第26話 ドゥニージャ・ギエール
先ほどまでの挨拶の和やかな雰囲気から一変、ドゥカスとアーギンは仕事モードに入る。
「マスター、ゴブリンのことは?」
「ああ、詳しくはそこのペーペーから聞かせてもらう。ただな……時間はかけたくないんだが、人手が足らん可能性がある……」
「どうするつもりだ?」
「とりあえず、明日公爵様に場合によっては衛兵を動かせないかお願いする必要があるかもな」
「被害がでかくならないといいが……それでなんだが、それに巻き込まれたせいで到着がこんな時間になっちまってな。公爵様を起こすわけにもいかねーんで、ルクスたちの今日の寝床を手配して貰いてーんだが……今から手配できるか?」
「ギルドの裏手にあるギルド管轄の寮に空きがあるはずだ。他はさすがに厳しいんだが……」
アーギンはチラリとルクスを見る。
「森の中で寝たこともあるし、どこでもいい」
「そうか。おい!誰か案内を頼む!」
「わ、私が!」
アネルが挙手をする。
「アネルか。ではルクス、ウェーネ殿、アネルに案内してもらってください」
「わかった」
ルクスは冒険者ギルド寮の空き部屋へ案内される。
「この部屋を好きに使っていいから」
「ありがとう。アネル」
「え、えっとウェーネさんの部屋は──」
「私は結構です」
「え?」
「少々準備がありますので、一度帰宅します。ルクス様、明日またお迎えに参りますので」
「ああ」
「では、お先に失礼いたします」
一礼するとウェーネはその場を去る。
見送るとルクスは部屋へと入る。
「ね、ねぇルクス、もし、もしよかったら……冒険者ギルドに顔出してね……」
「ああ。案内してくれるんだろ?」
「へ?あ、うん。その~……おやすみね」
「ああ。おやすみ」
アネルはそっとドアを閉める。
廊下からパタパタと走り去る音が聞こえる。
ルクスはベットに横になると目を閉じる。
翌朝、外から聞こえる声でルクスは目を覚ます。
窓の外を見下ろすとすでに街は活気づいている。人を呼び込む店主、世間話をする人々、走り回る子どもたち。
ルクスにとっては1年振りになる賑やかな人の声。
ルクスは拳に息を吹き込むと、新たな生活を始める決意を固める。
気合を入れたルクスは部屋を出ると寮母さんに体を洗える場所がないか聞く。
寮には風呂がついており、仕事が終わった冒険者のために常に開放されている。
ウル・ドゥニージャの風呂はパトリア村のものとそれほど差がない。浴槽はなくシャワーで体を洗う。パトリア村と違う点はお湯が出ることと蒸し風呂が設置されてることである。
「あんた見ない顔だね。新人かい?」
「ルクスっていう」
「そうかい。今は誰も入ってないから貸し切り状態だよ!ゆっくりしてきな!」
「ありがと」
ルクスは風呂で体を清める。
風呂でのんびりしていると寮母さんが呼ぶ。
「ルクスー!あんたに客だよ!」
ルクスが風呂を上がるとウェーネが待っていた。
「おはようございます、ルクス様。ご入浴中、お邪魔してしまい申し訳ございません」
「おはよ。ドゥカスは?」
「外に」
「そう。じゃあ行こうか」
外に出るとドゥカスの他にアーギンも待っていた。
「おはようさん!」
「おはよ」
軽く挨拶をし、公爵家へと向かう。
公爵家はウル・ドゥニージャの中心部にある。周囲は石壁に囲まれており、衛兵が見回りをしている。貴族の家といった感じである。
しかし、すぐ側では店が開かれ、住民が道を清掃しているなど生活感がある。公爵家の衛兵も街ゆく人たちと談笑している。平民との距離は感じない。
衛兵が公爵家に近づくルクスたちに気が付き、敬礼する。
「ルクス様でございますか?プラレス様から話は伺っております。少々お待ちを」
そう言うと衛兵の一人が公爵家へ走ってゆく。
暫くすると門が開く。
中ではメイド1人と執事1人が出迎える。
「お待ちしておりました。ルクス様。私、当屋敷でメイドをしております、プエル・アンキーナと申しましす。こちらは、執事のケッラー。どうぞよろしくお願い致します。」
「よろしく」
「ドゥカス様、依頼の達成確認致しました。後ほどギルドへ報告と達成報酬を上げておきます」
「ありがとうございます」
「ウェーネ様もありがとうございました。そちらの成功報酬も後ほど──」
「そのことなのですが、後でドゥニージャ公にチョットだけ交渉させて欲しいのですけど?」
「畏まりました。お話通しておきます。アーギン様、お久しぶりです。何用でしょうか?」
「うむ。近辺でゴブリンの群れが発見されてな。そのことで公爵様と少々話がしたい」
「畏まりました。お待ち頂いてもよろしいでしょうか?」
「出来るだけ早いと助かる」
アンキーナは一人一人サクサクと話を処理してゆく。アーギンまで話し終わるとケッラーに目配せする。
目配せしたケッラーは一礼して屋敷へと走ってゆく。
「それでは皆様ご案内致します」
ルクスたちは屋敷の貴賓室に通される。
机やソファー、カーペットなどの家具は高級なものを使っており貴族といった雰囲気である。しかし、装飾品は多くない。部屋の飾りは至ってシンプルである。
ルクスはアンキーナに
「椅子をご用意いたしましょうか?」
アンキーナが他の3人に気を利かせる。
代表してアーギンが答える。
「いや、結構だ。それより、我々が交渉の場にいてよいのか?何であれば外で待っているが……」
「お三方は交渉内容がわかっておられるでしょうし、成立するにせよ決裂するにせよ、結果を報告するから問題ないと旦那様から仰せつかっておりますので」
「そうか」
3人はルクスのソファーの後ろへ立つ。
コンコンコン
ドアがノックされる。
アンキーナがドアを開けると、茶色の髪と瞳をした優しそうでハンサムなおじ様が貴賓室に入ってくる。
「初めまして。私、ミラリアム王国最東領・ドゥニージャ領の領主をしております、ドゥニージャ・ギエールと申します。ミラリアム王国女王陛下、レクス・オプリス・カルギーナ様より公爵位を拝命しております。よろしくお願いいたします」
ギエールは一礼し、丁寧に挨拶する。
ルクスがソファーに座ったまま口を開こうとした時、後ろにいるドゥカスがルクスの襟を摘まんで持ち上げる。
「挨拶の時は立つんだ」
「そうなの?」
「おう」
振り向くルクスにドゥカスはギエールに挨拶するように促す。
「ルクスだ。よろしく」
「おいコラ──」
「構いませんよ、ドゥカス。よろしくお願いします。ルクス様」
「様はいらない」
「わかりました。では、ルクス君と呼ばせて頂きます。どうぞお掛けください」
ギエールに言われ、ルクスはソファーに腰を落とす。
ギエールは距離を測るように雑談から入る。
「いや~それにしても思ったよりもずっと若くて驚きました。しかも男の子とは」
「若いのはわかるけど、男は珍しいのか?」
「珍しいですよ。魔法適正は女性の方が高いようで、魔道士の数も圧倒的に女性の方が多いのです。そのため男性の魔道士は取り合いになるほどなのですよ」
「ふーん、知らなかった」
「まぁ、魔力を持つ人間自体少数ですからね」
「ギエールも魔法が使えるの?」
ルクスの呼び捨てにドゥカスは小声で注意する。
「公をつけろ!公を!ギエール公か公爵様と呼べ!」
「そうなの?すまん、ギエール公」
「構いませんよ」
ルクスは「いいんじゃん!」というようにドゥカスの顔を見る。
しかし、ドゥカスは首を横に振る。
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