第25話 ウル・ドゥニージャ冒険者ギルド

 衛兵や冒険者ギルド、そして目の前のドゥカスのルクスへの対応に、ウェーネの怒りは臨界点に達し、徐々におしとやかさが薄れていく。

 ウェーネの態度に、冒険者たちはドゥカスを不憫に思うと同時に鬱憤うっぷんが溜まっていく。


「だいたい、あなた方冒険者は──」

「なぁなぁ、冒険者ギルドって何?どんなとこ?」


 ウェーネの説教が続くと身構えたドゥカスであったが、救いの手が差し伸べられる。

 ルクスはウェーネを越えるように身を乗り出す。


「ルクス様!?」

「えーとだな、冒険者ギルドってのは俺たち冒険者が情報を共有したり、依頼を受けたりする場所だ。冒険者ってのは基本どっかのギルドに所属してるんだ。じゃねーと仕事がねーからな。興味あるのか?」

「おい!!」


 ウェーネは冒険者ギルドへ誘うドゥカスを怒鳴ると、にこやかな表情でルクスをさとそうとする。


「いけませんよ、ルクス様。冒険者は粗野で粗暴な者ばかりです。冒険者ギルドなど──」

「ウェーネ」


 ウェーネの発言をルクスが遮る。

 ルクスが発した圧によりその場にいた全員が口を閉じ動きを止める。

 静寂の中、誰かの生唾を飲む音が聞こえる。


「冒険者がどんな奴らで冒険者ギルドがどんな所かは、この目で直接見て決める」

かしこまりました」

「それと──」


 ルクスの圧が更に上がる。


「お前がドゥカスたちをどう思おうが別に構わんが、表には出すな。不快だ」

「……はい……申し訳ございません……」


 ウェーネはルクスに怒られ、まるで子どものようにシュンとする。

 ウェーネ同様、ルクスの圧に押されていたドゥカスがルクスに確認を取る。


「じゃ、じゃあ冒険者ギルドに向かうってことでいいか?」

「ああ」

「わかった」


 ドゥカスは公爵家と冒険者ギルドに一人ずつ伝令を飛ばす。

 タイミングよくプラレスが走ってきた。


「遅いぞ、プラレス」

「すまん、待たせた。それで公爵様のお客人というのは?」

「こちらです」


 ルクスの代わりにウェーネが答えると、ルクスのため馬車を開けて外で待つ。

 プラレスはウェーネが公爵の客人であると勘違いし、深々と頭を下げ丁寧に挨拶する。


「夜分遅くに大変お待たせいたしました。わたくし、ミラリアム王国ドゥニージャ公爵領ウル・ドゥニージャの衛兵長をしております、ナーワー・プラレスと申します。以後お見知りおきを」

「公爵様の客人は私ではございませんが?」

「へ?」


 顔を上げたプラレスの前でルクスが馬車から出てくる。


「子ども?」

「お前もそうなるよな」


 自身と同じ反応を見てドゥカスは嬉しそうにする。


「あ~これはこれは失礼いたしました。えー、私は──」

「はっはっはっ。なんだそれ。ルクス!こいつはここの衛兵長のプラレスだ。この街の衛兵に何か聞かれたらこいつの名前を出すといい。こちらがルクスとウェーネ殿だ」

「よろしく」

「よ、よろしく……お願いします」

「だから固いって!すまんなルクス、こいついいとこの出だから生真面目なんだ」

「いいよ。気にしないし」


 ドゥカスに揶揄からかわれプラレスは恥ずかしそうに咳払いをする。


「んんっ。それで、これからどうするんだ?公爵家に行くにしてもさすがに時間が遅いだろ?」

「とりあえず冒険者ギルドに来てもらおうと思ってる。マスターに話を通しておきたいし、今晩の寝床も提供できるだろうからな」

「なるほど。馬車はどうする?」

「馬車?」

「公爵家の馬車が冒険者ギルドの前に停まってたら夜遅いとはいえ目立つだろ」

「それもそうか」


 確認を取るようにドゥカスはウェーネを見る。


「ルクス様?」

「オレは何でも構わない。どうせこの街を歩いて回ろうと思ってたし。ウェーネは?」

「私ですか!?私はルクス様に従いますので、どうぞご随意に」

「だとよ」

「そうか。では、馬と馬車は我々の方で公爵様に返しておこう。ルクスくん、ウェーネ殿お先に失礼します」


 プラレスは部下と御者に指示を出しその場を立ち去る。


「では我々も行きましょうか!お前たちはどうする?」

「はい!俺たちもギルドに戻ります」


 見習いたちも一緒に冒険者ギルドへと行くことになった。

 ウル・ドゥニージャはパトリア村とは比較にならないほど発展している。

 街は区画整理され、家と家の間隔も狭く道路も石板を敷いて舗装ほそうされている。各建物の入り口には灯りが吊るされ夜でも街はほんのり明るい。

 田舎を飛び出し森で生活していたルクスにとっては目に付くものが多い。首を振りながらキョロキョロしている。


「そうしてると年相応だな。そんなに見るものあるか?」


 子どもらしいルクスの様子に皆ほっこりする。

 するとルクスが止まって首をひねる。


「どうした?」

「なんか……懐かしい感じがする」

「懐かしい?ルクスはこの辺の出身なのか?」

「どうだろ?違うと思うけど……似たような景色を見たことある気がするんだ。ドゥカスは?どこ出身?」

「俺はタミナス村っていう辺境の村出身だよ。お前のいたパトリア村と似たような所さ」

「ふーん」

「なぁなぁ」


 トックが会話に混じる。


「ルクスはしばらくはこの村にいるんだろ?だったらさ、アネルに街を案内してもらうといいよ」

「ふぇッ!?」


 唐突なトックの提案にアネルが変な声を出す。


「アネルはこの街出身なんだ。道案内には適任だと思うけど?」

「ッちょっちょっと、トック!──」

「わかった。頼らせてもらうよ、アネル」

「!?う、うん」


 アネルに街案内の約束を取り付けたルクスは冒険者ギルドに到着する。


「ここが我らが冒険者ギルドだ!」


 3階~4階建てくらいの高さがあるのに、天井が高いのかどう見ても2階建て。入口の扉もかなり大きく威圧感がある。

 が、周りの家々に比べやけにボロく、修繕の跡が残っている。

 大きな横の扉には「依頼者様用」と書かれた通常サイズのドアが付いており、そこだけ何故かキレイに保たれている。

 ドゥカスは扉の前に立つと両扉を押し開ける。

 冒険者ギルド内は眩しいほど明るく、ルクスは目を細める。


「お待ちしておりました。ご安心ください。人払いはしてあります」


 冒険者ギルドの中では、スキンヘッドに白い無精髭を蓄えた大柄で筋骨隆々な老人がルクスを出迎える。

 他には先に冒険者ギルドに走った人しかいない。


「あっし、当冒険者ギルドでギルド長をしております、シダ・アーギンと申します、ルクス様に置かれましては──」

「「ハッハッハッハッ!!」」


 冒険者たちが一斉に笑い出す。


「何がおかしい!?」

「何かっこつけてんだ!」

「らしくなさすぎるぜマスター!」

「そうだよ。普段通りでいな!」


 冒険者たちからヤジが飛ぶ。

 冒険者たちを代表してドゥカスが説明する。


「すまんなルクス。俺たち冒険者は公爵様には良くしてもらってんだ。だもんで、公爵様の客であるお前への挨拶もどーも気合が入っちまってんだ」

「お、おい。ドゥカス……」


 ドゥカスのルクスに対しての気さくな態度にアーギンは慌てる。


「大丈夫だって。なぁ、ルクス?」

「ああ、公爵とやらに呼ばれただけでオレは別に偉くない」

「いや、しかし……公爵様に呼ばれた魔道士様なのでしょう?」

「オレは別に凄くもない」

「な?」

「そ、そうか……じゃあ改めて、ジダ・アーギンだ。ここでギルド長をしている。何かあったら遠慮なくここを頼ってくれ!公爵様には世話になってんだ」

「わかった。よろしく」


 ルクスはアーギンから差し出された手を取り握手する。

 アーギンはウェーネにも手を差し出そうとするが、会釈を返されるだけであった。

 一通りの顔合わせが終わり、ドゥカスが本題に入る。

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