けた依頼だであり、君は依頼者だ。手出し無用」
「おばさん、馬車の上乗るよ」
エリメールが荷馬車に上り高所に構える。
トックとアルメールが前衛、アネルが中衛、エリメールが後衛である。
「ヤバそうだったら手を出すからな」
ルクスはおばさんと駆け寄ってきたおじさんの前に守れるように立つ。
「おいおい!物分かりが悪りーな!命だけは見逃してやるって言ってんだろーが!」
「もうやっちまっていいじゃねーか!?」
「女はあんまり傷付けんなよ!こんだけの上玉ならそれなりの値が付くだろうからな!」
「どうせ売る前に楽しんで傷だらけにしちまうだろ!」
「「ちげーねーや!ギャハハハハハハ!!」」
『白妙の光』は4人、対して盗賊は10人以上。
数で
しかし、当然『白妙の光』も態度を変える気はない上に、そんな盗賊の隙だらけの状況を見逃すはずがなかった。
「先手必勝!」
エリメールの矢が弓持ちの盗賊の頭を貫通する。
と同時に、アルメールが矢のように盗賊の間合いに踏み込むと拳を叩き込む。
仲間が盛大に吹っ飛ばされたことで盗賊たちは一瞬放心する。
その隙を見逃さず、トックの剣が盗賊を肩から切り裂く。
「次!」
トックが隣にいた盗賊へ剣を振るう。
その間にも、エリメールは弓持ちをもう一人、アルメールに至っては3人のしている。
状況が追い付いた盗賊が反撃に出ようとトックへ剣を振りかぶる。
「ぶはっ!?」
が、目にアネルの鞭がヒットし、盗賊は目を光を失う。
再びトックの剣が盗賊を切り裂く。
「へ~やるなー。前とは別物だ」
ルクスは『白妙の光』の動きのよさと連携に感心する。
トックとアネルは冒険者になった最初の任務でゴブリンにより仲間を失い、自らも死の恐怖を味わった。
冒険者としてしか生きる道のなかった2人はあれから死に物狂いで
対照的にアルメールの動きは乱雑で侮りが見える。それでも盗賊をまるで寄せ付けないのは魔力さまさまといったところである。
事実、数で劣っていたはずの『白妙の光』が盗賊を圧倒していた。
それでも行商人夫妻は不安そうにしている。
「な、なぁ、君は戦わないのかい?魔力持ちってことは彼らより強いんだろ?」
「手出し無用って言われちゃったからな~。安心しなよ。あの程度の相手ならトックたちは負けないよ」
「しかし……」
「それに、この状態ならオレがあんたらを守れる。あんたらだってそっちの方が安全だよ?」
「そ、それもそうだな」
狩られる側に回った盗賊たちはあっという間に地面に転がっていく。
一方的に盗賊を倒した『白妙の光』を見て、行商人夫妻は驚く。
「ビギナー級と聞いて不安だったが……凄いな……」
トックは周囲に隠れている盗賊がいないか見て回り安全を確保すると、双子にこの先に罠がないか確認してくるように指示を出す。
双子が偵察に行くと、アネルが腰の短刀を抜く。
そして、トックと2人でまだ息のある盗賊に刃を突き立て、止めを刺して回る。
「何してるの?」
トックとアネルの行動の意図が理解できなかったルクスは質問する。
「こいつらを生かしてユーニウス村まで行くとなると荷物にもリスクにもなるでしょ?かと言ってこんな奴らを野放しにするわけにもいかない。だから次の被害が出ないように止めを刺すのよ」
「ふーん」
行商人夫妻は盗賊処理の光景に耐えきれず後ろを向く。
ルクスはトックとアネルの覚悟を心に刻みつけるように、その光景から決して目を離さなかった。
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