第27話 ギエールとの交渉
ルクスとドゥカスのやり取りを微笑ましく見ていたギエールは、ルクスの聞く姿勢が戻るのを待ち、ルクスの質問に答える。
「質問に戻りますが、残念ながら私は魔法を使えません。ですが、幸運なことに魔力を持って生まれました。おかげで平民だった私が貴族である妻にも拾ってもらえたんです」
「魔力があるのに、魔法が使えない?そんなことあるの?」
「ええ。魔物の中にもそう言った種族が存在します。ルクス君もあったゴブリンもそう言った種族ですね。ただ、魔力による身体強化は可能ですから、持ってない者よりは多少強いですよ」
「なるほど……」
ルクスは改めて自分が何も知らないことを思い知る。
「あのさ、なんか俺に依頼があるんだろ?」
「申し訳ない。無駄話が過ぎましたね」
無駄話によりルクスを不快にしたと勘違いしたギエールが頭を下げようとするが、ルクスがそれを制止する。
「そうじゃなくて、その~……え~と……依頼受けるからさ──」
「お待ちください!!」
ルクスの発言をギエールとウェーネが同時に止める。
ウェーネは発言をギエールに譲る。
「我々としてはルクス君とは今後ともぜひ懇意にしたいと思っております。
だからこそ、注意させていただきますが、依頼内容を聞く前に依頼を受けるという行為をしてはなりません」
「……すまん」
「いえ。こちらこそサッサと本題に入らず、ダラダラと回りくどいことをいたしました」
ギエールは優しく微笑むと本題に入る。
「私からの依頼ですが、魔法の講師を頼みたいのです」
「魔法の講師?」
「はい。私にはペトラという現在12になる娘がいまして、魔力を保持していることがわかっております。
ですが、現状私と同じく魔法を発現しておりません。
私は何としても娘に幸せになってほしい!
だからこそ、魔法を習得させてあげたいのです!
もちろん、報酬も私が用意できるだけの金額を用意させていただきますし、他に必要なものがございましたら何なりとおしゃっていただいて構いません!!
どうかよろしくお願いいたします!!」
ギエールは土下座をする勢いで机へ頭を下げる。
そんなギエールを見たことがないのか、ドゥカスとアーギンは慌てている。
しかし、ルクスは迷わず返答する。
「今その依頼を受けることはできない」
「な、何故です!?」
ギエールは必死にくらいつく。
「あんたの娘がどうしたいのか聞いてない」
「!?」
「この国では魔法が使えることが特別なことだということも、幸せを掴みやすいということもわかった。ただ、それで苦労した奴もオレは知ってる」
「……確かにそうですね。
……どうやら娘を思うがあまり、娘の気持ちを置いてきてしまったようです。では、娘に会っていただけないでしょうか?ルクス君であれば平気だと思いますので……」
「わかった」
「ありがとうございます!ああ、その前にルクス君の要望を聞いてもいいでしょうか?」
ギエールの言葉にルクスは深く息を吐くと自身の要望を言う。
「ああ。え~とだな、道中も今のギエール公の話を聞いても、オレは世の中のことを何も知らないと思った。だから……オレに知識を付けてくれないか?」
「知識?」
するとギエールの後ろに立っていたアンキーナが発言する。
「よいと思います。失礼ながら、ルクス様にはあまり常識や教養といったものがないようですし、お嬢様が先生として世の中のことを教えるということでいかがでしょう?人に教えるのは何よりも身になりますので、お嬢様にとっても良い経験になるかと」
「あの子が先生というのは非常に心配だが……どうかね?」
ギエールは悩むも自分で決めきることができず、ルクスへと投げる。
「なんでもいいよ」
「では、やらせてみようか……」
ギエールはまだ不安そうであるが納得する。
ルクスとギエールの交渉は一旦終了する。
アンキーナがドアを開ける。
「では、ルクス様、ウェーネ様、お嬢様の下へご案内いたします」
「待て。私が案内しよう。アーギン、ドゥカス、しばし待ってもらえるか?」
「承知です」
「じゃあ、アンキーナ2人を頼む」
「畏まりました」
ルクスとウェーネはギエールの案内でペトラの下へ向かう。
ペトラの部屋は屋敷の最奥の部屋である。
ペトラの部屋に続く廊下には明かりが点いておらず、光は窓から差し込む光のみ。きれいに清掃されているが、付近の部屋は使われていないのか生活感が感じられない。
ルクスもウェーネもその妙な違和感に気付いていた。
ウェーネは当然警戒する。
「公爵様、何故あのメイドではなくわざわざ公爵様が案内を?」
「彼女ではペトラを紹介することが難しいのです。お2人を部屋の前まで案内したら後は何もできませんので」
「どういうことです?」
「どうも魔力のない者はペトラの近くに長くいられないようなのです」
「……?」
「魔素超過か」
ウェーネは疑問の表情を浮かべるが、ルクスが答えを口にする。
その言葉にギエールは過剰に反応する。
「魔素超過?魔素超過とは何ですか!?」
「確か、許容量以上の魔素を体に取り込むと症状が出るって先生から教わったな」
「その魔素超過が発症しない方法とかはあるのでしょうか?全員とは言いません、せめて家族や、使用人の者たちだけでもあの子が普通関われるようにできないでしょうか?」
「魔素超過に耐性を持つには魔素をコントロールする才能が必要。才能があれば耐性を付けられるけど、なきゃ無理」
「……そうですか……」
ギエールはガックリと肩を落とす。
「けどな、ペトラって奴を他の奴と普通に関わらせることはできる」
「ほっ、本当ですか!?」
続くルクスの言葉にギエールは頭を上げ、ルクスの手を握る。
「ペトラって奴が魔力をコントロールすればいい。まぁ、これも才能次第だけどな」
「可能性はあるのですよね!?お願いできますか!?」
「あ、ああ」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
ギエールは何度も何度も頭を下げる。
もの凄い圧に引き気味のルクスであったが、娘を思うギエールの姿に肩の緊張が抜ける。
ギエールは足取り軽く、ペトラの部屋へと向かう。
コンコンコンッ
「ペトラー、起きてるかい。父さんだよ」
「……」
「今日はペトラに会わせたい方がいるんだけど~」
「……会いとうない」
「そう言わずに、なっ。魔法が使える方なんだ。もしかしたら、ペトラもみんなと一緒に過ごせるようになるかもしれないんだ」
「……ほ……本当か?」
「もちろんさ!だから、ちょっとだけでもいいんだ。会ってくれないかな?」
「ちょ、ちょっと待つのじゃ!」
部屋の中でバタバタと動き回る音がし、しばらくしてからドアの鍵がカチャンと音を立てる。
「まだ待つのじゃ」
「……」
「よいぞ」
ギエールはノブを下げてドアを開ける。
ドアがほんの少し開いた瞬間、ウェーネが飛び退く。
部屋から溢れ出した異常な魔力に、ギエールも必死に耐えてはいるがほんの少し顔が歪む。
2人の様子を見て、部屋の中で入口から最も遠いベットの上で掛布団に包まり小さくなっているペトラは俯いてしまう。
ルクスは遠慮することなく部屋に入ろうとする。
「お待ちください、ルクス様!!」
ウェーネが止める。
「ちょ、ちょっと待ってな」
そう言うとギエールは一度ドアを閉める。
「公爵様、この部屋はなんですか!?私は魔力感知には自信がございます!にも関わらず、扉を開けるまで一切感知することができませんでした!これほどの魔力です、いくら分厚い壁であったとしても全く魔力が洩れないというのは不自然です!!」
ウェーネはギエールに疑念の目を向ける。
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