第32話 初の冒険

 アネルはルクスの依頼に意欲を示すが、アーギンは首を振る。


「ダメだ。北の高山地帯ならレギュラー級案件。ビギナー級のお前たちでは実力不足だ」

「でも!」

「何のために階級分けされてるか知ってるだろ?」

「任務に失敗すると冒険者と冒険者ギルドの評価が下がるからですよね?」

「それもあるが、それ以上に命を落とす可能性が高いからだ」

「…………」


 アネルは言い返せず黙ってしまう。

 そこにトックが助け舟を出す。


「ビギナー級の俺らがレギュラー級を受けるのは難しいことはわかっています。ですが、俺もルクスの依頼をこなせると思います」

「トック……。お前はもう少し賢いと思っていたぞ…………お前たちでは──」

「出来ます!北の高山地帯ってことはモンディーナ村ですよね?俺もエリメールもアルメールもモンディーナ村出身です。その辺りであれば誰よりも詳しいっすよ。土地勘のないレギュラー級冒険者よりビギナー級であっても俺たちの方が適任だと思いますけど」

「それは、そうかもしれんが……いや、しかしな~」


 アーギンは悩み込み、受付嬢の方を見る。

 受付嬢は責任を被せられないようにそっぽを向く。

 困ってるアーギンの隙を見て、アネルがエリメールとアルメールに耳打ちをする。


「「お願いします!!」」


 心が揺れているアーギンにダメ押しするため、『白妙の光』の全員が深々と頭を下げる。


「いや~、俺としてはやる気のある若手にチャンスとやるという意味でも許可を出してやりてぇんだが……」


 若者の真っ直ぐな瞳を直視できず、言い訳しながらルクスへ助けを求める。


「オレはトックたちで問題ないよ」

「マスターも昔は、手間だけ多くて実力をちゃんと測れないギルドの規則はクソだ!と言って無茶していたと奥様から聞きましたけど……あっ!?許可を出す場合は責任はキチンとマスターが持ってくださいね?」


 サラッと了承したルクスに追従するように、受付嬢も『白妙の光』を後押しする。

 アーギンは覚悟を決める。


「あー、わかった!ギルド側からは許可を出す!ルクス、お前の方からちゃんと公爵様に話しを通しておいてくれよ!それと──」


 アーギンは『白妙の光』の面々に目線を合わせる。


「危なくなったら無茶せずに必ず撤退を選ぶこと!任務の失敗より生きて帰る方がずっと大切だ!もし上手くいかなかったとしても、公爵様には俺も一緒に頭を下げてやるから!いいな!」

「失敗前提で話されてもな~」


 トックはアーギンに軽口を叩く。

 アーギンも笑顔を見せて返す。


「万が一だ、万が一。信頼してるから頑張ってこい!」

「「はい!!」」


 任務の準備のため『白妙の光』は一度宿へと戻ってゆく。

 アーギンはやはり心配そうに冒険者ギルドの扉を見つめている。


「心配すんなよ。必ず生きて返す」

「当たり前だ!そうじゃなかったら、お前が公爵様の客人だろうと関係ねぇ、ぶん殴るからな!」

「そいつはますます全員生かして戻らないとな」


 ギルドに前金を払い依頼が完了するとルクスも屋敷に戻って出発の準備をする。

 ルクスは気持ちが昂っていた。

 ルクスにとって初めての冒険。

 ドゥニージャ家に来て、多くの本を読みこの世界の知識をつけた。知識をつけた後に見る世界はどんな風に見えるのか、ルクスは楽しみでしょうがなかった。

 食料や地図などギエールが用意してくれた高山地帯の調査に必要な装備をいそいそと受け取ると、屋敷の前で『白妙の光』を待つ。

 ウェーネがついて来ようとしたが、ルクスは断固として断った。

 暫くして、『白妙の光』が公爵家へ到着する。

 ギエールも『白妙の光』を出迎えたことで、周囲からは注目が集まる。

 指名依頼を受けた冒険者たちは指名者の自宅の前で集合することが基本である。そうすることで、冒険者たちは自分たちが指名依頼を受けたんだ!と世間に周知させることができ、冒険者自身の名声を高めることが出来る。

 また、依頼者側も基本高額である指名依頼したということを世間に周知させることで、家の箔をつけたり今後冒険者ギルドに依頼した際により優秀な冒険者に受けて貰いやすくなったりするのである。

 トックはギエールに深々と頭を下げると、周囲にアピールできるよう大きな声で名乗りを上げる。


「この度は我々『白妙の光』をご指名くださいましたこと心より感謝申し上げます!必ずや公爵様の期待にう結果をお持ちいたします!」

「よろしく頼む」


 定型の挨拶を終えると、ルクスと『白妙の光』はドゥニージャ領北の高山地帯へと出発する。

 目的地への道のりはモンディーナ村まで行商人夫妻の荷馬車で行く。

 荷馬車は2台。1台には荷を満杯に積み、もう1台は半分程度積み込みまれている。

 ギエールは当然馬車を用意しようとしたのだが、ルクスが面白くないと我がままを言い出してしまった。ならば冒険者らしい方法で目的地へ向かおうとアネルが提案し、行商人の護衛依頼をついでに受けながらモンディーナ村へ向かうこととなった。

 ルクスたち一行はまずはウル・ドゥニージャとモンディーナ村の中間地点にあるユーニウス村へと向かう。

 ドゥニージャ領の北方は山岳地帯になっている。

 そのため、荷馬車は山間の道を進んでゆく。

 先頭を行く荷物が半分積まれている荷馬車の方にはルクス、トック、アネル、アルメールの4人が乗っている。

 エリメールは目には自信があると自ら見張り役を買って出たため、御者のおじさんの隣に乗る。


「いや~ラッキーだね!」

「何が?」

「だってさ、いきなりでかい任務2つだよ!マスターが言ってた通り、私たち超スピード出世しちゃうかもね!」

「確かにな」


 馬車での『白妙の光』は和気藹々とした雰囲気である。

 ルクスが首を傾げる。


「護衛もでかい任務なの?」

「もちろんだよ。行商人が運ぶ商品ってのは行商人の財産でもあると同時に、取引先の村の生命線でもあるからな。それに、場合によっては魔獣や魔族とも戦わないといけない可能性があるから、魔獣の討伐任務より高難易度に設定されてるんだよ。

 倒すより守ることの方が難しい。『漆黒の陽光』のリーダーもそういう格言を残してる。護衛任務なんて普通、ビギナー級じゃ絶対に受けられないだろうな」

「ふーん…………よくアーギンが許したね」

「そりゃもうルクスがいるからね!」


 アネルが嬉しそうにルクスの後ろから被さるように抱き着く。

 そんなアネルにムスッとしながらエリメールはルクスについて尋ねる。


「ルクスさんてそんなに強いんっすか?2人もマスターも信用してるみたいっすけど……」

「超強いよ。ドゥカスさんが10人いても勝てないと思うな私は」

「楽勝」

「ほんとっすか?」


 絶対の信頼を置くアネルと平然と答えたルクスを疑うようにエリメールはトックを見る。


「大丈夫。本当に強いから。ルクスはアルメールと一緒で魔力を持ってるからね」

「魔力を!?」


 トックの言葉にアルメールが食いつく。

 行商人のおじさんも驚いて会話に加わってくる。


「兄ちゃん男なのに魔力持ってんのか!?」

「ああ」

「は~こいつはツイてる。おーい母ちゃん、護衛の子魔力持ちだってっよ!」

「あら、そうなの!?そいつは安心だね」


 おじさんは嬉しそうである。

 アルメールが舐めるようにルクスを見る。

 その視線は、ルクスはもちろんアネルも気になる。


「アルメール、そんなにルクスを見てどうしたの?」

「へ!?いや、なんでも…………」

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