第29話 ペトラの涙
ルクスがウル・ドゥニージャに到着し、公爵家に
ルクスが部屋に来るようになってから、ペトラの精神状態はかなり改善され物に当たり散らすこともなく、部屋も綺麗に保つようになった
自由に部屋から出ることの出来なかったペトラの部屋には、社会常識の本からお
ルクスは選り好みすることなく様々な書物を手に取り、わからないことがあればペトラに聞き次々と知識をつけていった。
一方のペトラであるが、自身の魔力で他の人に影響を与えないよう、ペトラの部屋でこちらも毎日修行し続けていたが、いい成果は出ていなかった。
多くのことを知り、「見てみたい」「言ってみたい」ルクスが呟く度に、ペトラは失望されているのではないかという焦りや不安を感じていた。
特に最近のペトラは上手くいかない苛立ちから集中力を欠き、より上手くいかなくなるという悪循環に入っている。更に、上手くいかない自分を怒りすらしないルクスがよりペトラの焦燥感を煽る。
「一ヶ月、そろそろかな……」
ボソッと呟いたルクスにペトラが不安そうな顔をする。
ドンドンドンドンッ
タイミングよく部屋のドアが叩かれる。
「ルクス君いるかい!!」
「ああ」
ルクスが返事をするや否や、ギエールが部屋へ飛び込んでくる。
「手に入ったよ!!」
「そうか。じゃあ行こうか」
ルクスが部屋から出ようとするとペトラがルクスの服をつまむ。
「なんだ?」
「えっと……………………………………」
ペトラは力なくルクスの服から手を放すと俯き、黙ったまま不安そうにモジモジする。
ルクスは話を聞くためしっかりとペトラの方を向く。
「なんだ?悪いが言うことあるならサックっと言ってくれ」
「見捨てるんじゃろ?」
「は?」
「見捨てるんじゃろ!?ワシが成長せんから嫌になったんじゃろ!?」
「なッ、何でそうなった?」
「だって、いつもより帰るのが早いじゃろ!それに……部屋から出ようとしたルクスは何か……嬉しそうじゃった……」
ペトラの声はどんどん弱くなり、今にも泣き出しそうである。
ルクスは安心と呆れから息をつく。
「なんだそれ。オレがお前を見捨てるわけないだろ」
「嘘じゃ!最近は本ばっか読んでおってあまりワシに構ってくれんし……」
「あ~、それはな、その~」
「ほら!ワシのこと嫌いになったんじゃろ!」
「嫌いになってねぇよ!今の状況じゃお前に魔力のコントロールを習得させるのは難しそうなんだよ。てか、ちゃんと修行は見てるだろ!」
「時間が短くなってるのじゃ!」
「気のせいだって!」
「なってるのじゃ!ルクスも
ペトラはルクスに見捨てられるのではないかという焦燥感と、嫌われたくないと思いつつも、今この瞬間もルクスからの評価が落ちることをしてしまっているという自己嫌悪から自暴自棄になってしまっている。
ルクスもペトラの不安感を感じ取ると同時に、ペトラにそんな感情を抱かせたのは自分である自覚する。
ルクスは、大粒の涙を流しながらも唇を震わせ必死に泣くのを堪えようとしているペトラの涙を拭う。
「……悪かった。不安にさせたな。今後はちゃんと付き合うから」
「でも……でも……面倒じゃと思うとるじゃろ?……そしたらワシのことなんて──」
「嫌いになんてならない!!いなくなったりもしない」
「……本当か?」
「ああ」
「本当に本当か?」
「ああ」
我慢していた感情が決壊し、ペトラはルクスの胸の中に飛び込む。
ペトラは生まれながらに魔力量が多かった。その魔力は成長とともにさらに増大する。小さいペトラには魔力をコントロールする術などなく、無意識に放出される魔力は周囲に被害を与えるようにまでなってしまった。
魔力を持たない2人の兄はペトラとは一緒に生活が出来ないと屋敷出ていった。
ペトラが生まれた時、魔力があることを誰よりも喜んだ母も魔力の制御が出来ないペトラに舌打ちをし、封魔液の部屋に閉じ込めると屋敷を出ていってしまった。
唯一心配し、顔を見せてくれようとする父には、自分のせいで苦しそうな顔をさせてしまう。だから、もう来ないよう怒鳴った。
誰も来ない。暗い部屋でずっと孤独に耐える日々。
そんな今までの不安を、後悔を、苦しみを、理不尽を全てを洗い流すようにペトラは大声を上げて泣く。
ルクスはそんなペトラに黙って胸を貸した。
「落ち着いたか?」
「も、もう大丈夫じゃ」
ペトラは人前で初めて大声で泣いてしまったことが恥ずかしくなり、少し赤面している。
「ワシ、諦めずに頑張る!だからその、これからも……」
「ああ。幸せな生活、送るんだろ?心配すんな。オレが必ず叶えてやるから」
ペトラはルクスに背を向ける。
「そ、そそ、そこまで言うなら信じてやるのじゃ!…………わ、ワシを……その~……し、幸せにしてくれるのじゃろ?」
「約束するよ」
ルクスはペトラと約束するとギエールと一緒にペトラの部屋から出る。
部屋を出るとギエールはルクスに深々と頭を下げる。
「ありがとう。本当にありがとう。君が来てくれたこと心の底から感謝しています」
「別にまだ何もしてねーよ」
「そんなことはありません」
むず痒くなったルクスは話題を変える。
「それで?届いたものはどこ?」
「私の書斎に。念のため届いたものに関しては屋敷の者以外にはわからないようにしてあります」
ギエールの書斎に入ると、ギエールは厳重に包装された小瓶を取り出す。
小瓶の中には真紅の液体が入っている。
「これが……」
「ええ。これが封魔液です。約束通り一ヶ月で用意できて良かったです」
「普通もっとかかるのか?」
「希少なものですからね。金に糸目を付けなかったとは言え一ヶ月は早い方かと。それで、何に使うののですか?」
「実験……というか確認したいことがあってな」
ルクスは封魔液を手に取る。
「ギエール公、皿を用意してもらえるか?小さくて壊れてもいいやつ」
「わかりました」
ギエールは書斎の棚にから小鉢を取り出す。
ルクスは小鉢を受け取ると封魔液を数滴垂らす。
「それで何の確認をするのですか?」
「封魔液の性質を正確に知りたい」
「触れることで魔力が封じられることではないのですか?」
「結果的にはな。ただ、どうゆう原理でそうなってるのか知りたい」
「なるほど……?」
ルクスは小鉢から少しだけ距離を取ると、ピンポン玉程度の球体を作り出す。
「血液?それが、ルクス君の魔法ですか?」
「そうだけど?」
「水泡魔法ではないようですが……?」
「ああ。なんで?」
「いえ、何でもありません……」
ルクスは作り出した球を小鉢へと近づける。
すると、放られた球は小鉢に近づくにつれ形が崩れ、封魔液へと吸い込まれていった。
ギエールは驚きのあまり目を見開く。
「なっ!?」
「やっぱりな。消滅させたり弾いたりじゃなく吸収したか」
「わかってたんですか!?」
「いや。確信はなかった。ただ、魔力の基本操作4つの内、循環・圧縮・纏帯には違和感を覚えたが、放出にはそれがなかった」
「魔力の基本操作?私にはさっぱりだが……これで娘が魔力をコントロールできる可能性が上がったのですか?」
「本人の才能は不明だが、現状では修得が困難なのはわかった」
「か、可能性が下がったということですか!?」
「いや、上がったよ。間違いなく。ただし、あの部屋ではどれだけ努力しても一生修得できないだろうな」
「ど、どうすれば?」
「この辺で人が全くいない、かつ来ない場所ってあるか?ペトラにはそこで修行してもらう」
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