第23話 一転攻勢
恐怖は伝播する。
見習いの恐怖に中てられ『フィールムベイス』の顔にも焦りの表情が浮かぶ。
その表情をゴブリンたちは逃さない。
馬車を取り囲んでいた20匹近いゴブリンたちが一斉に姿を現し、数匹が馬車の行く手を阻むよう道へと出てくる。
「「ギャーギャーギャーギャー!!」」
ゴブリンたちは一斉に鳴き、冒険者たちを威圧する。
「なんだこの数!?どっから湧いた!?」
「最初から伏せてたんだろ!?どーすんだ!?」
「リーダー!!」
「ぜっ、全員落ち着け!!」
声をかけているドゥカスも状況の飲まれ、まごつく。
そこにルクスが声をかける。
「なぁ、このドアってどうやって開けんの?手伝うよ?」
「いけません!ルクス様!」
ウェーネが慌てて止める。
ルクスに声をかけられたことで冷静さを取り戻したドゥカスもそれに賛同する。
「不甲斐ない所を見せたがもう大丈夫だ。ウェーネ殿の言う通り馬車の中にいてくれ。君の護衛が我々の任務だ。君に助けられていたら、今後の依頼に支障が出てしまうのでな」
ドゥカスは一つを息をつくと、全体に指示を飛ばす。
「撤退は変わらないが引け腰にはなるな!前方に戦力を集めろ!前の数匹を殺して強行突破する!」
パニックになっていた冒険者たちも、流石はこれまで数多の依頼をこなしてきた冒険者。ドゥカスの指示を聞き速やかに行動を開始する。
ドゥカスを含めた『フィールムベイス』6人が馬を降り前に集まる。他の4人はそれぞれ見習いたちを自分の馬に乗せると、6人の馬を預かる。
「準備はいいな!行くぞ!!」
「「おう!!」」
先頭の6人が前方を塞ぐゴブリンに突っ込む。
ゴブリンたちは急に立ち直った冒険者たちに怯み後手を踏む。
「さぁ行け!!」
ゴブリンたちを道の端まで押し込み、ドゥカスが御者に先に行くよう指示を出す。
馬車と見習いを乗せた4人はゴブリンが敷いてた包囲網を突破する。
ゴブリンたちは獲物を逃がすまいと、
「あの人たちは!?」
ゴブリンと交戦に入った6人を気にしてトックが護衛を受け持った『フィールムベイス』のメンバーに聞く。
「黙ってろ!舌噛むぞ……」
護衛は苦虫を噛み潰した表情で返答する。
その声色からトックは察する。そして、祈るように後ろを振り向く。
その時であった。
ゴブリンが投擲した斧が最後方を追走していた冒険者の頭に当たり、冒険者が落馬する。
驚いた馬は暴れる。
乗っていた冒険者見習いの女の子は馬を御すことが出来ず、投げ出されてしまう。
経験の浅さから急に対応できるはずもなく、着地に失敗し足が折れて動けない。
「ギィギィギィギィ!!」
最も近くにいたゴブリンが嫌な笑みを浮かべ女の子へと一直線に走り出す。
涎を垂らしながら持っていた武器を投げ捨て、無防備な相手へ迫る。
パーンッ!
女の子の前でゴブリンの頭が弾け飛ぶ。
「大丈夫?」
見習いの女の子は目の前に立ってるルクスを見上げる。
ルクスは拳を軽く拭うと、安心させるように再度優しく話しかける。
「大丈夫?」
「えっ、あの……」
「あーあ、折れてるね」
そう言うとルクスは倒れている女の子を抱きかかえる。
まだ幼さの残る少年によるゴブリンの瞬殺劇。
予想だにしなかった突然の出来事に、騒がしかった戦場の空気が静まり返る。
「ルクス様!」
再び空気を動かしたのは、ルクスを追って馬車を飛び出してきたウェーネ。
そして、状況をいち早く呑み込んだドゥカスであった。
「この勢いで刈り取れ!!」
ドゥカスの号令を皮切りに冒険者たちが一気に攻勢に出る。
ゴブリンたちは予想外の強者であるルクスの登場に完全に引け腰になってしまっている。敗色が濃くなったことを悟り、攻撃の意志が弱まり逃げ出す者も出始める。
馬上にいた冒険者たちはもちろんトックも戦闘に加わり、掃討戦が始まった。
ルクスは女の子を抱きかかえたまま、頭部に投擲を受け落馬した冒険者の下へと向かう。
倒れて動かない冒険者の側に女の子を下ろすと首筋に指をあて、脈を確認する。
女の子も不安そうに覗き込む。
「その人……」
「息はある。気絶してるだけだ。防具に救われたな」
息があることを確認したルクスは、手早く頭を覆う防具を破壊し呼吸を確保する。
「ね、ねぇ、スタルトも助けることって……」
そう言われルクスは最初にゴブリンにやられた冒険者の方へ目をやる。
スタルトはゴブリンに放置され、目を開いたままピクリとも動かない。
「残念だが……もう……」
「そ、そう……」
そうしてる間にも劣勢となったゴブリンたちは冒険者により次々と駆逐されていく。
「できるだけ逃がすなよ!!繁殖されると厄介だ!!」
「潜んでる奴がいるかもしれん!!気を抜くなよ!!」
その後はあっという間であった。
逃げるゴブリンの背に刃を突き立てる簡単な作業。
護衛任務であるため『フィールムベイス』は馬車を離れるわけにはいかない上、罠も考慮し深追いはしない。それでもかなりの数討伐した。
戦いが終わった冒険者たちは汗を拭いながら道の真ん中でへたり込み、互いに
みな、窮地を脱し切ったいい表情である。
「お…お前たち…ハァ…気を、抜くんじゃない」
そう注意するドゥカスも疲労で息絶え絶えである。
「ドゥカスだっけ?あんたも休んだら?見張りならオレがやっとくし」
助けた見習い冒険者を抱きかかえたルクスがドゥカスにも休むよう声をかける。
「そういう訳には……いや、もう助けられたわけだしな、甘えるとしよう。それよりフェミナは!?」
「フェミナ?」
「ゴブリンの投擲にあった俺の娘だ!」
不安な表情で辺りを確認する。
ドゥカスの発言に冒険者たちの談笑もピタリと止まる。
「ああ!あの人のことか。さっきウェーネが馬車に運び入れたよ。心配ない、生きてる」
「……そうか……そうか」
ドゥカスは安堵しその場に崩れる。
他の『フィールムベイス』のメンバーも安堵の表情を見せ、自分たちのリーダーであるドゥカスを囲む。
ウェーネが生きていたことを知り、トックもスタルトの生死を聞こうと口を開く。
しかし、声を発する前にルクスに抱きかかえられた女の子が首を横に振る。
「おい!見習いもこっちに来い!疲れたろ!」
「は、はい!」
『フィールムベイス』は仲間を失った見習いたちを
ルクスはその輪に入らず、馬車の方へと歩く。
馬車からフェミナを運び終わったウェーネが降りてくる。
「ルクス様、流石でございました」
「別に大したことはしてない。頑張ったのは冒険者たちだ。それと、その様ってやつ好きじゃないんだが?」
「申し訳ございません。しかしながら敬称なしというわけには参りません。ご容赦ください」
「そっ」
ウェーネは休んでいる冒険者たちを一瞥するとルクスの意向を確認する。
「出発させますか?」
「いい。休ませてやりなよ」
「では、休憩後、道中を急がせます」
「必要ない。向こうがどうか知らないが、オレは別に急いでない。冒険者たちのペースで行かせてやれ。それともウェーネには何か急ぐ理由でもあるのか?」
「いえ、出過ぎた真似をいたしました」
ルクスは見張りのため馬車の屋根に座る。
下では冒険者たちが和気藹々と会話し、見習いたちにも笑顔が戻ってきている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます